- 作者: グレッグ・イーガン,山岸真
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2004/10/28
- メディア: 文庫
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真実の探求
本当にこの作品には色々な要素が盛り込まれている。たとえば舞台となる人工の島では、人々は争いも、独占も、何もなく、すべてを「フリー」の概念の元にわけあっているところが描かれる。土地でさえも誰かのモノという概念がない。全部が全部、みんなのものになる島だ。そしてこの世界にはたとえば、性別の差がない人たちがいる。凡性という人たちで、男であるとか女であるとかを辞めた人たちだ。それらが一体どういう意味を持っているのかといえば…この作品のテーマは一言で言うならば「真実の探究」である。真空には男性も女性もなく、時空にはベルギーもアメリカもなく、この宇宙に住んでいることは特権でもライフスタイルの選択でもない、つまりは、性別の差、その他の様々な人間間の差異、そういったものは真実の前では何の意味もないことであり、真実とは宇宙や地球のように、売買することも、力ずくで押し付けることも抵抗することも逃れることもできないもののことだ、というメッセージに他ならない。この作品の中には本当に色々なアイデア、思想、などなどが出てくるけれども、その全ては「真実」という単語一つに集約している。
本書は一人称で書かれており、人称主は科学ジャーナリストの一人の男である。作中ではほとんど無能のように書かれており、論理的に行動する多くの登場人物とはことなりあっちへふらふら、こっちへふらふら、失敗失敗失態続きのなかなかのダメ野郎で、さらには無知で、多くの人間に質問をしては怒られている(まあこれは仕方あるまい、何しろ説明しなければいけないことがらがこの作品には多すぎる)。科学ジャーナリストの作中での言及(そしてこれは現実もそうであろう)をあげるのならば、アーサーCクラークは充分に発達したテクノロジーは科学と見分けがつかないといったが、科学ジャーナリストは人間が人間のテクノロジーを見たときにクラークの法則が当てはまらないようにしつづけることだ、とある。これが非常にメタ的な言及になっているのは、作中の架空のテクノロジーと読者との関係がまさに一人称のその科学ジャーナリストによって行われている点である。そして作中の最後に、主人公が科学ジャーナリストである点、人工の島の人たちの在り方、凡性だとかなんだとか、すべてが万物理論という一点に向かって繋がっていく時恐ろしいまでのカタルシスを生みだす。それこそ、すべて、つながっていくのだ!
この作品がどう面白いのか、説明するのは無理だ。本当に様々な要素、長編何冊分ものアイデアが豊富に盛り込まれて、なおかつ世界、宇宙、ビッグマンまでも遡ったスケールのでかい話を展開し、なおかつそれがすべて一つのワードに収束していく、とかなんとかいったって、読んでいない人には何のことか全然んわからないだろう。難しい。ついでに細々としたことを書いておけば、「真実」とはそれは素晴らしい面だけではないということである。でかすぎる真実は、人を狂気に陥れるのではないかと、そんな問題に対しての答えも本書では出ている、というかまあ、真実というワードに関しては基本的にこねくりまわされまくっているので、その点読んだら非常に楽しめることであろう。
難しいイーガン
なんというか、熱に任せてガガガっと書いてしまったのでしっちゃかめっちゃかである。しかししかしそんなことはおいといて、果たしてイーガンは難しいのであろうか。SFを読んだことがない人にはハードルが高いのであろうか。ま、SFを読んだことがない人と一口にいってもケータイ小説も読まないです―とかいう女子や、歴史小説がすきですぅーとかいう男子や、色々いるわけで、「誰を見て言っているのか」というのは重要なのだけれども、まあ適当にその辺の歩いているおっさんおばさんお姉さんを対象に考えたときに、やっぱりイーガンはハードル、高いと思うのよ。量子論とか、わかんないじゃん。普通。ま、量子論が出てくるから難しい、というわけではなくて。量子論だけが出てくる、というのならまだしも、「量子論を下敷きにした架空の理論」が長々長々と展開されるのが、その辺歩いているおっさんとお姉さんにはきついのではないかなあ。たぶん一つ一つ分解してったらわかった! となるとおもうのだけれども、一気に攻めてこられるとパニックになる。とここまで長々長々と書いておいてなんだけど、ぼかぁ一番最初に「順列都市」読んだ時に、「まったくわからないけど面白い」と思えたので、やっぱり難しいとか難しくないとか、どーでもいいのかもね。正直言ってこの作品だってわかんないところいっぱいあるし。いやわかんないや。
ただ一ついえることは、絶対に全部理解しながら読もう! と覚悟を決めている人にとってはハードルが高いということぐらいで。