基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

『WORLD WAR Z』での日本人の扱いがヒドイ(いい意味で)

WORLD WAR Z〈上〉 (文春文庫)

WORLD WAR Z〈上〉 (文春文庫)

WORLD WAR Z〈下〉 (文春文庫)

WORLD WAR Z〈下〉 (文春文庫)

マックス・ブルックスの小説、『WORLD WAR Z』が発売された。読んだ。

Zとは何かといえば、これはまあゾンビである。つまりゾンビ世界大戦という、B級映画真っ逆さまの非常に頭がわるい題名なのだ。

中国を発生源とする、噛みつくことによって相手をゾンビに変えてしまう病がだんだんと人間をむしばみ始め、やがて世界中の人間たちに感染が拡がってしまう。そうした人間のゾンビ化により、ロシア、インド、ヨーロッパ、アメリカ、アジア、日本といった世界中の政府が崩壊していく……。発生源がどこか、どのような仕組みなのかは各作品ごとにアレンジメントが加えられているにしても、オーソドックスな始まり方だ。しかし世界は崩壊してばかりはいなかった!! 徐々にだが、ゾンビと戦う方法を見つけていく人間達、今まさに、人間vs死者、人類史上最大の戦いが始まる──!! その戦いこそが、『ゾンビ世界大戦』。燃えるぜ!!

世界大戦と一言でいっても、世界で巻き起こるゾンビとの戦いを全て書き切るのは不可能に近い。カメラをしぼって世界を見渡してみれば、個人個人の奮闘、または国家規模の作戦、どこにピントを当てても物語があり、それらを最適な形、わかりやすくまとめあげるには書くことは、大変難しい。だから大抵の作品はどこかに注目を集めてみせる。山荘の物語なのか? 国家規模の対策を書くのか? はたまた特殊部隊の活躍を描くのか? しかし本書はその「全体」を描こうとしている。

そこで本書が取った一つの「物語り方」が、「世界中の人々へ向けてのインタビュー形式」になる。この方法をとることによって、世界中に点在し、奮闘を続ける人間達の戦いが、背景の違いを伴ってピンポイントに描ける。政府機関の人間も、そのへんで死にかけている個人も、みなフラットに描かれていくのだ。ということで、基本的に本書は『ゾンビ世界大戦』終結から10年後の、人々の回想談からなっている。

日本人の扱い

その「人々の回想」の中には日本人もいて、扱いがヒドくて笑うのだ。

以下に僕が書いたあらすじを読むと、「著者は日本を本気で勘違いしているんじゃないか?」と思うかもしれないが、翻訳者の方のTwitterによると(ここ参照Twitter / Schün Ngash: 用事があって『WWZ』のマックス・ブルックスさんにメ ...)著者は「三島由紀夫」や「小松左京」や「楳図かずお」が好きらしいので、演出なのは間違いがない。いやでも日本沈没とかは割と武士道に溢れているよなー、日本人=武士道と勘違いしてもおかしくないよなーとも思ってしまうけれども。

この日本編では最初に近藤辰巳という少年が出てくる。彼はインタビューを受けている現在では壮観な体つきをしたスキンヘッドのイカツイ男なのだが、WWZ当時はニキビだらけの顔をしたオタクでした。しかもネット中毒で、日本の詰め込み型教育を呪い、ゾンビのせいで学校が閉鎖されると一日中引きこもっているようなやつだ。

彼の日課はネットで知識を集めること。もちろんゾンビ事件が起きてからは、毎日ゾンビの情報を集めまくる日々。情報を集めているだけなので、ついに自宅をゾンビによって襲撃されてしまう。「足が遅いから冷静に逃げれば大丈夫だ」と、知識を生かして逃げようとする近藤辰巳少年。しかし町中ゾンビだらけで、逃げようにも逃げられずについに袋小路である知らない部屋の中へと追いつめられてしまうのだが、彼はその部屋の中で日本人といえば「これ!」というような、「あるもの」を発見する。

まあこの「あるもの」とは日本刀なんですな。なんというか、日本=オタクで引きこもりで詰め込み型教育で日本刀!! という凄まじくねじれた解釈が行われているようにみえる。そしてオタクなティーンエイジャーだった近藤少年は、日本刀を持った瞬間に覚醒してゾンビをバッタバッタと切り殺していく……(オタク少年が突然日本刀を持ってゾンビを殺せるのだろうか……)

ここで場面は変わり、日本でゾンビと戦う一人の男にインタビューは移る。男の名は「朝永維持朗」、剣の達人だが、しかし眼が見えないというハンデを背負っている……。その原因は「被爆」したから。残念なことに眼が見えないと言っても、代わりに気配を察知する能力がズバ抜けていて、「武道の達人」を思わせる。こちらも「被爆」というわかりやすい日本的な特徴をあてがわれた人間だ。落ち着いた人格で、クールな物言いは武士道の体現者のように見える。

当然彼にもゾンビは襲い掛かってくる。しかし彼は持ち前の能力により、いち早く危険を察知し、文明を離れ、住居を山の中に移す。それからは生き残る為のサバイバルパート。睡眠をとり、狩りをし、ゾンビを手に持った武器「イクパスイ(アイヌが祈りの時に用いる小さな棒の呼称)」でもってばったばったと突き殺す描写が続く。

そうやって山の中でゾンビを殺戮しながら過ごしていた朝永さんだが、木の枝の上で寝ている時にその下を近藤辰巳(最初に描写したオタク)が歩いて行くのを察知(どんな偶然だ)。朝永さんは近藤くんを取り押さえ、近藤くんが誤解を解いた後に現状を初めて伝えます。その時に、達人の朝永さんは自分の使命を悟ってしまう。その使命とは、そう、ゾンビをぶち殺すことだ。

近藤 ぼくは目の前の人物が狂っていると思い、こう言ってやりました。ぼくたち二人だけで何百万もの<グンタイアリ>を相手にするのか?

朝永 わたしは刀を彼に返しました。重さといい、釣り合いといい、しっくりと手に馴染む刀でしたな。そしてこう言ったのです。なるほどわたしたちは五千万の怪物を相手にすることになろう。だがあの怪物どもが相手にするのは神々なのだ。

今ここから五千万のゾンビvs二人の男の熱き戦いが始まった──!! こうして日本の命運は、オタクと盲目の武道家に託されたのだ!! かっこいいぜ日本人! Yes! I'm神々!