月初の挨拶
環境が変わった人は一月が経ち、一年としては三分の一が経過し、新しくはじまったアニメはそれぞれ面白いところへ差し掛かりありつつ昨今ですが皆様いかがお過ごしでしょうか。僕に限って言えばこの一月の間目立ったイベントは特にありませんが、ハヤカワ文庫補完計画全レビューを始めたぐらいでしょうか。正直完走できる自信がまったくないままに(企画倒れになってもいいやという気分で)始めたにも関わらず意外なほど楽しんでできているので、このまま最後までいけるんじゃないのという希望的観測ができるようになってきました。ちゃんと続けられそうなら、なぜはじめたのかとか、色々読んでいるうちに考えたこととかも書き足して電子書籍かなんかにまとめようかと思います。
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2015/04/25
- メディア: 雑誌
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あとHONZの方を5日と25日の二回更新していて、ブログの更新も合わせると10万文字以上書いている計算になりますので、全部読めなんていいませんからなんか適当に読んでください。また、記事をいちいち読んでらんないよ、情報を絞ってくれよ、という場合の為にこういう月まとめ記事があるわけです。とにかくここを読めば4月のトレンドがわかる!(基本読書限定)というのを目標にやっております。
前置きはそれぐらいにして4月の読書まとめに入っていきますか。まずはハヤカワ文庫補完計画全レビューからのピックアップ
ハヤカワ文庫補完計画枠
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トップバッターはやはり『アルジャーノンに花束を』今読んでも一切の躊躇も遮るものもなく泣いた。ドラマとかもありますが(今やってますよね?)やっぱりこの知能が増していくことにより文章が精彩を得て、構造を得て、単語が増えていくいきいきとした描写とそれが失われていく表現は文字だからこそだなと思ってしまう。晩年はよくわからない、つまらなくはないけれど飛び抜けた面白さもない作品をぽちぽち書いていたダニエル・キイスだけどこの作品を書いた時は何か全く別のものが宿っていたのじゃないかと思わせるような「完全性」があるように思う。huyukiitoichi.hatenadiary.jp
続いてオースン・スコット・カードの『死者の代弁者』。エンダーのゲームの続編。エンダーのゲームから三千年も経ってるけど、エンダー少年はエンダーおっさんになって普通に生きている。何しろ光速に近い船で移動すると時の流れが異なるから、歴史の流れとは別にエンダーはあんまり歳をとってないのだ。この巻でもドンパチするのかといえばそんなこともなく──、今度のエンダーは一流の文筆家で、一流のアジテーターで、一流のコミュニケーターという打って変わった「能力」で周囲を巻き込んでいく。古典的な俺TUEEEEE物だよねこれ、という話を記事では展開しております。物語のクライマックスにあたる演説のシーンは完成度が異常に高く、短いシーンながらも幾つもの印象的な技法が使われていて「あ、あの好きだった演説シーンはこの死者の代弁者のオマージュだったのか」と今更気づいたりした。正直な話、『エンダーのゲーム』より面白い。huyukiitoichi.hatenadiary.jp
ノンフィクションも入れておこう。レナードの朝はオリヴァー・サックスの有名作。新版、ということだけど用語集や序文の完備、解説の充実ともはやこれが決定版といってもいいと思う。1900年代前半に流行った脳炎等により、身体が殆ど動かせないような症状を呈している患者群がいた。そんな彼らに一時的にでもとても効果のあるL-DOPAという薬を与えた前と後の描写をする観察記録のような本。凄いのはほとんど身体を動かせなかった患者でも、L-DOPAを投与することで一瞬で身体が動かせるようになり、「スゴイスゴイ! 身体が動く! 奇跡だ!!」とまるで知能を手に入れたアルジャーノン(は鼠だけど)のようになってしまうところ。
しかし多くの場合その後突然聞かなくなったり、あるいはハイになった副作用として自制が効かずに生活が立ちゆかなくなるなど(性欲が暴走するとか)問題も頻発してしまうところまで含めてアルジャーノン。希望から一転絶望へ。絶望から一転希望へ。人間精神の振れ幅を縦横無尽に描き出している。また最終的に「全員の死」まで含めて書いていることからして単なる病状の記録ではなく、「一人一人の人生の物語」としても読める。生き方も人それぞれなら、死に方も人それぞれ、身体が動かなくてもそこに意味を見出して静かに死んでいく人もいれば、死に際に怒りを爆発させて死んでいく人もいる。死んでしまえばそれまでだが、でも死ぬまでが含めて「人」というものなんだなと思わせてくれる一冊。
フィクション
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フィクションとしてまずは外せないのは『マレ・サカチのたったひとつの贈物』。量子病という、自制が効かず定期的に地球のどこかへ飛ばされてしまう謎の奇病を患った少女の物語。ぽんぽんと世界を飛び回っていく彼女の目には、貧困も富裕層も戦争も砂漠も雪国も、世界のアクチュアルな実態がのしかかってくる。世界を縦横無尽に飛び回っていくのはネットのメタファーとしても捉えられるように、本書ではネットを含めた人間全体の動きをそのまま捉えようとでもいうような野心的な射程の広さがある。改行が多くテンポ良く読み進めていくことが出来るが、その中身はずっしりと思い。とにかく圧倒的に面白い作品なので、この記事を読んでいる人は『マレ・サカチのたったひとつの贈物』と王城夕紀の名前を記憶に刻み込んでいって欲しい。huyukiitoichi.hatenadiary.jp
続いて藤井太洋さんの新刊『ビッグデータ・コネクト』、毎度毎度ガラリと舞台と題材を変えてくる人だけど、警察物というのは予想外。現場の空気、人間のやりとりの中にある微妙な距離感、情報のやりとりの描写など細かい部分の描写にぐっとくる作品で藤井さんの作家としての幅は本当に広いなと驚かされた。わりとITエンジニアの間で「こういう地獄あるよねーあるある」という地獄あるあるトークが交わされていたりする作品で、そこばっかりが注目される節もありますが、サイコパス等のいわゆる監視社会的ディストピアと現実の合間にすっと入ってくるような作品で橋渡し的に良い作品でもる。huyukiitoichi.hatenadiary.jp
王道チャンバラ時代劇、ここに完結。森博嗣さんによるヴォイド・シェイパシリーズの最新刊にして事実上のシリーズ最終巻でもあるかな。まだ続くかも、という話ですが、お話としてはここで綺麗に終わっています。こんなに綺麗に終わるなんて本当に森博嗣作品かしらん、と思わせるぐらい王道の展開を突っ切ったようにも思うし、そもそものコンセプトの時点で相当変なところをついているのである意味バランスはとれているかなとも思う。森博嗣さんの文章表現技術は今、ここが最高峰でしょうね。とんでもなく美しい文章と、その表現がそのまま「剣を使う人間の強さ」に直結していて、ため息がでるぐらい素晴らしい。今僕が特になんの縛りもなしにおすすめの小説を教えてくれと言われたら、まずこのシリーズを差し出すと思います。
ノンフィクション
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押井さんの本がなんだか知らないけどここ最近立て続けに出ている。『友だちはいらない』が新書で昨日出たし、『GARM WARS』の押井守ノベライズも出たし、ムックも出たし、メルマガのまとめも出たし、この文庫も出ました。メルマガのまとめは、メルマガの一部のまとめでしかない上に追加部分が殆ど無い仕様だった為、全て読んでいるメルマガ読者的に買うにはちと躊躇われる内容です。ムックはまあ、押井守さんのインタビューがそう長くはないからこれもなかなか渋い。友だちはいらないでもいいけど、まだ記事を書いてないから一冊選ぶならこの文庫だな。押井さんが世界的な大御所に対してズバズバと「勝ち」「負け」を論じていく痛快な内容。「自分にとって、何が本当の獲得目標なのか」をよく考えろという、人生論としてはもっとも大切な部分に光を当ててくれる良書でもある。huyukiitoichi.hatenadiary.jp
そしてこっちは川上さんのコンテンツ論。いまや多くの人が漫画を読んだり小説を読んだりアニメを見たり実写映画をみたりして楽しんでいるわけですが、「何を楽しんでいるのか」「何をもって人はそれを楽しいと判断するのか」「娯楽産業のクリエイターはどのようにしてそれを判断しているのか」「クリエイターの技量とはすなわちなんなのか」に対して非常に原理的な回答をしている。言っている事自体は、この問題についてある程度真剣に考えた人間ならだれでも辿り着く「一番最初の部分」ではあると思うんだけど、こういう形でまとまっている本は他にみたことがないので一回読んでおくと話の前提、基礎ができていいと思う。huyukiitoichi.hatenadiary.jp
荒木飛呂彦が、自分がどうやってジョジョを構築しているのかを明かしてくれる一冊。「なんだそれ、聖書かな」と思って読み始めたけど完全に聖書だった。ここに書いてあるのは「王道」とはなにか、の話であって別にこれを完全に守る必要はどこにもない。ないが、王道を知っているからこそ、裏を覗きこんだり、あるいは脇道にそれてもきちんと元の道に戻ってこれるということでもある。マスに作品を届けることを常に意識してきた荒木飛呂彦の思考が凝縮されている最高の新書だ。
漫画とかライトノベルとか
漫画といえばねえ、あれが出ましたよあれが。平方イコルスンの『駄目な石』が出ました。
- 作者: 平方イコルスン
- 出版社/メーカー: 白泉社
- 発売日: 2015/04/27
- メディア: コミック
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アニメとか
- アーティスト: てさプルん♪
- 出版社/メーカー: バップ
- 発売日: 2015/04/22
- メディア: CD
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この方式ってけっこう「最初が弱い」っていう弱点があるんですよね。ある程度四人とかの関係性が慣れてきて、お互いにツッコミを入れたり冗談を言えるようになってからが本当に面白くなってくるところなんだけど、そのせいで毎回最初の三話ぐらいが「痛々しい空気」のまま時間が過ぎたりする。このすぴんおふ方式だと、「てさぐれ」は元々やっていた面子なので盤石の関係性とアドリブの即応性を見せながら高い完成度で出してきて、すぴんおふ側の「プルプルんシャルム」側はアドリブになれていないからどこかちぐはぐだけど、てさぐれ側があるからきちんとバランスがとれているという。
アドリブのお題自体もてさぐれ側はどんどんお題がパワーアップしていて(卓球をしながらお題に答えるとか、新しい校歌の歌詞を考えようとか)明確に方向性を持って作品を構築してくるシステム面に注目するのも面白いアニメです。ほかはジョジョを継続して観ているのと(そろそろクライマックスだ)、シドニアの騎士二期が始まっているからみてますけどどちゃくそ面白いSFアニメだ。
これから読む本
これから読む本。まずはSFでオシーン・マッギャン『ラットランナーズ』。海外SFレビューの為に好むと好まないとに関わらず読むのですが近未来の倫敦を舞台に少年ニモ含む四人組が潜入・変奏・ハッキング・化学分析とそれぞれの得意分野を活かして犯罪組織とバトるある意味では古典的な作法に則った作品みたいですね。面白そう。この「それぞれ得意分野持ちのヤツラでチームを組んでドンパチ」っていったい物語的な起源はどこなんだろうな。中国とかにはずっと前からあるけど。
ハヤカワ文庫補完計画枠はディックの『パーマー・エルドリッチの三つの聖痕』を読み終えたので記事を書くとして、次にアイザック・アシモフの『はだかの太陽』新訳版を読みます(5月8日発売ですが献本でいただいているのでもう手元にあります)。どうしても訳は古びるので、こういう機会にガンガン新訳が出てくるのは本当に嬉しいですね。ちなみにこれ、表紙デザインが文字組みまで含めて最高にイカスので読まなくても本屋で手にとって見るといいと思います。
はだかの太陽〔新訳版〕 (ハヤカワ文庫 SF ア 1-42)
- 作者: アイザック・アシモフ,Ryan Malone,小尾芙佐
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2015/05/08
- メディア: 文庫
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