基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

世界史をつくった海賊

海賊。ワンピース、パイレーツオブカリビアンで半ばヒーローのように書かれるこの存在が、なぜそのようにヒーローとして描かれるのか。その社会背景が面白い。本書は主に「16世紀イギリスにおける海賊の役割」について書かれている。海賊のことなんかさっぱり知らなかったけれど、世界史、特に新興国として有力な資源が何もなかった時のイギリスにとって海賊の役割はとても大きかったことが読むとわかる。

当時イギリスの人口は四百万人程度だったのに対して、近隣のスペインやフランスの人口は共に1千万人を超えていた。戦争をしたら勝ち目が無いのは明らかであり、イギリスは苦境に立たされていたのだ。豊かさを求める方法は幾つもあるが、苦境に立たされたイギリスが求めたのが「徹底した略奪行為」すなわち「海賊の黙認」だった。むしろ黙認どころか、積極的な介入と言える。

その指揮をとったのはエリザベス女王である。エリザベス女王は当時イギリス人として初めて世界1周の航海を成し遂げたフランシス・ドレークに多額の出資金を行った。ドレークがそのお金を元に航海に出、スペイン船やポルトガル船を襲いまくり、帰ってきたときにその金額の合計はイギリスの国家予算の約3年分にあたったという。もちろん当時の技術なので、途中で遭難したりすることも多く、病気で死ぬ者も多かったようだが、それだけの博打を打つ意味はあったということだろう。

その際、女王の関与は徹底して隠されており、仮にスペインやポルトガルから抗議が入っても女王は常に知らんぷりだったようだ。とんだ狸である。しかも女王やその側近から多額の金を融資され海に出て行った海賊はドレークだけではなく、多くの船団が組織され、海に出ていたようだ。海賊たちもただ闇雲に海に出たわけではなく、貿易を行う為に出て行き、その道中スペインやポルトガルの船を見つけると襲いまくっていたというのだからイギリス以外の国からしたらとんでもない話だっただろう。読んでいて思わず同情してしまう。

「海賊国家として成りあがったエリザベス女王時代のイギリス史」という視点は新しく読んでいてとても面白かった。「徹底した略奪行為」が国家の目標としてしっかりと機能することも、確かにあるようだなあ(今の中国のように)。本書はそれ以外にも、海賊たちがどんなものを食べていたとか、海賊はみんなアル中だったらしいとか、情報戦の方法だとか、奴隷の売買といった幅広い内容に触れていて、どれも初めて聞く話なので大変面白かった。

誰が読んでも面白いのじゃないかな。結構オススメ。

世界史をつくった海賊 (ちくま新書)

世界史をつくった海賊 (ちくま新書)