基本読書

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ロボット開発を通して人間を知る──ロボットとは何か――人の心を映す鏡

この『ロボットとは何か――人の心を映す鏡』とは、ロボット開発を通して人間を知るという石黒浩さんの研究を紹介しながら、いかにロボットが優れた人間の鏡であるかを紹介した一冊です。著者は「生きている天才100人」の調査で日本人最高位の26位(同じ位置にいるのはダライ・ラマスティーブン・スピルバーグ。そのチョイスの理由はよくわからんがスゲェ!)を獲得したロボット研究者である石黒浩さん。顔はこええんですけど、文章は読みやすくて非常に丁寧です。わたしは超文系人間なので、「ロボット」の仕組みなんかはまったくの門外漢なのですが、楽しく読めました。というのも基本的にはロボットを作った時の困難やそこで得た知見などが書かれていくわけですが、それらは全て「人間とは何か、ロボットとの違いは何か」に対する哲学的な思索の積み重ねであって、技術論はいっさいでてきません。ですから、文系でも安心!

人間とロボットの違い、というのは非常に興味深い問題です。たとえば今はまだできなくても、十年もしたら見た目だけは人間と見分けがつかないロボットが出来ているかもしれません。そして受け答えも普通の人間のように交わせるようになった時に、果たしてわたし達はそれをどうやって「人間」か「ロボット」かと判断するのでしょうか? これはなかなか厄介な問題ですよ。ツイッターでもbotを人間だと勘違いして挨拶を交わしていたとか言う話がありますからね。当然すでに挨拶ぐらいなら人間と同じように交わせるのです。そもそもわたし達は他人を見て「中見」もしくは「心」があると思って話していますが、それは単純に「外見が人間で」「人間のようにしゃべる」それを見て、状況から推察して心があるように感じているだけです。

「状況から推察しているだけ」といえば、自分自身の感情についても同じことが言えます。言い合い、ケンカをして怒って心拍数が上昇して体温が上がったと認識したときに、わたし達は「自分が怒ったから体温が上がった」と思いますが「体温が上がったから、怒ったと認識した」というのが正しいのです。つまり自分で自分を観察して、その状況から自分の感情は「こういうことであろう」と後付けで推察しているにすぎないのです。他にはベンジャミン・リベットの実験、というものもあります。これは人が指を動かそうとする時の、脳や肉体に発生する電位を測定する実験です。普通に考えれば指を「動かそう」と思った後に、指が動くはずですがその実験によると、指を動かす準備が整った後に「指を動かそう」という決意が生じるのだというのです。この実験が示しているのは、わたし達は自分で自分の行動を決定しているかのようにふるまっているけれど、実は身体の決定を「わたしが決定した」と思わされているだけ、ということです。そうやって、わたし達は常に「自分の動きを観察することによって」自分自身の心とでもいうべきものに気がついていく。逆に言えば「自分のことですら、観察することによってしかわからない、つまり心があるかどうかなんて、わからない」。そしてそうであるならば、発達したロボットと人間の間にある違いなんて、「スイッチを押したら電源が切れる」ことしかありません。

「いつかきっとロボットは人の心を持つようになる」そんな実感が持てる、愉快な一冊でした。

ロボットとは何か――人の心を映す鏡  (講談社現代新書)

ロボットとは何か――人の心を映す鏡 (講談社現代新書)