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けものフレンズのプロデューサーが語る、アニメビジネスの金の流れ──『アニメプロデューサーになろう! アニメ「製作(ビジネス)」の仕組み』

福原慶匡さんは、今では『けものフレンズ』の制作会社ヤオヨロズのプロデューサーとして(製作委員会と揉めた件も含めて)有名だろう。とはいえ、その前から直球表題ロボットアニメやら、てさぐれ!部活ものやら、みならいディーバやら、バラエティ番組の手法を3dアニメと組み合わせた実験的な作品に関わっている。そうしたアニメ群が通常のアニメの制作手法からはかけ離れていたこともあって、僕のその頃の印象としては胡散臭い人間であった(ダテコーともやたらと揉めてたし)。

それに加えて昨年は『けものフレンズ』事件もあったし、本書も暴露本とまでいかずとも、時流に乗ってパーッと書き上げられた本なんじゃないかと疑っていたのだけれども、読んだら驚くほど真っ当なアニメビジネスの解説本としてまとまっており、勉強になった。暴露話なんかまったくなく、「アニメプロデューサーになろう!」という書名ではあるものの、なり方が書いてあるのは最終章だけで、他の部分はアニメビジネスではどうやって金が発生しているのか? という詳細な解説になっている。

たとえばアニメーターが恐ろしいほどの低報酬で働いており、クリエイターへの還元がなされていないとされている現在の状況はなぜ生まれているのか。諸悪の根源とも言われる製作委員会方式(アニメ作品を作るリスクを分散させるため、複数の会社が制作費を持ち寄る)はなぜ生まれ、いまだに用いられ続けているのか。アニメ作品の売上というとまずパッケージ(DVD・BD)が頭に浮かぶが、それ以外の回収手段には何があり、どれぐらいの比率を占めるのか。製作委員会はどのように放送局を決定するのか、AmazonやNetflixへの1話あたりの配信権利料金はいくらぐらいなのか。

そういった情報が詳細な金額と共に明かされていくので、1話30分の1クール作品を作るのに制作費は深夜アニメで1.8億ぐらいで、宣伝費など諸々を合わせると2億〜3億ぐらいだというが、本書を読むことでどこにそれだけの金がかかって、どういう構造でそれを回収するのかがおおむねわかるのが凄い。『本書は「この先」を作るために、アニメーションプロデューサーに必要な「今現在の常識」を一気に学べる本をめざしました。アニメビジネスの未来のために、この本をぜひ使ってください。』

どれだけかかって、どうやって回収するのか

1クールアニメの費用2〜3億円の内訳としては、まず1.8億円が制作費(仮の話だが)。次がテレビで放映してもらうためにかかる「提供料」。これがキー局で深夜枠だと、どんなに安くても月1000万円以上で3ヶ月で3000万円。そこに加えて宣伝をする必要があり、だいたい1作あたり1000万円〜2000万円ぐらいが相場だという。

その後は放映され、パッケージになって回収されていくわけだが、製作委員会方式ではどのように分配されるのだろうか。本書がどのような情報の粒度で書かれているかを紹介するためにも、ちと該当部分を(かなり単純化した例だが)引用しよう。

 たとえば各社が2000万円ずつ出資し、5社で1億円の委員会を作ったとします。その中で、パッケージ制作の窓口権を持つA社が1本2000円のDVDを1万本売ったとしましょう。売上のうち45〜50%は流通(問屋)と小売の店舗にいきます。委員会には、手数料として売上の20%前後を戻すとすると、トータルの売上が2000万円となり、流通と店舗に半分の1000万円が取られ、20%の400万円が委員会に入ります。残り600万円が、A社が自分の窓口によって得る収入になります。委員会では、この400万円の収益を出資比率に応じて割ります。5社が同じ金額を出資していたとすると、1社あたり80万円が分配されます。

という具合に、かなり細かく、手数料まで含めた金の流れをみていってくれる。製作委員会方式では製作会社には制作費だけが支払われ、こうした分配金は(制作委員の中に入っていない限りは)支払われないうえに、作品の権利も持てないというのが現状の問題の一端ではある。引用部に書かれている「窓口」というのは、パッケージ担当や音楽担当、グッズ担当といった担当分野のこと。製作委員会に入り、なおかつ窓口権をとることで、責任と実務を担う代わりにそこで稼ぐことができるのだ。

多岐に渡る金の流れ

本書で凄いなと驚いたのは、扱う内容が多岐に渡るところにある。金を集めるための製作委員会以外の資金調達法として、ファンドやクラウドファンディングなどの各種方式を検討・紹介し、声優の集め方、声優のランク制(ランクで金額が異なる)、声優事務所はどうマネタイズしているのか? に触れ、映画制作の金の流れ、CDの売上配分や音楽の著作権、著作隣接権を語り、パチンコでいくら儲かるのか、海外配信する際の注意点や権利上の問題点などなど、話題は多様かつ緻密である。

たとえば、声優事務所は声優からマネージメントフィーを2、3割しかとらないので、キャスティングを1本やっても声優のランクがジュニアだと月に1.5万円☓4週分☓2分割で事務所に入るのは1万2000円しかなく、とても経営が苦しい。そのかわりに、事務所で声優養成所をつくると、年間の授業料が50万円×100人集められれば売上が年間5000万円入る。他にも、キャラソンは「歌唱買い取り」で声優から権利を買い切ることが多く、金額は声優の格によって5万円から10万円で、イベント出演も同様に1回5万から10万円(人気声優は除く)など「へえ〜」と思う情報が多い。

アイドルアニメ等、歌が作品において重要な位置を占めている作品の場合、その作品の放映期間やプロジェクトが継続している間は他の歌ものアニメ作品への出演や、歌唱すること自体がNGになることもあるという。ウーン、そういえばあのアイドル作品の声優は他のアイドル作品には出てないな……とか少し考え込んでしまった。

おわりに

本書では現状のアニメ業界の金の周り方についてのいくつかの問題点の指摘なども行われるが(製作委員会方式では制作会社に権利が残らず、利益配分もされないなど)福原Pの場合、アニメ制作会社がより儲かるようにする・有利にことを進めるために実際に行動を起こしているところも(読み終えた今となっては)好感度と説得力が高い。

アニメプロデューサーになりたくて読むのはあんまりオススメしないが(アニメ制作会社に入って制作進行になって地獄の日々を耐え抜くしかないだろう)、アニメビジネスを知りたければオススメの一冊だ。