基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

2018年 おもしろかった本とか

もう年末も年末なので、あまり気負わずに、がっつりともいかず、さらっとなんとなく2018年おもしろかった本について振り返ってみようかと。本といいながらゲームの話もするかもしれないが。しょうがないね、ゲーム好きだからね。
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おもしろかったSF

零號琴

零號琴

さて、おもしろかったSFについて。大まかなものは週刊読書人の回顧総評でけっこうがっつり(2300文字ぐらい)書いてしまったので、総体を知りたい人にはそっちを読んでもらいたいところ。取り上げておきたいものとしては、飛浩隆の『グラン・ヴァカンス』以来16年ぶりの長篇な超弩級の音楽SF『零號琴』。読んだ人間から震え、卒倒などの証言が相次ぐ読む麻薬的な一冊(ほんとに、描写のカロリーが高すぎてクラクラしてくるんですよね)で、とりあえず読んでおいて損はないかと。
ランドスケープと夏の定理 (創元日本SF叢書)

ランドスケープと夏の定理 (創元日本SF叢書)

新鋭としては創元SF短編賞の受賞作を表題作とした、高島雄哉『ランドスケープと夏の定理』がいい。異なる知性の会話を成立させる完全辞書が存在することを示す〝知性定理〟があるのか? という問いかけから、知性にまつわる三つの定理を証明していくスゲーハードSFにしてド天才な姉に振り回される姉SFでもある。
半分世界 (創元日本SF叢書)

半分世界 (創元日本SF叢書)

創元SF短編賞出身者としては他にも、門田充宏の『風牙』は抽出された記憶データに潜り込み、他者に理解可能な形に翻訳する記憶翻訳者たちの物語で、SFギミックを用いて人間の複雑な内面や家族間の関係性をあぶり出していく文芸的な一冊で素晴らしい。同じく創元SF短編賞出身者石川宗生『半分世界』は、道路側の前半分が綺麗さっぱり消失している奇妙な家+家族四人と、それを観察しいったいこれはなんなのだと議論し家族の生活をウォッチする人々の物語が描かれていく表題作を含む、割合意味不明な状況・世界をどこまでも緻密に描き出していくストレンジな傑作だ。
NOVA 2019年春号 (河出文庫 お 20-13)

NOVA 2019年春号 (河出文庫 お 20-13)

年末にドバっと凄いアンソロジーが出たのも最近のことなので記憶に新しい。『NOVA 2019年春号』は小川哲、佐藤究、赤野工作やら飛浩隆やら小林泰三やら、新鋭からベテランまでそれぞれ自分の持ち味をバーンと活かした(飛浩隆とかは新境地だけど)傑作揃いで最高だし、東京創元社から出た『Genesis 一万年の午後』は高山羽根子が怪獣が空から降ってきてそれを持ち上げる謎の競技がある世界を描くスポーツ物を書けば、倉田タカシが生首を意思の力で落とせるようになった人物を描き、と変な話(だけじゃない)が詰まっている逸品。SFとはズレるが、日本ファンタジーノベル大賞作家21人が書き下ろした巨大アンソロジー『万象』も実力派揃いでどれを読んでもへんてこで、洗練されていて、わりと頻繁に象が出てくる愉快な一冊だ。
折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ 5036)

折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ 5036)

  • 作者: 郝景芳,ケンリュウ,牧野千穂,中原尚哉,大谷真弓,鳴庭真人,古沢嘉通
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2018/02/20
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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海外SFだと、中国作家の短編を集めた『折りたたみ北京 』が中国の文化を知り、その作家層の幅広さ、実力の高さを知れる恐ろしく充実した一冊。大長編としてはニール・スティーヴンスン『七人のイヴ』が、月が突如七つに分裂し、破片が地球に降り注ぐことで人が住めぬ土地になる──という未曾有の事態を真正面から捉え、科学と政治と人類の果てなき生存能力を描き出したド傑作で外せない。

SF以外

不思議の国の少女たち (創元推理文庫)

不思議の国の少女たち (創元推理文庫)

SF以外で印象に残っていたのは、異世界から〝帰還した後〟自分が元いた異世界へ戻りたいと願う少年少女たちが暮らす寮を舞台にした『不思議の国の少女たち』。あとは、全長1.6キロメートルに及び、思念的ななにかで周囲の人々の行動に干渉する〝竜〟がいる世界の日々を綴る『竜のグリオールに絵を描いた男』は僕がこれまで読んできたファンタジィの中でもベスト3には入るものすごい作品。
元年春之祭 (ハヤカワ・ミステリ)

元年春之祭 (ハヤカワ・ミステリ)

ミステリとしては黒人を主人公に据え、ギャング同士の抗争が実際に盛んだというサウス・セントラル・ロサンゼルスを舞台に、貧困層の生活や文化をみっちり描きこんでいくジョー・イデによる『IQ』が良かった。セリフ回しがやたらとかっこよくて、冲方丁の《マルドゥック》シリーズみたいなんだよね。あとは少女たちの関係性が事件の発端と密接に関わってくる〝重い百合〟な中華ミステリ『元年春之祭』もめちゃくちゃおもしろかった。続編が読んでみたいなあ、中国では出せないみたいだけど。

ノンフィクション

宇宙はどこまで行けるか-ロケットエンジンの実力と未来 (中公新書)

宇宙はどこまで行けるか-ロケットエンジンの実力と未来 (中公新書)

ノンフィクションは渋くおもしろいのをいっぱい読んだイメージがある。中でも印象に残っているのは、小泉宏之『宇宙はどこまで行けるか-ロケットエンジンの実力と未来』。ロケットエンジンの基本原理が解説されるのはもちろん、どれぐらいの重量で、どのように推進したらどれだけ飛ぶのかという、重量とエネルギィの関連についてしっかり解説していて、読むだけで自分で火星に行くのに(ある重量を持っていく必要があると仮定し)必要な推力は幾ら……とおおまかに計算できるようになる。
生存する意識――植物状態の患者と対話する

生存する意識――植物状態の患者と対話する

植物状態の患者の中には、実は表明できないだけで実は意識があるのでは? を調査し、実証してみせた記録であるエイドリアン・オーウェン『生存する意識』も傑作。PETスキャナを用いることで脳活動を測定し、意識の有無を判定し、はい・いいえレベルなら特定のものを想像してもらうことで意思疎通できるのだが──、はたして、植物状態の患者に「死にたいのか?」と聞いた時に、うんと答えるのか? そもそも、答えられたら、どうしたらいいのか? など答えのない問いかけもなされる。
太陽を創った少年:僕はガレージの物理学者

太陽を創った少年:僕はガレージの物理学者

あとは、神から才能を与えられたとしか思えない凄い人たちのひとり、14歳にして5億度のプラズマコア中で原子をたがいに衝突させる反応炉をつくって、当時史上最年少で核融合の達成を成し遂げてみせた少年の記録である『太陽を創った少年』もいい。すごい才能を持っただけでは駄目で、親がそれをきちんと認めてあげて環境を整えてあげなければ──という「ギフテッドの教育論」についての本でもある。
ハードウェアハッカー ~新しいモノをつくる破壊と創造の冒険

ハードウェアハッカー ~新しいモノをつくる破壊と創造の冒険

他、記憶に残っているのは自身で起業し、そこでクソッタレな経験をしながらFacebookに転職し──と、シリコンバレーで生きるとはどういうことなのかを皮肉と冗句に溢れさせて語る『サルたちの狂宴』は、エピソードのひとつひとつがめちゃくちゃにおもしろい傑作。ハードウェア量産の話から中国でのビジネスの進め方、中国の知的財産権の凄さ、さらには遺伝子ハッキングまで四冊ぐらい別々の分野の本が混ざってるんじゃないかと思うほど内容量が広く・深い『ハードウェアハッカー ~新しいモノをつくる破壊と創造の冒険』も今年のノンフィクションとしては外せない。

ゲームとか

今年出たゲームではないがDead by Daylightにハマってしまって、だいたい1日3時間ぐらいこれをやっている。4vs1のいわゆる非対象型のゲームで、発電機を修理して脱出を目指す生存者側(4人)と、そいつらを殺す殺人鬼(1人)の戦い。それぞれ4つのスキルをつけることが出来て、それがまたゲームにバリエーションを生み出してくれる。見つかるか見つからないかのドキドキ感、見つかった時に実力が活きてくるチェイスなど、ゲームの醍醐味が短い時間に詰まっていて、傑作だと感じる。*1
【PS4】Detroit: Become Human Value Selection

【PS4】Detroit: Become Human Value Selection

他、まあいつものようにFGOをやっている。ゲームとしては完全に飽きているのだが、とにかくシナリオの終焉には付き合うぞという気概。第二部三章の虚淵玄シナリオとか、ちゃんとおもしろかったしね。他、『Detroit: Become Human』は自分自身が人間の使役されるアンドロイドとなって、作中でいくつもの選択肢を選んでいった果てに──という、自分の選択がどんどんシナリオに影響していく快感、リアルタイムに変化する演出、「人間がアンドロイドを動かしている」というメタ性までもを取り込んだシナリオと、レベルの高い、高すぎるアドベンチャーゲームでよかった。
ランス10

ランス10

最後に語るべきなのはやはり『ランス10』だろう。フルプライス、大作ゲーム10作、しかもシリーズ中同一主人公が最初から最後まで一貫性のある冒険を続ける、凄まじいメタ・ファンタジィエロゲーム。ランスシリーズにはじめて手を出した時からその時を夢想し続け、いざ手を出してみればその夢想を大きく超えてきた完膚無きまでのラスト。人生の貴重な時間を費やしてきたことに些かの後悔も抱かせぬ傑作であった。プレイしている時は楽しすぎて、仕事場からマジで走って帰ってたからね。

おわりに

紹介したいものは他にもたくさんあるのだけど、まあこんなもんでいったんいいでしょう。今年もいい本を沢山読みました。来年もいい本を沢山読みたいですね。

*1:ちなみに僕はPC版でやっていて、steamのアカウントIDはhuyukiitoichi なので他にやってる人いたら(やってなくてもいいけど)申請してね。