
- 作者: 早川書房編集部
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2015/08/21
- メディア: 文庫
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この不肖冬木糸一、本年1月より海外SFブックガイド担当者としてSFマガジンで見開きの連載を続けており、そこから後のものは出ているものは全て読んでいるが──なにぶんそれ以前の海外SFの知識について専門家といえるほどの何かがあるわけではない。実を言うとSFを読み始めたのは2007年あたりなので、幼少時よりSF一辺倒という筋金入りともだいぶ違ったりする。だから本書については、非常に参考にさせてもらった(おいおい……不安にさせるなあ)。
「海外SFを読んでいる世代」と「読めないのが当たり前の世代」
とまあこれで本書の機能的な側面についての話は終わってしまったのでこれ以上の説明・紹介が必要なのかといえば、ないのだけど。長谷(1974年生)・藤井(1971年)対談で出ていた「海外SFを読んでいる世代」と「読めないのが当たり前の世代」という話が面白かったのでそこだけ個人的な雑感を書いてみようかしらと。
藤井 私と長谷さんの年齢は、SF文庫を全部読んでいるかどうかの端境期ですよね。私よりも一世代上には全部読んでいるのが当然な方が多いんです。でも私は全然読めていなくて、罪悪感が。
長谷 僕もです。
藤井 今、二十代、三十代前半の人は全部読めていなくて当たり前の、少し気楽な世代になる。そういう若い読者がどのように楽しんでいるのかはとても興味がありますね。
これでいえば、僕はいちおう20代にあたるので「読めないのが当たり前」の世代になる(一般的なサンプルとはとてもいいがたいようなきがするが)。確かにその通りで、僕も先に書いたように「全然読めとらんわ」と恥ずかしげもなく書いている(恥ずかしいが)ことからもわかるとおり、読めるわけがないし、全部読めていないのが「罪悪感がある」なんて感覚があるのか! と逆に驚いたぐらいだ。ただ、これは僕がSFコミュニティみたいなものとまったく関わったことがないからかもしれない。SFの話を自分主催の読書会以外ではほとんど誰ともしたことがないし。
どのようにして楽しんでいるのか……といえば、全部読まなくてはいけないわけではないから、10年20年といった単位で昔話題になったSFをちょこちょこと、思い出したように楽しんでいる。今で言えば、ハヤカワ文庫補完計画で復活している海外SFは全て読んでいるが、過去の名作を楽しむにあたって時代の影響というのは意外なほど少ないものだなと思ったりする。好き勝手にその時々で「いま読まねばならぬ」とか「全部読まねばならぬ」とかいうプレッシャーとは無縁に、好きなときに好きなものをお気楽に読めるいい世代だと、確かにそうした言い方もできるだろう。
ほんとにそんなことを言っている人がかつていたのかどうか定かではないが「SFを語るなら1000冊読んでから」的な言質が今となってはたまに「そんなことをいう人もいたね」と語られるものとなっているのも(たぶん。少なくとも僕はそういう言質はほぼみなくなった)、「読める訳がないよね」という空気が関係しているのではなかろうか。もちろんまっとうなSFファン達が「SF1000冊読まないと語れないとかそんなバカなことがあるか」と声を上げてきた結果でもあるのだろうけれど。
一方「全てを読めない」ことは怖さもあって、歴史的な語り方がどうしても難しくなってしまう。ディックやティプトリーの時代を僕は「そんな時代もあったんだなあ」と懐かしく思い、点として個々の作品を読むだけでその時に同時に刊行されていた様々な作品を横軸で、空気感として感じ取ることができない。これこれこういう作品とこういう作品とこういう状況の中にこの作品は位置づけられる──歴史の中に新しい作品を付け加えていく作業を、僕は自覚的にやってこなかったのだが、それは自分がSFを読み始める前(2007年前後)の作品を点でしか読んできていないことと関連しているところはある。
もちろんこうした歴史を辿り直すようなガイドブックを読むことによって流れ、それ自体は大まかに捉えられるものの、どうしてもそれは体験とは別個の知識的なレベルにとどまっているものだ。今後は全てを読む、というよりかは作家単位や特定のテーマ単位で限定されたSF史を追っていく形が主流になるのかもしれないなあと思いつつ。
『海外ミステリ・ハンドブック』

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1.キャラ立ちミステリ、2.クラシック・ミステリ、3.ヒーローorアンチ・ヒーロー・ミステリ、4.<楽しい殺人>のミステリ、5.相棒物ミステリ、6.北欧ミステリ、7.英米圏以外のミステリ、8.エンタメ・スリラー、9.イヤミス好きに薦めるミステリ、10.新世代ミステリ として『その女アレックス』までばっちり入っております。
その他作家論としてジェフリー・ディーヴァー、デニス・ルヘイン、トマス・ハリス、マイクル・コナリー、アガサ・クリスティー(について書いているのは二人:数藤康雄さん、若島正さん)、P・D・ジェイムズがそれぞれ。ちと寂しいのはすべて解説や雑誌に載せられたものの再録だというところだけど。他、有栖川有栖さんの短いミステリエッセイが一つと、皆川博子さんのマイ・フェイバリット・ミステリの雑誌再録原稿が載っております。