二巻が出た。やはり秋山瑞人は天才であった。E.G.コンバットのようなSFが書けて、イリヤの空のような青春も書けて、龍盤七朝 DRAGONBUSTERのような武侠、武道まで書けるのか。どれだけ幅がひろいんだろう。どれだけの時間練ればこれだけの文章が生み出せるんだろう?(答えは1巻の刊行から2年が経っているので2年である)
あらすじ(Amazonより)
1巻
虐げられる民“言愚”の青い目を持つ涼孤は似顔絵描きと講武所の下働きで糊口をしのぐ。かつて胡同の闇の中で、素性の知れぬ老婆より剣を習い、双剣を授かる。卯王朝、第十八皇女の月華は屋敷を抜け出しては市井を探検する。感情が高ぶると地団駄を踏みながらぐるぐる回る癖がある。涼孤はどぶ川の畔で双剣を持ち“龍を呑む”。月華はそれを目撃し―「妾も剣をやるっ!」鬼才・秋山瑞人が贈る、剣をめぐる物語。古橋秀之とのコンビによるシェアワールド企画“龍盤七朝”第一弾登場。
2巻
卯王朝、第十八皇女の月華。どぶ川の畔で、虐げられる民“言遇”である涼孤の剣舞を目撃し自らも剣をとる。はじめは金持ちの道楽でしかなかったその剣術だが、まさかの開眼をはたし―!?一方、元都には武人が生死をも賭して真剣試合を行う大比武が近づいていた。涼孤の働く講武所の師範代である蓮空や、一番手講武所の一番弟子・阿鈴など、それぞれの志を抱き出場を決める。涼孤と月華は武の頂を目指す者たちを巻きこみながら、その運命を交差させていく。鬼才が贈る剣をめぐる物語、第2弾。
龍盤七朝 DRAGONBUSTERは武侠小説である。武侠小説とは説明が難しいWikipediaを見ると簡単にこう書いてある。『武侠小説(ぶきょうしょうせつ)とは、中国文学での大衆小説の一ジャンルで、武術に長け、義理を重んじる人々を主人公とした小説の総称である。』
武侠の侠とは正義の為に行動しようという心のありようであってこれを武を通して実行したりするのだ。僕は金庸の小説しか武侠小説を読んでいないけれど大抵何らかの流派を主人公が学んで発勁的な体内を流れる気を使って相手を倒したりする。
あまりにも大雑把すぎる説明だけど武侠小説だと大抵この勁は縦横無尽に活躍する。剣に流すもよし、身体にためて相手の攻撃を吸収するのに使うもよし、相手の身体に素手で直接流しこむのもよし。この超常的な力によって優男が容易く大男を倒すなどといった展開が多くてそういう意味では日本のライトノベルとは非常に相性が良い。
アメリカでは日本の優男や華奢な美少女が大きな剣を振り回したりすることに大きな抵抗があるようだが(だから日本のゲームとかが向こうに輸出されるとパッケージが全部むきむきになる)武侠小説の場合はその(優男が戦える)理由として勁があたるのであろう。
物語の筋としては凄くシンプルな話なんですよね。超凄い武道の才能を持った皇帝の娘であり主人公である月華と、すでにほとんど誰も持っていないような完成された力を持っている涼孤、ただし彼には地位もなければ名誉もなく差別部落出身の為扱いもひどい。
身分差に目を当てると武侠版ロミオとジュリエット、もしくは美女と野獣(こっちのほうが近い)ですが、むしろ問題はそれ以上に二人が共に凄まじい才能を持った武道家であるといった点でしょう。涼孤はとてつもない使い手なのですがそれを月華は知らず、「武道的な意味でも対等になれる」と思っている。
軸は二つあって、身分という意味では月華が上で、武力という意味では涼孤が上。さて──この二つは埋められるのか。
と物語の筋はこういう感じなんですけどね。面白いのはもっと細かい点にある。まずこの龍盤七朝の世界観が作りこまれていて凄い。世界観じゃない部分の細かい部分も凄い。たとえば砦みたいなところで、一人の男が厠に行くところから物語が始まるのだけど、その入口には事があればすぐに飛び出せるよう扉の代わりに垂れ幕がかかっている。
なるほど。たしかにそれは合理的だなと思う。実際の砦も過去はそうであったのかなと想像する。そしてその後その垂れ幕の描写で、下半分が見るもおぞましいほど汚れているということが書かれる。何度禁止されてもそこでケツをふく奴が後を絶たないからだ、と。なんかどうでもいいような描写だけど、こういうのが積み重なっていくんですよね、この世界って。
風俗街の描写もすごい。あと天下一武道会(僕が勝手にそうよんでいるだけ)にはだいたい5人に1人が死んでしまうのだけど、大会が近くなるとビビって包帯を巻いて(参加者は右手に刺青をされる)飲んだくれるとか、大会は一部の人間しか見ることができないので、それを見た人たちがすぐに町に出ていって再現をして見世物として売るなどなど(これも忠実に再現するものもあれば、笑わせるようにやるものもある)。
そういった「文化」的な部分までかなり作りこまれていて興奮するんだ。しかもそれだけじゃない、バトル描写はこれはもう読んでもらうほかないけど圧巻。これだけの物を書けるのはライトノベル以外をみても秋山瑞人以外にいないだろう。
とにかく素晴らしいんだ!!! Amazonの在庫はないから本屋に行け!!
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