まえがき
本の雑誌2020年1月号に掲載された新刊めったくたガイドの僕が書いたノンフィクションガイドをここに転載します。連載初回で「かましたるぜおらぁ!」みたいにけっこう気合の入った本のラインナップになっているかなと。ブック・ガイドはもう何年もSFマガジンで海外書評を連載しているので特に硬さもないですね。
この月は本当におもしろい本が揃っていて、興味がひかれるものがあればどれを読んでもらっても楽しめるかと。個人的には『ミヤザキワールド』が面白かったな。
本の雑誌2020年1月号

- 作者:ジャレド・ダイアモンド
- 発売日: 2019/10/26
- メディア: Kindle版
本書では考察にあたって、まずは①自国が危機にあるという世論の合意、②他の国々を問題解決の手本にすることなど、危機を終結させるための一二の要因を導き出している。そうした枠組を元に、イギリスからの離脱を迫られたオーストラリアのナショナルアイデンティティの危機、明治維新の頃の日本など、無数のケースを通してそこに共通するものを描き出していく。
そうして、最終的には今まさに日本を襲っている少子高齢化、女性の活躍機会の少なさといった、「世界で現在進行形の危機」を取り扱っていくのである。この世界をまるごと対象にとった大きな語りはジャレド・ダイアモンドの真骨頂! 齢八〇を超えての著作であるにもかかわらず、ぐいぐい強烈に読み進ませてくれる労作である。

- 作者:スーザン ネイピア
- 発売日: 2019/11/06
- メディア: 単行本
作品解説において重要な部分については文字数を費やしてシーンを描写してみせるのだが、その描写がまた美しく鮮やかに映像が浮かび上がってくる。とりわけ嬉しかったのは、宮崎駿の思想が色濃く出ている漫画版『風の谷のナウシカ』に一章を割いていること。一作でも宮崎の作品に浸ったことがある人なら、一読をオススメする。
物語繋がりで紹介しておきたいのは、ローラ・ミラーによる『世界物語大事典』。これは大変豪華な本だ。『ギルガメシュ叙事詩』から始まって、『千夜一夜物語』、『指輪物語』など、主に幻想/ファンタジィ/SFに関連する物語の網羅的なガイドブックになっている。ここ数年のものまでカバーしているのが特徴で、たとえば現代SF最大の話題作アン・レッキー〈叛逆航路〉三部作の紹介も入っている。文字だけでなく、必ず本を象徴する絵画やイラスト、映画化された際のシーンが差し挟まれており、ぱらぱらとめくるだけでも楽しい。物語好きにはぜひ手にとってもらいたい。
- 作者:ニール・ドグラース・タイソン
- 発売日: 2019/10/25
- メディア: ペーパーバック

- 作者:レイ・フィスマン,Ray Fisman,ミリアム・A・ゴールデン,Miriam A.Golden
- 発売日: 2019/10/19
- メディア: 単行本

ニューロテクノロジー ~最新脳科学が未来のビジネスを生み出す
- 作者:茨木 拓也
- 発売日: 2019/11/09
- メディア: 単行本(ソフトカバー)

みんなにお金を配ったら――ベーシックインカムは世界でどう議論されているか?
- 作者:アニー・ローリー
- 発売日: 2019/10/10
- メディア: Kindle版
すでに各所でこの制度の実験は始まっており、その良い面と悪い面が明らかになりつつある。AIやロボットで人間の代替が進み、失業者が増えるのはこの先避けられぬ流れだが、その解決の一手となりえるか──は、読んで確かめてもらいたい。