有川浩は世界に出てくる人たちがみんな良い子すぎて結構展開的にヌルいんですが、そこが面白いんですね。テーマ的にも、「再生」「成長」といった未来を感じさせる内容で、今の先行き不鮮明な時代にとっても大切なことだと思います。未来に何が起こるかわからないと不安ですが、その不安を解消するのは「約束」です。「未来はよくわからないけれど、たぶん大丈夫だろう。再生できるだろう」と安心させてくれるのは、今はむしろ物語の役割なのだろうと思います。
本当にダメなフリーターが主人公くん。会社をわずか三カ月で辞め、親に金をせびりながらフリーターをして、気に食わなくなったら「こんなバイトやめてやらぁ!」と言ってすぐに辞める。就職しろ!! という親に対して「やってるよバカ野郎!」と吠えるなど、割と最悪なヤツです。しかし、そんな彼も母親が精神病にかかり、ヤバイ感じになってから心を入れ替えて、仕事をまじめにやり、就職を探し、成長していきます。成長の象徴が「家を買う」ことになっていて、タイトル通り「フリーターが家を買うまでに成長する話」が本書の主なあらすじです。
有川浩作品はなぜ、どれもこれも悲惨な状況を書いていながらこんなにもヌルいのか。何をもってして「ヌルい」と断じているのかは説明が難しいですが、要するに「致命的に作品のハッピーエンドを破壊してしまうようなキャラクターがいない」ところに尽きるかと。確かにこの話の中で書かれていることは暗いです。主人公はダメな男だし、母親は精神病を患ってしまうし、親父は家族のことなんか見ようともしない。でもお姉ちゃんは剛毅な性格で、一家が崩壊しそうになった時に嫁いだ先から飛んで戻ってきて家族を修正しようとメスを入れます。その結果、主人公は更生し、さらに主人公と姉が父親を更生し、最後に三人で母親を更生する。この一家におけるヌルさは、姉がいることですが、そもそも主人公の働きはじめた場所もいい人ばっかりです。
キャラクターがみんな根っこのところでいい人なんですよね。だれしもが更生可能な人間として書かれている。それはこの作品のテーマの一つなのでしょう。「人はやり直せる」ということが。妙にスレた読み方をすると、世の中はこんなにいい人ばっかりじゃないし、お姉ちゃんみたいな都合のいい人はいないし、フリーターには家は買えねえし、人はやり直せねえ、となってしまうのかもしれませんが、そこがいいんですよ。ハッピーエンド至上主義とでもいうんでしょうか。「あるべき最も幸せな未来へ向かって進んでいく再生の物語」。ぼくがこのヌルさがいいなぁ、と思うのは、結構まわりを見ているとみんな口々に「人生は戦いだ」とか、「働くのは大変だ」とか、ようするに「つらいつらい」「うまくいくはずがない」とか、ちょーネガティブなんですよね。こういう人たちを「バッドエンド至上主義」と勝手に読んでいますが、「うまくいかない世界こそが正しい世界である」みたいな世界観、そういうのをぶっ壊してくれる所が好きです。
読んでいて、ほっこりしました。
- 作者: 有川浩
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 2009/08
- メディア: 単行本
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