基本読書

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「いま・ここ」で起こっている経済の危機とその対策はなにか!? 緊急出版されたコロナ経済本──『コロナショック・サバイバル 日本経済復興計画』

『なぜローカル経済から日本は甦るのか 』や『AI経営で会社は甦る』といった著作、名だたる企業の社外取締役で名をはせている冨山和彦による、コロナショックにぶちあたった日本経済についての本である。いくらなんでも刊行が早すぎないか? と思うかもしれないが、そこまでの分量ではなく(文字数的には4〜5万文字ぐらいか?)、4月から4月半ば頃にかけて、1週間でガーッと書き上げられたという。

要するに書き飛ばされた本でではあるのだけれども、事態が一週間ごとに急速に移り変わっている現状このスピード感は利点だ。ワクチンがいつできるのか、緊急事態宣言がいつまで続くのか、経済は大丈夫なのか、無数の危機に対して見通しが立っていない暗中の中で経済の行末を考察し、このような状況下にあって中小企業、大企業の経営陣はどのような決断をすべきかを論じた本であり、まさに今読むべき本である。

ただ、このような危機的状況家において何をすべきなのか、どのような企業が生き残るのかを論じたパートについては、コロナ以外のすべての危機に共通していて、冨山和彦論の総まとめ感もある。前後編にわかれていて、次は6月に後編をだすという。

コロナショック

さて、今回のコロナショックが医療的、人類の健康的に大きな痛手であるのは間違いないが同様に問題になっているのが経済である。人命を守るために外に出ない、営業を自粛するのはもちろん素晴らしいことだが、一方で自粛が続きすぎれば今度は経済が回らなくなって、生活に必要なお金が得られない人間が続出しそれによる命の犠牲が出ることになるだろう。経済が回らないのも結局人の命を奪うのである。

経済が回らないと言ってもそこには企業差がある。まず現状いちばん目立ってやばいのは、観光業や飲食店のローカル経済だ。ローカル経済は日本のGDPの約7割を占める基幹産業であり、その多くがフリーターや非正規社員を主戦力とする中小企業によって運営されているから、今回の危機のあおりをもろにうける。運転資金としてのキャッシュを溜め込んでいる企業もそう多くないから、営業再開や自粛ムードが長引けば長引くほどたちいかなくなる企業は増え、失業者も増加することになる。

リモートワークやネット宅配の市場が伸びているから何とかなる、みたいなことを言っているお気楽な連中がいるが、リアルなローカルサービス産業が吸収している雇用はまさに膨大で、おそらく二桁くらい違うオーダーの世界を比較して代替を期待する議論はナンセンスである。実はこのようなL型経済圏がGDPや雇用の大半を支える構造は欧米も共通であり、まさに先進国共通のグローバルなメガクライシスなのである。

このへんの危機はわずかに街を歩いただけでみな実感するところだろう。飲食店の客は少なく、ラーメン屋でさえももtake outを始めている。区と協力して出前のwebシステムを構築しているところも出てきているが、キャッシュ不足は深刻である。

そうしたローカル経済圏が破壊された後にくるのはグローバルクライシスだ。自分の生命や生活がリアルにおびやかされることによる消費の冷え込みがたたって、売上が世界的に大きく消滅する可能性が高い。一部の国のことだけではなく、今の状況は世界的なものなので、グローバルに展開している企業ほどその打撃を強く受ける。

先述のANAなど、エアライン産業が既に危機的状況になっていることに加え、自動車、電機、機械、総合商社など、多くのグローバル企業が業績予測の下方修正や3月期決算発表の延期、来期予想数字の発表取りやめなどを表明している。第二波はすでに押し寄せつつあり、世界スケールのパンデミックが長期化するほど、そのマグニチュードは巨大化する。

第三波として装丁されているのはファイナンシャルクライシス、大規模な金融危機である。タイミングの悪いことにオイルマネーの暴落も合わさっていて、重要なのはこれから本格化するグローバルクライシスをどう受け止めるのか、そしてそれを受け止めそこねた先に訪れる可能性が高い全世界的な経済不況をどう迎えるのかである。

修羅場の経営の心得

と、ここからはこうした危機的状況家における修羅場の経営の心得が語られていくのだけど、このへんは経営者だけでなく企業幹部にとっては非常に有益な内容だろう。最悪の想定を置き、最善の準備をせよ、bad newsをあきらかにし、信用毀損を恐れるな、短期的なPL目標は捨てて、日繰りのキャッシュ管理がすべてだと、コロナに限った話ではない「サバイブの仕方」が、経営共創基盤代表取締役として様々な企業の再生・コンサルタントに関わってきた著者の実体験とあわせて語られていく。

特にこのような状況下においては(今に限った話ではないと思うが)、日繰りのキャッシュ管理がすべて、というのは日夜資金繰りに追われているような経営者は身にしみて実感しているのではなかろうか。とにかく銀行から借りられる金は早め早めに、事態が悪化する前に徹底的に借りておくなど、非常に実際的な助言にあふれている。『恥も外聞もなく、使えるものは親でも国でも何でも使え。古今東西、危機の経営にとって絶対の経営格言はCash is King!なのである。』

おわりに

おそらく100ページぐらいの本で内容を書きすぎるのもあれなのでここらで収拾に入るが、このような先行き不鮮明の状態だからこそ、必要なのは奇策ではなく王道を行くことなのだろう。本当に必要な事業に力を集中し、とにかく借りられる金は借りて、薄っぺらな情けをかけずに合理的な判断を重視し、楽観的・情熱的に実行する。

経済危機時には同じ業種でもよりダメージを受けるのは、生産性が低く財務体質の悪い企業であるから、経済危機とそこからの回復期は低生産性企業が再編し、より生産性が高い企業に事業や働き手がシフトされるチャンスでもある。もちろん現状は危機的な状況ではあるが、『破壊的危機の終わりは破壊的イノベーションとの戦いの再開を意味する。』というようにチャンスの側面もある。

これから先、コロナに限らない経済危機に強い業態とはどのようなものなのか。また、国の支援はどのような形であるべきかなど、短いながらも非常に多角的に論じられている。今のところ電子書籍版の先行販売で、紙の本はGW明けに出るようだ。