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最高の青春時間SFゲーム──『ライフ イズ ストレンジ』

ライフ イズ ストレンジ - PS4

ライフ イズ ストレンジ - PS4

本作の発売日は海外版は2015年、日本版は2016年で最新作というわけではないんだけれども、非常に完成度の高いゲームなのであらためて記事を書いておきたくなった(別媒体で近々レビューを書く機会があるのでプレイし直していたのもあって)。

全体の雑感

舞台となるのはアメリカの架空の田舎町であるアルカディア・ベイ。

そこの学校に通うため、5年ぶりに戻ってきた女子高生であるマックスが、突如として時間を巻き戻すことのできる能力を発現することから物語は始まり、プレイヤーは何度も選択を選び、ダメだったら巻き戻して、よりよい未来を選択できるように人を、街を変えていく──という、シンプルなシステムである。ノベルゲーマーたちは選択肢があればセーブして、選ばなかったケースを必ず確かめてみるものだが、本作はそのセーブ&ロードがそのままゲームシステムに仕込まれているようなものだ。

マックスがその”時を戻す能力”を用いて、この街に訪れる危機、謎に迫っていくストーリィも本当に素晴らしい。全5エピソードから成り、毎回エピソードの終盤では強いヒキが用意されており、マジかよ、となるかマックスとクロエが織りなす光景が美しすぎる……となるかのどっちかで、エピソード1をやったらもう最後まで一直線だろう。それまで隠されてきた事実が明らかとなる終盤、そして時を戻すことのできるマックスが”最後の選択”を迫られる瞬間。その楽しさは、やはり自分でプレイヤーを動かし、一つ一つの選択を積み上げていくプレイヤーならではの物だ。

加えて、作中を流れる実在するフォークソングを中心とした楽曲選定の素晴らしさ。自分の選択によって、聖母のようにも悪魔にもなる主人公マックスの愛らしさ、その相棒でありちょっと友達以上恋人未満的な危うい雰囲気を持つ青髪のクロエ、イケオジの先生に最初は気に食わねえ奴らだと思っていた周辺の同期生たち──と魅力的なキャラクタ達と、テンポの良い会話の数々の中で暮らすうちに、本当に自分がアメリカの学校で女学生として生活を送っているような気分になってくるのも最高だ。

時を戻す能力を持っているとは言えマックスは普通の女学生なので、当たり前のように学校生活を送っているのがいいんだよね。授業を受けて、広い学校でワイワイガヤガヤ喋り、パーティに行き、クロエと一緒に夜のプールにしのびこんでキャッキャウフフし、寮の生活を楽しんで──と本筋無関係に学生生活を楽しんでしまう。

追いかける謎とは

アルカディア・ベイには、警察や学校に金をばらまいて、街への乗っ取りを仕掛けている富豪のブレスコット家が存在している。マックスは、ブレスコット家の子供であり権力を盾に偉そうな態度をとるネイサンと親友だったクロエの揉め合いを(時を戻す能力をここで発現)一時的に解決し、その後旧交を温め直すのと同時に、ネイサンがこの学校でしでかしてきた悪事の数々を追求するために共に動き出すことになる。

同時に、ネイサンが関わっているとみられる数ヶ月前から行方不明となったレイチェルの捜索、クロエと義理の父親の確執、いじめられ自殺を企てるケイトの救出、そして街に迫るすべてをなぎ倒す巨大な竜巻の出現……とクロエはその能力を発現してから一週間ほどの間で、数々の大きなイベントに直面することになる。しかも実はそのすべてがつながっていて──というプロットの出来はす抜群といったところ。

果たしてマックスは、レイチェル失踪の真相を突き止め、ケイトを救出し、クロエを救い出し、街に迫る竜巻をなんとかすることができるのか──ぱっと読んだ感じだと「竜巻版君の名は。かな?」と思うかもしれないが、時を戻し未来を変える度に何か別の形で不幸が現出し続け結果的にクロエが救えないので、死に物狂いでタイムリープを繰り返す話であり、百合版シュタインズ・ゲートといったほうが近いだろう。

マックスとクロエは最初のうち、普通に気持ちのいい女性の友情だなあと思ってプレイを続けていくと途中で二人でキスをしはじめたりして(これも選択次第だが)、「おいおい、ちょっとおもったよりも友情の範囲超えてるよね」と思えたり、百合というか共依存的だったりで、わりとそのへんの関係性もおもしろいところだ。

SF的におもしろいとこ

基本的に本作はオーソドックスな時間SFの流れを踏襲している。過去を変えることで、未来も変わる。だからマックスは自分の望まぬ未来が訪れた場合少し過去に戻って修正して、望む未来を引き寄せる。でも結果としてそれが望まぬ未来を引き起こすこともあり──という「カオス理論」やら「バタフライ・エフェクト」も重要な要素になってくるのだが、それはそれ、時間SFとしては一般的な題材でもある。

SFアイディア的におもしろいのはマックスが戻せるのはほんの短時間、おおよそ数分ぐらい? で、それ以上の過去に戻る場合には「自分が映っている写真」か「自分が撮った写真」を使う必要があること。写真に意識を集中することで、マックスはその写真の場面まで戻ることができるが、未来の意識を持ったマックスが行動できるのはその写真にとられた限定的な空間だけとなる。なので、いくらでも過去に戻り好きに未来を改変できるわけではない、というのが本作にうまい具合にマックスの行動に制限を与えて話をおもしろくしている。なんでもありじゃおもしろくないしね。

ゲーム的におもしろいところ

操作性は快適で、時間を戻すのも簡単にできるので気軽に色んな結果を試すことができるのがいい。とろうとしたビンを落として壊しちゃった、ぐらいで気軽に時を戻すので「もっとその能力大切にせーや」と思ったりもするのだけれども、それはそれとして気軽に時を戻せるのはスーパーヒーローになったみたいで心地よい。気軽にいろいろな選択をやり直せるからこそ、いざという時に選択をやりなおせなくなった時の緊張感も凄いことになるなど、ゲーム性とプロットの演出の相乗効果も素晴らしい。

アルカディア・ベイは架空の街だが、オレゴン州にあるという設定になっており、その緑豊かで牧歌的な、時代に取り残されているような田舎っぽい風景はノスタルジックな郷愁を思い起こさせる。また、選択をしやり直していくゲームだが、短期的には選択の結果が予測できない──良かれと思った選択が、かなり後に間違いだったとわかるケースなどもあって、そういう時の絶望感は”時が戻す能力があっても、万能ではない”というマックスの絶望感とシンクロしているのもゲーム的な魅力だ。

おわりに

総プレイ時間としては12〜15時間ぐらいだろう。そんなに時間がなくとも、長い映画を観ている気分でまだやったことがなければぜひやってもらいところ。なにげにマックスが古典的なSF好きでブラッドベリ・ファンだったりブレードランナーを観るシ~ンが入っているのもSFファンとしては評価が上がる。

前日譚ももうすぐ発売。続編も製作中だとか。燃える。

ライフ イズ ストレンジ ビフォア ザ ストーム

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