基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

早川書房の電子書籍版「海外SFセール」がきたので個人的オススメを紹介する

早川書房が突然電子書籍版の海外SFセールをはじめたので、SFマガジンで海外SFブックガイドの連載を担当していてかつブログも書いている身なので、これはまあ、さすがになんかオススメとか書いておいたほうがいいかという気持ちになってきたので今この記事を書いている。いろいろな角度からオススメしたい本ばかりなので全部取り上げられるわけではないが、まあ軽い目安としてご活用ください。

まずはこれを読むと良いのでは??

ハヤカワ文庫SF総解説2000 (早川書房)

ハヤカワ文庫SF総解説2000 (早川書房)

ハヤカワ文庫SF総解説2000。2015年に出た『ソラリス』文庫版によって2000番に到達したハヤカワ文庫SFを記念して、2000冊分のSFを総解説した一冊。ほとんどの作品は340文字で的確に、シリーズ物などは1ページまるっと使って解説している、とりあえずこれを読んで気になる作品を探してみたらどうだろうか。

ドゥニ・ヴィルヌーヴとディック

アンドロイドは電気羊の夢を見るか?

アンドロイドは電気羊の夢を見るか?

ドゥニ・ヴィルヌーヴ『ブレードランナー2049』は本当に素晴らしい映画で、プロット、レイアウト、構図、過去作へのオマージュから継承まですべてひっくるめた静の画の凄まじさに感動していると最後まで連れて行かれてしまう作品だった。『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』はもともとの『ブレードランナー』の原作にして、SFとして傑作。映画とも大きく話が異なるので二度おいしい。
あなたの人生の物語

あなたの人生の物語

ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督作では『メッセージ』もあるが、こちらの原作はテッド・チャンの短編小説「あなたの人生の物語」で、これはこの世のSF短篇の中でも最上の出来の一作だ。珠玉の短篇集『あなたの人生の物語』に収録。あ、あとディックだと『高い城の男』もアマゾン・プライムのドラマ版と合わせてオススメだ。

あの話題作も安くなっている

火星の人

火星の人

有名作からだんだんマイナへ寄せていこうと思っているのだがとりあえず話題作から。リドリー・スコットがヤバイぐらいの傑作として映画化した『火星の人』もセール対象。これ、映画がおもしろいだけじゃなくて原作も近年のハードSFとしては異常に読みやすく、科学がそのままプロットを創り上げ、笑いながら人類が築き上げた科学の偉大さにひれ伏すほか無い傑作なのでまだ読んだことがなければ必読である。
huyukiitoichi.hatenadiary.jp
ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン 上 (ハヤカワ文庫SF)

ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン 上 (ハヤカワ文庫SF)

毎年一回、その年のSFを小説家や評論家へのアンケートでランキングする『SFが読みたい!』の昨年版で、海外SFの第二位を獲得した『ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン』もセール対象になっている。これ、ロボが前面に押し出ているが実体としては『高い城の男』meetsニンジャスレイヤーみたいな話で、抜群に出来が良い。ちなみにSFが読みたい第一位を獲得したレジェンド作家ハーラン・エリスンの傑作短篇集『死の鳥』もセール対象品。こちらは魂持ってかれる短篇集なのだ。
死の鳥 (ハヤカワ文庫SF)

死の鳥 (ハヤカワ文庫SF)

huyukiitoichi.hatenadiary.jp
忘れちゃいけないのがケン・リュウ『紙の動物園』で、又吉直樹さんが紹介したことでガッと売れた作品だが実際に短篇としての出来が抜群にいい。中国で生まれ、現在アメリカで暮らしている著者の経歴を存分に活かした多国籍な文化と歴史が入り乱れる独特の作品もあれば、鮮明なアイディアを元にまとめあげる作品あり、わりと使い古されたアイディアをケン・リュウ流に描写した作品もあり(それがきちんとおもしろい!)、ハズレ無しの短篇集である。表題作には間違いなく泣かされるだろう。
紙の動物園 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

紙の動物園 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

いいからイーガンを読め

クロックワーク・ロケット (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

クロックワーク・ロケット (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

現代最高のSF作家と早川書房ではよくコピーがついているイーガンの作品もわんさかセール商品になっている。もともとゴリッゴリのハードSFで科学の最先端を突き進み続けていたイーガンだが、最新邦訳作である〈直交〉三部作はなんと、我々の世界とは異なる物理法則を持つ宇宙を一個まるっと作り上げ、そこで「知的種族の存亡を賭けた死に物狂いの"知的探求"」と、「この宇宙ならではの無数の科学革命」を描いてみせる。山はあまりに高いが、とはいえのぼった時の景色は他には代えがたい爽快感がある。クッソおもしろいのは確かなので買っておいといたらいかがか。
huyukiitoichi.hatenadiary.jp
しあわせの理由

しあわせの理由

〈直交〉三部作をいきなりぶつけるのはあんまりなのではじめてのイーガンを模索すると、短篇なら、脳内の状態を自由に変更し幸せをいくらでも感じ取ることができるのなら──といった科学的ワンアイディアが幸福、宗教などのテーマに見事に接続された短篇集『しあわせの理由』。長篇なら人間の意識・精神をコンピュータに完全にコピーできるようなった世界で"永遠"を描く傑作『順列都市』あたりがいいのでは。イーガンを何作か読んでいる人は読んでいないものを好きなだけ買ってください。
順列都市〔上〕

順列都市〔上〕

なんといってもコードウェイナー・スミスよ

スキャナーに生きがいはない 人類補完機構全短篇 (ハヤカワ文庫SF)

スキャナーに生きがいはない 人類補完機構全短篇 (ハヤカワ文庫SF)

コードウェイナー・スミスの人類補完機構全短篇集もセールになっている──が、最終巻である3巻だけは発売時期が近いためかセール対象外! 悲しい! でも今なら3冊セットが2200円ちょっとで買えるのだ。おもしろい短篇、美しい短篇、うまい短篇、この世には素晴らしい短篇が多々あるが、コードウェイナー・スミスが作り上げる短篇はただただ"凄まじい"。SFでありながら神話であり、セリフは一言一言がとてつもなく美しく、キャラクタの愛らしさは現代に至ってなお最強。人類補完機構の存在する未来史ほど魅力的で、そこの知れない架空史が紡がれることが今後あるのだろうか──とついつい心配になってしまうぐらいの傑作群である。

最後にまとめてざっくりと紹介

最後にまとめてざっくりと紹介しよう。けっこう古典系もたくさん入っている。クラーク『幼年期の終り』や『アルジャーノンに花束を』もあるし、ブラッドベリ『火星年代記』、オーウェル『一九八四年』、『ソラリス』も(刊行は最近)ある。新装版のディックもだいたい入っているし、一気に揃えるにはいいタイミングだ。

ソラリス (ハヤカワ文庫SF)

ソラリス (ハヤカワ文庫SF)

コニー・ウィリスも『犬は勘定に入れません』『航路』『ブラックアウト』『オールクリア』と一通り揃っている。あまりにも洗練されたプロットで、一度読み始めると術にでもはめられたかのように離脱するのが困難になってしまう作品群なので読んだことがない人がいたらオススメしたいところ。あと、最近の作品だとジェイムズ・L・キャンビアス『ラグランジュ・ミッション』は現代に宇宙海賊がいるとしたら何を狙い、どのように奪うのかをリアルに描いたSFでこれも素晴らしい。

ミリタリーSFもハインライン『宇宙の戦士』を筆頭に、最近のだと『女帝の名のもとに』がオススメで──とこんな感じであげているとキリがなくなってしまうのでこんなところで切り上げよう。自分でも探してみてね! ではでは。