あらすじ
短編が 9つ 入っているよ
感想 ネタバレ無
4つはほとんどショート・ショートの長さなので、ほんとにさらっと読める。
それこそトイレに入って大便を一回してる間に一つ読めるぐらい。(下品すぎる)
そしてどの作品も、日本人的な郷愁というか、しみじみとさせてくれて、なんだか純文学の短編を読んでいる偉い学者みたいな気分にひたらせてくれた(多分自分だけ)
小松左京の短編は読んだ事が無かったのだけれども、まるで長編の中から、要点を抜き出したように、はっとさせられるような内容ばかりである。
普通の短編はそんな感じで、ショート・ショートは星新一を思わせる、いいオチがどれにもついているのである。
ショート・ショートで何が肝心かっていったら、オチだからな。
短編のほとんどの話が日本の怪談話をほうふつとさせる。わかりやすくて、すらすら読める。
ネタバレ有
夜の声
未来日記を彷彿とさせる、人間の意識上の存在が出現する。人類が馬の都合も無視して、戦争に利用したように。人類が自然の都合もおかまいなしに、改良して自分の住みよいようにかえてしまったように。人類をそのように扱う存在がいてもいいではないか、というような短編。
まぁ確かにそうだよなぁという話。人間がそういう事をするのを罪だと、みんな言っているけれども、いざそういう事をされたら、という立場になって考える事っていうのはないからなぁ。もし自分が意志とは無関係に争いの道具として利用されたら、嫌なのはもちろんだけれども、どうしようもない。利用されているのだから。
完膚なきまでにどうしようもない。
廃墟の彼方
この戦争時の描写は、SF魂で語っていた小松左京の体験した戦争と全く同じだなぁ。
トンネルを抜けたらそこは雪国でした。的な、もしくはトンネルを抜けたらそこには違う世界が広がっていました、的な。千と千尋的な意味で。
そんな感じで、ありえたかもしれない、別の未来への入口というあれ。
墓場での会合
最初読んだ時は数秒オチが理解出来なかったが、すぐに理解した。冒頭の文
明日来る人の眼から見れば、現在のあなたも一個の亡霊にすぎない。
─ピランデルロ
これを覚えとけばすぐに分かる話だった。つまり過去と未来がつながったverの廃墟の彼方であった。
腐蝕
地球外生命体が地球を乗っ取る話。じょじょに侵食されていく人間たちの描写と、最後のオチが日本ホラーであるな、と感じる。
外国人には、日本の風情とか、そういうものは理解できないときく。
外国人は、じょじょに侵食されていく話というよりも、突然侵略してくる宇宙人、というものに恐怖を感じるようなのである。リングのような映画が向こうで作られないのはそういったこともある。
そういった意味でも、和製ホラー。
哲学者の小径
これもまた、過去と未来がつながる話。うーむ。こういった話が多いのは、たぶん同じ傾向の短編をまとめたからだろうな。
自分の声を録音して自分で聞くと変な風に聞こえるが、自分を自分で見るというのはいったいどんな感じがするのだろう。
やはり変なやつだ、とか理解できない、などと思うのではないだろうか。
年をとらなくては、わからぬこともある、というせりふは、昔は年寄りの遁辞としか思えなくて、大きらいな言葉だった。そんなことがあるものか、と思っていた。しかし生きるということが、ひとつまた一つと年をとっていくことであり、人間がいっぺんにたくさんのことを理解することができなくて、知るということは、むしろ一つのことを知った上に、少しずつ、つみかさねていくことである以上、ゆっくり時間をかけて、「年相応の知恵」のようなものができ上っていくのは、本人にとってもしかたがないことであろう。