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世界最長のSF《宇宙英雄ローダン》リブート企画、読みはじめるには最高のタイミング──『スターダスト』

スターダスト (ローダンNEO 1)

スターダスト (ローダンNEO 1)

《宇宙英雄ローダン》シリーズは、ドイツのSF作家が集結し、リレー形式で毎週連載を続け総話数が2900話を超える世界最長のSF小説である。話数で言われてもわからないと思うので、日本での刊行形態の話をすると、2話入って薄い文庫1冊の分量。つまり、まあざっと1500冊ぐらいの文庫がひとつのシリーズででているようなイメージだ。複数人で書き継いでいるとはいえ、とちょっと普通の作品ではない。

今のところ日本ではざっと550巻ほどでている。そんだけ刊行されているわけなので、ちゃんとそれを買い続けるファンがいて、日本でも売れているらしい──とはいえ、こういってしまってはなんだが、550巻もでている話を今から読もうとする人間はほとんどいないだろう。25巻毎に大きな物語が終わるようになっているので(サイクルと呼ばれる)途中から読み始めることも可能なのだけど、普通読まないでしょ。

というところでこ本書『スターダスト』が登場する。これはドイツで2011年から刊行が開始された《ローダンNEO》と名付けられたシリーズの第一巻で、元祖《ローダン》を現代版にリライトし、25巻の"サイクル"を8巻に圧縮して展開する、いわばリブート企画だ。何しろ元祖の1巻も原書刊行日から、60年近くの月日が流れてしまっており、今読むと世界情勢もテクノロジー面でも(何しろパソコンの概念はあっても実物はほとんどなかった時代だし)、あらゆる要素が古くなってしまっている。

そこで、《ローダンNEO》では物語の開始地点を1971年から2036年に改変し、キャラクタの性格などもアップデートして、サイクルを短くまとめあげることでより太い物語となって帰ってきたのである。この先数十年で《ローダン》にどんな新展開があるのか見当もつかないが、本日から前後10年ぐらいのスパンで今日ほど"ローダンを読み始めるのに最高のタイミング"は存在しないだろう。もちろんつまらなければ読む意味はないわけだが、読んでみたらこれがあまりにもシンプルにおもしろい。

今後発生するさまざまな展開と世界観の広がりを許容する、"強く太い"物語だ。

簡単にあらすじとか世界観とか

物語は、NASA所属のパイロットであるペリー・ローダンを筆頭とする宇宙飛行士らが、何らかの理由によって連絡の途絶えた月面基地へと調査に赴く場面から始まる。ローダンらが乗った宇宙船は打ち上げに成功するが、人類を超越した技術力によって放たれた電磁パルスによってコンピュータが使用不可に。手動操作に切り替えギリギリ月面へと到着した彼らが遭遇するのは、直径500メートルの巨大な宇宙船だ。

明らかに人類外の文明によるものであるし、技術力が人類を超えているのは明らかだ。しかも、恐らくは人類に対して敵意を持っている。ローダンは、自分たちだけでなく"人類の生き残り"をかけて、人類の価値を認めさせるための決死の交渉を仕掛けることになる。人類は戦争をするし、飢えは根絶されないし、政府は崇高な理想のもとに容易く拷問を命じる。人類は愚かかもしれない──だが、夢を抱くと。

「否定のしようがありません。それが人間という生き物です。こうした行為はどれも人間的だ。しかし、それだけが人間の本質ではありません。人間には、見返りを求めず他者に何かを与えようとする慈悲の心があります。到底許せない仕打ちを受けながら、その相手を許す寛容の心があります。それに、私たち人間は夢を抱く」
 あと五メートル。
「今あなた方の前にいる二人の人間、すなわち私とこの友人には、夢があります。私たちは人間の善を信じている。地球という枠にとらわれず、人類の負の歴史から解き放たれた、新しい生き方があると信じている。自分自身にも、人類全体にとってでもです。私たち人間は地球というゆりかごで育った。しかし、その故郷は宇宙だと私たちは信じているのです」

ローダンによる決死の交渉と交互に、地球サイドの物語が語られ、人類が直面している厳しい状況も明らかになっていく。イラン人民共和国はロシアと組んで、イラクに対して戦術核兵器の投入を計画している。代理戦争はアメリカとロシアの直接戦争に発展する危険性があり、中国はその機に乗じて台湾を奪還しようともくろんでいる。その上、北半球の主要農業は軒並み不作、石油、天然ガスといった資源も壊滅的、供給不足が続いている。膨れ上がった負債は、返済不可能なポイントが近づいている。

『世界は今、臨界点を迎えている。多くの権力者が自国の惨めな惨状を打開するには起死回生の一撃を放つしかないと考えているのよ。戦争がはじまるわ、ジョン。奇跡でも起こらない限り、私たちには未来はない』と、そんなギリギリの状況なので、未知の技術を持ち帰る可能性のあるローダンを各国が放っておくはずがない。仮にローダンの交渉が成功したとしても、一国だけが飛び抜けて強大な軍事力を有する状況を許さないので、どうせダメなら道連れだとばかりにローダンへの攻撃を決行する!

果たしてローダンは交渉を成功させることができるのか? そしてローダンの命を狙う諸隊国の試みを無事回避することができるのか? ってこの後ローダンはずっと主人公を張るんだから回避するに決まっているわけだけども、状況は第一巻にして全面核戦争一歩手前という危機的な状況(ルビ:クライマックス)だ。

おわりに

基本的にプロットは同一のはずなので、これから先、物語は銀河も次元も時間も超えて広がっていくはずだが、いくら物語が続いても倒れない主題と、広大な世界観を育てることになる芽は、この第一巻の時点で丹念に撒かれている。第一シーズンとなる第八巻までは毎月刊行(八月は第二巻『テラニア』が刊行)するようなので、ひとまずそこまでは追ってみてはどうだろうか。作品の顔であるカバーイラストレーターについては相当考えたと思うんだけど、toi8さんのカバーは素晴らしいの一言。

テラニア (ハヤカワ文庫SF)

テラニア (ハヤカワ文庫SF)