- 作者: 蔵研也
- 出版社/メーカー: 朝日新聞社
- 発売日: 2007/02
- メディア: 新書
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小さな政府
リバタリアンな人たちの基本的な政治信条をあげると小さな政府論です。「民間でできることは民間にまかせる」を基本原則として、ほとんどの組織を民営化させてしまえ! というのが大雑把な要約でしょうか。小泉首相がしきりに提唱した「郵政民営化」も、小さな政府への一歩です。この「民間でできることは民間にまかせる」考え方は何も最近出てきたものではなく、ずっと以前からあったものですが、力を増してきたのは80年代からであるといいます。その背景には大きく分けて二つ考え方があります。
まず第一に、政府と民間を比べると同じ業務に対する費用が政府の場合は二倍になってしまうというもの。これはフリードマンの法則と呼ばれることもあり、「同じことをするのに必要な費用」という純粋に効率的な観点からのものです。なぜ二倍もの賃金の差が生まれるのか──これは単純に競争が生まれることによる業界の活性化と、人件費がかなり低く抑えられることによります。公務員ですと勤続年数に応じて給与が上がりますし、安定して仕事が得られ続けるのでそれ程努力せず、漫然と日々を過ごしていても安泰なのです(こんなこと書いたら公務員の方に怒られそうですけど)。まあそんな理由です。
第二の小さな政府への意味は、『個人の自由』です。私たちは日本という国の中で『個人の自由』が保証されていると感じているかもしれませんが、それは大きな勘違いであることがちゃんと説明されればわかるはずです。日本には憲法二十二条というものがあります。
「公共の福祉に反しない」という条件がついていますが、基本的に職業選択の自由は守られているはずです。にもかかわらず、つい最近郵政民営化が行われるまで、人々の手紙を集めて、別の誰かに渡すという至極単純な仕事を民間で行うことができなかったんですからおかしな話です。そもそも職業選択の自由という重要なものを、簡単に「公共の福祉に反しない限り」なんて制限されてしまってもいいんでしょうか。ほかにも国家的な医療制度とは「俺は完全に健康だし、仮に病気になっても医療なんてうけねーし」という人たちにも強制課税する制度ですし、年金制度なんかはもっとひどくて国民から金を絞りとってそれを現在の高齢者にばらまき、わずかに残った部分もたいして利率の高くない日本の国債などへ振り分けられます。「国民のために」という大義名分でもってそういった数々の強制を行っているわけですが、自由を侵害しているといえます。
クニガキチントの罠
国が全面的に悪いわけではなく、国民の側にも問題があります。問題点とは選挙で政党を選んで、それであとはまかせっきりという国民性です。今回の選挙も、自民党じゃダメだということに気がついて変化を求めた先がたまたま民主党だっただけだと思います。なぜなら民主党を選ぶ根拠がない。あやふやで意見をすぐ翻すような党を根拠を持って支持しろとかどだい無茶な話です。そういう意味では確かな『郵政民営化』という未来へのビジョンを持って選挙に臨んだ小泉元首相は日本では異質だったなーと。
いわく、高齢になってもきちんと生活できるように年金制度は国が運営するべきだ。子どもを育てながら働く母親をサポートするためには、国や地方自治体がだれでも利用できるような保育施設をきちんと用意するべきだ。すべての家庭の子どもになるべき平等な初等教育を受けさせるように、国がきちんと教育制度を立案して実行するべきだ。高齢者の福祉の増進のために、国や地方自治体が特別養護老人ホームなどをもっとつくるべきだ、などなど。
この日本人の国民性、すべての制度を「国がきちんと」整えることだ、である、という国家による個人に対する考えを『クニガキチント』の誤りと本書では読んでいる。長い前フリでしたけれどもこの『クニガキチント』の誤りとは何かをわかりやすく説明していくのが本書の主な内容であります。選挙が終わったらあとはもう知らんぷり、国がきちんとやるべきだと考えて、お手並み拝見とばかりにただ見ているだけの人達へオススメします。