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基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

森博嗣・泣き虫弱虫・グッデイ

冬木月報

話のまくら

さあさあさあ2014年11月も本日で終了になりましてとうとう2014年最後の月へと移行してしまう今日この頃みなさんいかがお過ごしでしょうか。僕はといえば今年はゆっくりと休養をとってぜんぜん働かなかったので元気いっぱいだし2014年11月はフィクション面で本が充実していて最高の月になりました。一方でニュース面として雑誌ではあのSFマガジンとミステリマガジンが月刊から隔月刊化するなど雑誌の状況を語る上では外せないトピックが話題にあがったりもしました。塩澤編集長のTwitterを見る限りでは、SFマガジンなどは黒字だったということなので採算がとれなくなった──雑誌の終りだーー!! という流れではなさそうですが、まあ企業なのでいろいろあるんでしょう。

さて、11月も終りなので冬木月報です。冬木月報とは僕がその月に読んだあらゆるジャンルの中からめぼしいものをピックアップして一記事にまとめて紹介してしまおうとする企画です。今月はさっき言ったようにフィクション面で作品が充実していたわけですが、ノンフィクションもめぼしいものがなかったわけではなく、マンガは傑作が出たし、映画もインターステラーにFURYと話題作が目白押しな感じ。年末に向けて徐々にボルテージが上がってきましたね。本読みからすればこの年末シーズンから年始にかけてのタイミングは、各読書家が1年のベストを発表し始める時期なので忙しい時期なのです。僕は発表しませんけど。

フィクション

今月はフィクションが充実しているのでどこから紹介したものやら……。とりあえず森博嗣さんのXシリーズ最新作『サイタ×サイタ』が出ました。サイタ×サイタ (講談社ノベルス) by 森博嗣 - 基本読書 まあ広義のミステリというのかな。シリーズ物なので、いきなりここから読み始める人もなかなかいないでしょうが、別にこれから読んでも問題があるわけではありません。『すべてがFになる』がドラマ化してアニメ化も決定ということで、盛り上がっているので、『すべてがFになる』から読んでみてもいいんじゃないでしょうか(サイタ☓サイタはすべてがFになると同じ世界観なので)。このXシリーズの良さは古典的な殺人事件(放火魔とか、旧家で起こった殺人事件とか、マジシャンとかとか)を現代的な割り切った価値観で捉え直していくような部分で、古さと新しさの混在具合が楽しいんですよね。このサイタ☓サイタに限って言えば、普通の人間が持っている不可解さみたいな部分に踏み込んでいて面白いです。

サイタ×サイタ (講談社ノベルス)

サイタ×サイタ (講談社ノベルス)

もいっこジャンル的に一般向けと言えそうな作品でオススメはハケンアニメ! by 辻村深月 - 基本読書 。こっちはananで連載していた、アニメ業界で働く3人の女性をおった物語。男女平等が叫ばれるようになって久しい昨今ではあるけれども、いまだに女性差別は絶えない。というか、している方も気がついていないことがあるし、それだけ根が深い問題なのですよ。結婚しないの? 子供持たないの? 子供持ったら今度は仕事するのは女の仕事だろ? みたいな空気がいまだにある。そんな中アニメ業界は割合女性が自由に働いているイメージがある。僕は別に業界の人間でもないから、本当にただのイメージだけど、監督やプロデューサーなど重要なポストについている女性も多いし、アニメーターのような末端のレベルでも評判になるのも男ばかりではない。

極端な低賃金・重労働で稼ぐ必要性が一般的にあるとみなされている男が駆逐されていった結果といえる部分もあるのかもしれないが、「働く女性を書こう」とした時、業界として目の付け所的には大変新しく適切で、また中身も取材を積み重ねまっとうにアニメ業界を描いているように思う。著者自身が過去にクリエイター物を書いていることもあって、物をつくる、中でも大衆へ向けてエンターテイメント作品を集団でつくりあげるっていうのはどういうことなのかを見事に書きあげている、良作であり力作だと感じた。

ハケンアニメ!

ハケンアニメ!

えーとあとフィクションだと宇宙人相場 (ハヤカワ文庫 JA シ 4-3) by 芝村裕吏 - 基本読書 にエウロペアナ: 二〇世紀史概説 (エクス・リブリス) by パトリクオウジェドニーク - 基本読書 とそれぞれ一癖も二癖もあるものが揃っていて本当に良作揃いなのだけどとりあえずこれを紹介しないと始まらないというのが先日第四部が出た泣き虫弱虫諸葛孔明 by 酒見賢一 - 基本読書 だ。これはねー、反応がにぶいねー。僕がわりとジャンル越境的にSFもノンフィクションも歴史もミステリも何でも読むからかもしれないが、読書において自分が好むジャンルを明確に決めている人が多い。たとえば自分はいったん「SF者だから」と決めてしまうと、SF以外の部分に手を伸ばすのが億劫になったりする。

それが悪いことだとは思わない。膨大な量出る本を、片っ端から読むなんて誰にもできないのだから、自分がカバーできる、自分が好みだと思う部分に投資するのは理にかなっている。でも、たとえばSFが好きだったとして、自分が好きなその「SF性」みたいなものはいったいどこにあるんだろうと改めて考えなおしてみると、意外とジャンルを越境してもどこにでもそのSF性が宿っていることを発見したりする。もちろんこれはただの一例だけれども、ようは楽しさの芽はどこにでも広がっているのだから、ジャンル越境的に楽しさの芽を探してみることで自身の楽しさもまた拡張していくものではないだろうか。僕のブログはふだんそれぞれを点として紹介しているけれど、この冬木月報では点を越境して他の部分に興味が出るように紹介していけたらと(かすかに)思っている。

前置きが長くなったが、弱虫泣き虫諸葛孔明は読んでいて笑い転げながら読めるマジで面白い三国志物語であり同時に三国志批評なのでこれまであんまり歴史小説とか手を出したことがない……って場合に目を向けてもらえたらなと思いますね。我々は歴史とは過去に起こったことなのであり、ついつい「確定した事象」がそこにあると思ってしまいがちだけれども、実際にはつたない記録から起こった事象をなんとか説明付けたり解釈しようとするフィクションの読みみたいな能力が必要になってくる分野で、それが小説になると多様な作家解釈がうまれてくるので同じ話をいろんな作家の変奏でなんど読んでも面白いのです。

泣き虫弱虫諸葛孔明〈第1部〉 (文春文庫)

泣き虫弱虫諸葛孔明〈第1部〉 (文春文庫)

ノンフィクション

さあ、フィクションはいったん切り上げてノンフィクションの方に行こう。とりあえず最初にこれ⇒エネルギー問題入門―カリフォルニア大学バークレー校特別講義 by リチャード・A.ムラー - 基本読書 選挙に行くときなど、政策がよくわからないということがあるだろうと思う。我々は普段仕事をしたり学校にいったりあるいは遊びほうけてごろごろしているわけですべてにおいて正しい政策なんて調べようがない。なのでせめて国家の行方を決める重要ないくつかの部分についてだけ、ピンポイントで知識を付けておきたいと思う。重要な部分も経済、医療、仕事、国際経済とそれだけで大事になってしまうが中でもエネルギー問題はそのほとんどの部分に関わってくる要素なので、単純な数字だけでも抑えておくといいだろう。原発のコスト、自然エネルギーのコストと将来の見込み、天然ガスが実際どれだけ使えるのかなどなど。本書一冊を読めばある程度把握できるようになっている。

エネルギー問題入門―カリフォルニア大学バークレー校特別講義

エネルギー問題入門―カリフォルニア大学バークレー校特別講義

あとはおもしろ読み物系では見てしまう人びと:幻覚の脳科学 by オリヴァー・サックス - 基本読書 はさらさらと読めて面白い。幻覚や幻聴といった事象がいかに容易くおきて、それがどのような症例となってあらわれるのかを実際の症例をもとに書き上げていく。なかでも面白いのはオリヴァー・サックス自身がLSDなどをやって完全にトリップしているときの描写。このじーさん完全にトリップしてるぜ、おい。別にこれを読んだからといって我々が何か仕事に役に立ったり、明日から世界の観方が変わったりするわけではないけれども、けらけら笑って脳の不思議を楽しむことができるので良い。
見てしまう人びと:幻覚の脳科学

見てしまう人びと:幻覚の脳科学

孤独の価値 (幻冬舎新書) by 森博嗣 - 基本読書 はさきほど紹介した小説とは別に出された新書本。本人はほぼ隠居状態で一日一時間しか仕事しないし人ともほぼ会わずメールだけで済ませ電車にもしばらく乗っていないという引きこもりだがいまだに一ヶ月に二冊本が出たりする。年間をとおして、文庫化などのぞいて5冊も6冊も本が出るから隠居とは何なのかという感じなのだが、この『孤独の価値』はそんな引きこもった人間が出してくる、あえて孤独に価値を見出してみようという本である。僕は正直いってこの本を読む前から一人が大好きで誰とも会わずに引きこもるのが人生の目標のような人間だから真新しい内容はなかったが、孤独を単純に悪いものだ、できれば孤独にはなりたくないと思っている人は読んでみるといいかもしれない。
孤独の価値 (幻冬舎新書)

孤独の価値 (幻冬舎新書)

マンガ・ライトノベル

マンガはまた良い1巻完結物がある。僕がブログで紹介するのは基本1〜4巻ぐらいまでで完結するものが多いが(何十巻も続けられても読めないし家におけないよ)、今回の2冊はそれぞれ傾向が違う良い本だ。1冊目はドミトリーともきんす by 高野文子 - 基本読書 架空の寮に日本を代表する科学者の4人が住んでいるという設定。それぞれの科学者が書いた本の軽い紹介と人柄をあらわすエピソードをマンガにしているのだが、これがまた短いページ数の中で科学者の思考のエッセンスを抽出していてとてもいい。本作はそれぞれの科学者がやってきた業績の解説ではない。それぞれが持っていた不思議に思う気持ち、そして解明へと向かっていく気持ちそのもののマンガ化になっている。

絵が、マンガがこうやってウマく描けるのはいいなぁ、うらやましいなぁと思うばかりだった。実は僕も絵でレビュー・書評が書きたいと思って今年はけっこう絵の練習をしていたんだけど、そもそも絵を描くことを好きになれないし、そのせいでぜんぜんうまくならないしでいったん中断してしまった。高野文子さんのレベルは不可能にしても、自分なりにいつか文章だけのレビューに別方向から迫る感じで絵の表現も追加できたらと思うんだけど。まあ今後五年とか十年とかの課題としておこう。

ドミトリーともきんす

ドミトリーともきんす

もう一作はグッデイ (ビームコミックス) by 須藤真澄 - 基本読書 で、こっちは連作短編集となる。この世に一組だけ、明日死ぬ人間がたまご型に見える組み合わせが存在する世界のお話。死ぬことを運良く教えてもらった死ぬ当人、またその家族は、いかにしてその生を終えるのか。悲しい雰囲気のマンガではなく、かといって死の肯定というわけでもなく、これまで生きてきたこと、そして死にゆく生だとしてもそれ自体を肯定しようという気概に満ちていて、死を扱っているのも関わらずその雰囲気は一貫して朗らかだ。死にこんな書き方があったのか、と新鮮な気持ちで読めるマンガ。構成もウマく最後は泣く。
グッデイ (ビームコミックス)

グッデイ (ビームコミックス)

ライトノベルの方では至道流星さんの新シリーズがはじまった。なんとファンタジー(架空戦記)。フォルセス公国戦記 ―黄金の剣姫と鋼の策士― (富士見ファンタジア文庫) by 至道流星 - 基本ライトノベル 至道流星さんといえばやはり個人的には前代未聞の傑作である羽月莉音の帝国 - 基本読書 や大日本サムライガールの印象が強く、現代政治・経済に偏っていたのだが歴史もいけたのか、と驚いた。魔法が出てくるわけではないが相変わらず国が経済合理性によって動くさまがしっかりと書かれ、交渉・外交もそれを前提に動くのでライトノベルのファンタジーってどうせおままごとみたいな描写じゃん みたいな人も一読の価値はあると思う。ただそれぞれのキャラクタに能力値と固有スキル(政治75以下の相手と100パーセント交渉を成立させるなど)が設定されていて、その辺のゲーム的な部分が受け入れられるかどうかは人によると思う。面白い部分ではあるんだけど。
フォルセス公国戦記 ―黄金の剣姫と鋼の策士― (富士見ファンタジア文庫)

フォルセス公国戦記 ―黄金の剣姫と鋼の策士― (富士見ファンタジア文庫)

2014年11月あとがき

いやあこうして振り返ってみると今月もたくさん読んだなあ……。今は講談社新書の『はやぶさ2の真実』を読んでいます。現時点ではまだはやぶさ2は飛んでおらず、12月3日以後に打ち上げも延期中。はたして未来視点からみたときにはやぶさ2はちゃんと飛んでいるんだろうか……。あと伊坂幸太郎と阿部和重がコンビを組んだ『キャプテンサンダーボルト』も読み中。こっちは若干不安になる出だしだけど、この後面白くなってくれるんだろうな……。来月もまた面白い本がぽんぽん出る予定だし、今から楽しみ。

しかし今回読んでいる中ではKindleで出ているものも多いですね。森博嗣さんの本もそうだし、『グッデイ』とかはKindleで買ってるし。『グッデイ』はTwitterで⇒旅烏(朝雲は本当にあったんだ!)さんはTwitterを使っています: "須藤真澄「グッデイ」を読了。 "めちゃくちゃ褒めているのを発見して、即座にAmazon見に行ったらKindle版が出ていて、それで深夜12時とかに買って読んですぐに感想を伝えられて、ああ、世の中こんな速度で動いてたら何もかも早くなってしょうがないよなあとしみじみ思ったり。キャプテンサンダーボルトも、読みたいな、本屋に行こうかなと思ってAmazonみたらKindleで出てたのですぐに読み始めちゃいましたしね。欲望と現物の距離が近すぎる時代です。

まあそんな感じで。また来月。