アメコミ。ゾンビに覆われた世界終末の中で、元警察官であるリックは家族と小集団を率いながら安息の地を探し求める。
いやーこれは最高に面白かった。432ページもあるコミックにしては長大なボリュームなんですが読むのをやめることが出来ない。気がついたら読み終えてこれを書いている。非常にシリアスに極限状態の人間の心理を描写するホラーであると同時に、何もかもを失ったところから始まる壮大なアメリカンフロンティア、開拓の物語でもある。
そしてなんといってもゾンビだ。ゾンビ! ゾンビ! いやーゾンビって素晴らしいなあ。著者のまえがきを読んでもその意気込み、ゾンビにかける熱い情熱が伝わってくる。
ぼくにとって、最高のゾンビ映画とはアホなキャラクターたちやくだらない冗談に彩られた血潮と暴力三昧のスプラッター・カーニヴァルではない。良質のゾンビ映画は、人間がどれほどイカれているかを示し、社会におけるわれわれの立場……世界におけるわれわれの社会の立場に疑問を呈する。良質のゾンビ映画は血しぶきや暴力、その手のカッコイイものを見せてくれるだけではない……常に社会的な論評や思慮深さを底意として有する。
この作品の何が凄いのかというとまずもって「丁寧」だと思った。これはゾンビといえば映画しか見たことがないからかもしれないけれど、出てくる人間たち一人一人の人間関係をしっかりと書き、それだけではなく時間の経過と共に全員の関係がちゃんと、着実に変化していっているのが凄いのだ。
リックたちが安息の地を求めてさまよっている間に、人々が合流し恋が生まれ親がぶち切れ人が死に、道中抜ける者あればまた生まれるものもある。そうした一連の普通に生活していればあるようなことが落とされずにしっかりと描かれていて良い。それでいて物語のテンポは決して悪くならずに、常に新たな苦難がリックを遅い、苦悩していくので読むのがやめられない。
テンポで言えば、その点ゾンビというのは調節しやすいのだろう。割とどこからでも出てこさせることができる。基本冷静になって戦えば負けることはないが、何らかのアクシデントがあると一瞬で殺られる絶妙の難易度がゾンビの魅力の一つだし。ただリックに訪れる苦悩というのは主に「責任」を負うことから生まれる。
小集団とはいえ気を抜けばすぐに死んでしまう世界で人間を導くのは凄まじいストレスなのだというのが読んでいると伝わってくる。たとえば日本の政治家が判断を誤ってもまあ短期的にみればほとんど誰も死なないが、この終末世界では一度の判断ミスで全員が死にかねない。
リックは理性的な人間として書かれているが完全に理性的な人間などいるわけもなく取り乱したり感情的になりながらも前に進む。傷つきながらも責任を全うしようとし、おっさんながらも成長を続けるリックに英雄を見た。
残念なことにこれ、3000円以上するのにこの一冊で終了していない。どころか原作は14巻を超えて未だ連載を続けているようだ(本書は原作1〜3巻分だとか)。真っ向から世界終末とゾンビを書いた作品として、この漫画の特徴はやはり映画にはない「長い長い終末」だと思った。
- 作者: ロバート・カークマン,風間賢二
- 出版社/メーカー: 飛鳥新社
- 発売日: 2011/10/13
- メディア: 単行本
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