基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

『「これから何が起こるのか」を知るための教養 SF超入門』という本を刊行します。

このブログ「基本読書」を書いている冬木糸一です。3月1日に、『「これから何が起こるのか」を知るための教養 SF超入門』という本をダイヤモンド社から刊行することになったので、その告知文を下記につらつらと書いていきます。このブログの読者にはまず楽しんでもらえる内容なので、ぜひ告知分だけでも読んでいってください。

本の外観。440ページ超えなのでけっこう分厚い

SF超入門とは何なのか

「SF超入門」と銘打っているわけなので、当然SFに入門するための本になる。歴史や作家など入門といっても無数の入り口があるわけだけれども、今回はいわゆるSF小説のガイド的な内容になっている。ただ、「SF初心者はこれを読め!」といって初心者向けを語る、ガイド記事を拡張した内容とは異なるアプローチで本を選んでいる。

たとえば、今回の本では、テーマを「現実との関係からSFを語る」という点においている。本書の構成として、最初に現代を見渡してみて重要なキーワードをあげ(仮想世界や人工知能、マインドアップロードに地震・太陽フレアなど)、それらが現代においてなぜ重要なのかという「キーワード解説」を最初に書いている。

キーワード解説

その後、SF小説がそれらのキーワードをどのように描き出してきたのか──を紹介していく形をとっている。意識しているのはSFと現実を地続きで語っていくことで、現実の数々のニュース、科学の最先端に興味を持ってもらいつつ、その流れでSFを読んでもらい、そこからさらに興味を持っていろんなノンフィクションに手を伸ばすような、循環した流れだ。もちろん、全文書き下ろしであり、ブログなどからの再録は一切ない(部分的に採用した文章はあるけど)。SFブックガイド的な側面があるのは先に書いたとおりだが、同時に「SFの想像力が未来をどう描き出してきたのか」の紹介となるように書いているので、一粒で二度おいしい構成になっている。

キーワード解説の後にはSF紹介パートが続く

選書としては古典だけではなく、21世紀に入ってからの作品もバランス良く交互に取り上げるようにしている。「誰からも文句のつけようがない完全なガイド」は目指しておらず、僕の個人的な思い入れなども加味しており、普通のSFガイドブックでは取り上げられないような、ユニークな作品選定になっているのがおもしろいと思う。

こうした400ページ超えのガイド的性格を持った本は複数人で書いているものが多いが、紹介する作品は完全に僕が一人で選書し、原稿もすべて一人で書いている。後述するが、途中でこれ絶対に書き終わらない……と絶望するような作業量だった。

早川書房のようなSF系出版社ではなく、ダイヤモンド社から刊行される、ビジネスパーソン向けのSF入門という立ち位置も、かなり特殊だろう。装丁や帯文もみてもらえればわかるが、ビジネス書っぽくなっているのも、個人的に好きなポイント。

キーワード解説はノンフィクション部分にあたり、そこにSF紹介パートが続く構成は、基本読書の集大成のようだ。自分の最初の一冊として、良い本が作れたな、と満足している。主観的にもそうだし、書評家としての評価としてもそうだ。

想定読者

想定読者の第一は、もちろん「SF小説ってあんまり読んだことない/知らないけど、どんな本があるのかな」と思っているSFに入門したい人たちだ。本書には様々な本が紹介されているから、頭からざっと読んでいって気になる本を読んでもらってもいいし、興味のあるキーワード(たとえば地球外生命体とか)の項目をまず読むとか、順番は適当に決めてもらってかまわない。頭から読まねばならない本ではないのだ。

かなりの分量をとって各作品を紹介しているが、それとは別に「つながるリスト」として、その作品の次に読むなら何がいいのかを選んだリストも作っている。そのため、何かおもしろそうな本を見つけて読んで、実際おもしろかった場合、そのつながるリストを使って次に読む本を探してほしい。つながるリストにはSF小説だけでなく、僕が読んできて関連するサイエンスノンフィクションも入っているのが特徴。

SF作家は未来予測をするためにSFを書いているわけではない。

想定読者の第二群は、「SF小説が未来をどう描き出してきたのか」に興味がある人たちだ。SF作家は別に未来予測をするためにSFを書いているわけではない。大抵の場合は読者を楽しませるために書いているのであって、もっともらしい未来予測があったとしても、それは読者を作品に釘付けにするためのテクニックのひとつといえる。

未来予測的なSF小説もあるし、あるいは「未来はこうなってはいけないんだ!」という警告の意味をこめたSF小説もある。もちろん過去を描き出したり、ありえたかもしれない歴史の分岐を描くことで現実の歴史の再検討を迫る作品もあれば、わざとありえなさそうな未来/社会を描くことで思考実験を行う作品だってある。そうした、SF小説ならではの「未来/歴史の検討」を、本書では重点的に紹介しているので、SF小説を別に読みたいわけじゃないんだよな〜〜という人も楽しめるはずである。

想定読者の第三群は、SFをよく読んでいる人たちだ。今回は単純にSFを「オススメだよ!」と紹介しているわけではなくて、キーワードごとの切り口を通して紹介・選書しているので、その点がまず新しく読めるはずだ。たとえば、様々な切り口の存在する伊藤計劃の『ハーモニー』も取り上げているけれど、今回は「医療」のキーワードから切り取って紹介している。また、SF読者は自分だったら絶対にこれを選ぶのに! という作品があるはずなので、ツッコミを入れながら読んでもらえると嬉しい。

長い道のりだった……

この本、実は3年以上前に書き始めていて、完成には長い時間がかかった。そもそも僕はサラリーマンとして企業に勤めている人間であり、働きながら一冊の本を書き上げるのは大変なことである。正直な話、一年もかからんやろと気楽な気持ちで書き始めたが、途中で「本当にこれ、書き終わるのか……?」と恐れをいだきはじめ、次第に「だめだ、これは絶対に書き終わらない……」という絶望に変わり始めた。

50作品以上を今回取り上げているが、それらを一個一個読み直し、読んだことがない作品も取り上げたほうがよさそうであれば読み漁り、まとまった文章を書き──とやっていると、とにかくどう考えても終わりそうな気がしないのである。当初の構想では、キーワードに合致するのであれば邦訳がなくても読んで取り上げようと思っていたのだ(申し訳ないがこれについてはさすがに諦めた)。執筆途中で、「すいません、これ、もう無理っす。本の原稿を書くよりもゲームがしたいです。」と編集氏に泣きついたが、なんだかんだで励まされ/騙され、最後まで走り切ることができた。

書いている途中から書いても書いても終わらないなあと思っていたが最終的に出来上がってみればページ数は440ページ。しかもこれでも書いた分量からするとだいぶカットしているので、合計の文字数的には30万文字以上書いた計算になる。入門書にしてはちと分厚いような気もするが、その分充実した内容になっているので、ぜひ手にとって確かめてもらいたい(電子書籍でも)。できあがったものをみると、よくこんなものを一人で書いたよな、と山を登った後下界を眺めるような気分になる。

おわりに

3年以上書いていたので長い旅だったといえるのだろうが、執筆も終盤に近づくにつれ「もっと書いていたいな〜〜〜〜」という気持ちが強くなってきたし、それはまだ消えていない。世になかなか発表できない文章を延々と書き続けるのは苦しいが、そもそも文章を書くこと自体が楽しいのだ、と実感できた日々であった。

今後、いくつかイベントの話などもあるので、興味がある人はTwitterなど覗いてください。