言わずもがなの西尾維新、大人気な化物語シリーズの最新刊……にして西尾維新に言わせればこれまでの作品をファーストシーズンにすると、この猫物語 (白) はセカンドシーズンという感じだという。これが本当に、思いがけず良かった。今までの物語シリーズを通しても、一番好きと言ってもいいぐらいには、この猫物語 (白)そして(黒)が好きになったかもしれない。
僕はそもそも、ここまでの一連のシリーズを、面白いとは思いつつもどこか乗りきれない部分もあったんですよね。それというのもストーリーがあんまりにもおざなりというか、今までの物語は、恐らくは色々と、複雑な意図なりテーマなりがあったんだろうけど、僕には「阿良々木暦with美少女軍団」がいい感じのおしゃべりを繰り広げていくことだけが書きたい部分で、たとえば妖怪退治なんかは、「いつまでも続けてらんないしこの辺で終わりですよー」という、最低限物語という形式を保つだけの役割ぐらいにしか感じられなかったんですよ。
それがこの『猫物語 (白)』になると、今までの「阿良々木暦with美少女軍団」によるボケツッコミ漫才が、出来なくなる。一人称視点の主が羽川翼に移り変わって、いわば最大の武器を封印された形になったわけですが、その分ストーリーの盛り上がりは、今までの非じゃないぐらい僕は受け入れられたのです。ボケツッコミが消え、物語が前面に出てきた。もちろんちょっとはあるんですけどね。
いきなりの視点変更で、テンションが落ちるかと思いきやそうではないところが、凄まじいです。なんというか、『とある魔術の禁書目録』における『とある科学の超電磁法』みたいな。本編に出てきたキャラクター、出来事を、別視点から眺めるとこうなる──という面白さ。基本はキャラクターをどの視点から見るかの違いでしかないのだけど。
上手く言えないけれども、今まで阿良々木暦という主観を通して、外から羽川翼というキャラクターを見てきたわけだけれども、ここにきて羽川翼の内面をこうも上手く語って見せるというのは、これはもう尋常じゃないぐらいうまい……というよりかも、尋常じゃないぐらい「キャラが立っている」と言えるのかもしれない。
つまり、最初のキャラクターを構想する段階において、「このキャラクターはこういう内面を持った存在である」ということが書かれないまでも明確に書いている西尾維新の方からは認識されていた、と言う事なのだろうと思う。だから外から見た時と、中から見た時にほとんどブレが生じないんだな。
正直、こんなことを言うのは大変恥ずかしいし割と認めたくないのだけど、本書のテーマ的に、自分の中に沸き起こった感情的な物に対して目を逸らさずにこれを受け入れると、読みながら泣きそうになってしまった。それぐらい面白かったです。
- 作者: 西尾維新,VOFAN
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2010/10/27
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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