これはなかなか素晴らしい。
従来の「顧客は何が欲しいのか」を知る方法として、顧客へと直接聞いてそれを反映させる方法には限界があることはすでに知れ渡っている。顧客へインタビューして得ることが出来るのは顧客が自分で言葉にできるほどはっきりと認識出来ている物に限られるからだ。
顧客へ直接聞くことだけではもはや対応しきれない。
しかしその次というと、ジョブズのように体感的になのか試行錯誤なのかその両方だろうが「人になんか聞かないぜ! 俺は俺の信じる路を行く!」という方法論に落としこみにくいその人固有の知に飛んでしまうような印象だった(あくまで個人的な)。
行動観察が目指すのは徹底的に顧客を観察(本屋だったら本屋にくる人だし、銭湯だったらお風呂に入りに来る人)して、顧客自身意識していない潜在ニーズを把握することだ。利点はいくつもあるが大きな物はもうひとつあって、「直接訊くとかっこつけとか社会通念上許されないことを隠すバイアス」がなくなる。
考えてみれば道端で「あなたはトイレで手を洗いますか」と訊かれてたとえ洗っていなかったとしても「洗いますよもちろん」と答えるだろう。そこでウソを付くことに対して何のデメリットがないどころかウソをつかないとデメリットがあるのでだれだってそうする。いや、ぼくは洗ってますよ、当然。
本書では第二章以降銭湯にいったり本屋にいったり営業マンについていったり主婦についていったりイベント会場にいったりして人間を観察し現場を解決するソリューションを提示した例を挙げ続ける。それらがどのように改善されていったか、どのような方法で改善されていったかという点がだいぶ面白かった。
なによりどれも実際に現場で改善が行われ効果が出ているものが紹介されているので参考にしやすい。招来僕が営業マンをやることがあったら本書を引っ張り出してこようと思った。まあそれはいいとして、読んでいて考えたのは「観察」と「見る」ことの違いである。
コナン・ドイルによって書かれた物語の主人公シャーロック・ホームズは優れた観察眼をもっていて、人を一目みただけで様々な情報を得ることができる。彼は名言を色々残している(「私は以前から、細かなことこと何よりも重要なのだということばを格言にしています」)がその中のひとつにこんなものがある(本書でも引用されている)
君は観察(observe)していない。ただ見ている(see)だけだ。私が言いたいのは、観察するのと見るのとは全然違う、ということだ
「見る」とは言葉通りそのまま見ることだ。車が走っている。人が歩いている。雨が降っている。それをただ見て事実をそのまま認識すること、あるいは認識していないのかもしれないが、とにかくそのまま何も残らずに消えていく。あるいは美しい光景なら記憶にずっと残るのかもしれないが、まあそれはどうでもいい。
一方観察とは、見たものに対して疑問を立てることだ。人が歩いている、よく見ると裾に泥がついている、この付近では最近雨は降っていない、この人はどこか雨の降った場所から、ここにやってきたのだろうか? と。
シャーロック・ホームズが用いる人間観察方はこのようなものであり、探偵が使う分においては基本的にただの言いがかりにすぎないが(探偵というのはひどい職業だ)これを顧客へのよりよいソリューションを提供するために仮説とし、実行して実際に成果が上がればそれは素晴らしいことだろう。
本書では主にビジネスで役に立つ大規模で集中的でお金になる観察を行なっているが、これはもっと広い範囲に応用できる考え方だろうと思った。たとえばブログを書くのだって、観察から初めていいはずである。優れたブログが「なぜ優れているのか」を観察して仮設を立て反映させ結果を見ることだってできる。
ビジネスマンのものだけにしておくのはもったいない。読むと面白いと思う。
- 作者: 松波晴人
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2011/10/18
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