基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

プシスファイラ

いやあ、凄い作品だった。本書『プシスファイラ』は、第10回日本SF新人賞を受賞した、コミュニケーションをテーマにした本格SF小説。著者の天野邊さんは自身のHPを見たところ『革命結社スフィアコミューンの催主であり、革命活動としてDJ、小説や評論の執筆などの表現活動を行う。』SphereCommune などと書いてあって面食らう。か、革命??

主役はなんと、基本的にはクジラ(イルカ)。紀元前からクジラ達は、実は人間にはわからない方法(超音波通信による広域ネットワークみたいなもの?)によって、活発なコミュニケーションを取っていた。このクジラ達の進化、そして最終戦争と呼ばれるクジラ達が「プシスファイラ」へと至る超進化の過程が書かれる。そこから先は驚くほどの超展開へ。トンデモSF、と巷では言われているそうだが、読めばなるほどと思ってしまう。

恐ろしいのが専門用語が次から次へと出てくる点で、本書の裏にはなんと編集部から「難しいと思うかもしれないけど読んでればわかるようになるから頑張って読んでね」みたいな内容の注意書きがついている。新人賞に対しての作品として、ここまでやるのかー、そりゃ期待できるかもなーと最初は思ったりもした。

そして読み始めたらほんとうに読み辛いのなんのって! 反響定位とかカタロゴスとかパーミッションとかブローとかノードとか、そういった数々の用語が雨あられのように降り注ぎ、ひとつふたつだったらふむふむと周りの意味から推測して読みとれるものの特殊用語だけで会話するぐらいの難易度の高さでちょっと読むのやめようかな──と思ったぐらい。

まあ、読んだんですけどね。それだけ面白かったと言う事で。しかしどこがそんなに面白かったかなあ。内容を説明しようにも、あまりこの作品に関して言えばネタバレしつつ──という紹介の仕方は辞めた方がよろしいように思います。なのでぼんやりと抽象的な面白さの感想でも。

ああ、こんなに遠いところまで来てしまったのか、と感慨深くなってしまう作品がありました。グレッグ・イーガンの『ディアスポラ』や、アニメ作品の『天元突破グレンラガン』などです。

ディアスポラだと元々意識をソフトウェア化し、自由自在に感覚を調節でき、永遠の命を得た生物のようなものが、もうわけのわかんない宇宙の地平の果てまで行ってしまって、余裕で永遠に生きるし絶対的な存在に世界の真理を教えられたり、永遠の生を受けた時に「生きている意味とは」という問いに答えを見いだしたりした時に、登場人物含めて読者までひっくるめた「俺たちこんなとこまできちまったな……」という感動を覚えるのです。

グレンラガンでは、地上をわけわからん奴らに侵略され地の底で暮らさなくならなくちゃいけなくなった人間達が、月までいってやるぜー! とかアホなことを言いだして実際は月どころか宇宙どころか次元すらも突破してわけのわからない高次元生物とぶち殺しに行った時に、「ああ、なんでこいつらは最初は地の底にいたのに今はこんな多次元宇宙の果ての果てで銀河を手で掴んでぶん投げているんだろうなあ」と想像して胸が熱くなるのです。

僕が本書に感じる感動も、恐らくは上記二つと同じものであるように思います。要するにそれは知的探究心の現れです。僕らはいったいどこまで知ることが出来るんだろう。僕らはいったい、この世の色々な問題を、解決して解決して解決して、どこまで行けるんだろう。あるいは僕らは生きることに、生きる意味について考えることについてどこまで執念深く、考え続けることが出来るのだろう。

本書のイルカ達は、最初は単なるネットワーク器官のようだったコミュニケーションツールを発達させ、進化させ、時間とかもうよくわかんなくなっちゃって、地球の果てどころか宇宙の果てへと至るまで辿り着きます。なぜかもよくわからないままに。

わからないなりに、なぜ、なぜ、と問い続けて、どこまでも生き続けようとするその姿勢に、読んでいると共感して感動したのです。そんな話、だったと僕は思います。

プシスファイラ

プシスファイラ