初めて西原理恵子さんの描いた物を読んだ。
それが漫画でなく半自伝とも言えるものなのだから少し惜しい気もする。毎日かあさんなどを読んでいれば、もっと他に思う所が多くあっただろう。
読んでいて一番強く思ったのはまるで母親に諭されているようだ、ということ。これは別に上から目線のお説教ではなく、誠意をもって自分が伝えるべきことを伝えようとしていて、そしてそれがとても優しい。
「カネ」がなくてつらかった事を話し、だからあなた達はこんな辛い思いをしない為に「カネ」を稼がなくてはならない、それが一般的な論法だろう。けれど本書がとる道は少し違っていて、「つらいことがいっぱいあって、自分がこれにどう対処してきたのか」を書いている。
僕は普段人にあまり本をオススメすることはない。僕が強引に読ませたって何の意味もないと思っているから。いちばん大切なのは自発的に、自分で考えて始めることなのだ。「自分が選択した」という責任と自由がその道の正しさを増す。
だから僕は「本を読むのがめちゃくちゃ楽しくて仕方がない!!」とブログを書くことでアピールする。なんかあの人楽しそう、と誰かが思って、本をなんか読んでみようかな、と続けて思ってくれるのが僕は一番嬉しい。
誰かが誰かを強制的にどうにかするなんてことは不可能だ。子供に勉強させようと思うのだったら、「勉強をするとこんな利点があるよ」というのではなくまず自分が楽しそうに勉強することから始めるべきなのだ。
その点においてこの『この世でいちばん大事な「カネ」の話』は決して押し付けがましくない。こうした方がいいんじゃない、という提案の形で物事は伝えられ、その語り口は徹底的に家とかで、けだるい空気の中なのか真面目な空気なのかはわからないけれど、親が子供に言い聞かせるようなものだ。
単純な話、働いてお金が稼げるようになれば、できることや行動範囲だって広がっていくからね。「大人になる」って、だから楽しいことなんだよ。
「大人になるのは楽しいことなんだ」と僕は面と向かって子供に正直に語りかける大人をほとんど知らない。でもこれは僕もそう思う。子供の頃は子供の頃で楽しかったかもしれないけど、僕は今まで生きてきた中で今の方がずっと楽しい。いろんなことができるようになったから。
ちょっと話が横道にそれた。
西原理恵子さんの体験談は、ちょっと想像を超えてつらいものだ。
両親のうち父親はアルコール依存症で山菜のときに無くなり、母親の再婚相手はギャンブルで家のカネをすっからかんにし首を吊って死亡(西原理恵子美大受験の日に……)しかしその後なけなしのカネをもって美大に行き、仕事を必死こいて探しまわり、絵で食える人生になる──その後にもつらいことが待っている。
失踪日記を読んだ時にも思ったことなのだけど、目を背けたくなるほどのどん底で希望を持って生きていく人というのはどん底に落ちていない僕を勇気付ける。仮に自分がそこまで落ちても大丈夫だと思えるから。『最下位の人間には、最下位なりの戦い方があるんだっていうの!』という文章が本書にはあるけれど、これはとても好きな言葉になった。
本書のテーマはカネの他に「人は生まれた環境を乗り越えることができるのか」というものがある。西原理恵子さんが結婚した鴨ちゃん。彼のお父さんはお酒を飲んでは彼をなじっていて殺したいほど憎んでいたという。しかしそういう彼自身がアル中になってしまう。凄いのは、彼はそこから抜け出すことができたという点だ。
『インナーチャイルド』という本がある。子供には、自分を無条件に受け入れてくれる親が必要で、これが与えられない為に感情をおさえつけて親に気に入られるようにふるまったりした子供は、怒りや心の傷を抱えたまま大人になる。そしてそれは精神的な苦痛となって大人になってもその人を蝕み続ける。
子供の頃の環境、体験というのは確かに大人になってもその人を縛り続ける。本書では最後に、生まれた環境を乗り越えることが出来るか? という問いに対してわからないなあと答えている。たしかに、絶対に乗り越えることが出来るとは言えないのかもしれない。でも西原理恵子さん達は確かに乗り越えたのだと本書を読むと思う。
- 作者: 西原 理恵子
- 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
- 発売日: 2011/06/23
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