基本読書

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わたしたちは嘘で真実を語るんだから『言語都市』チャイナ・ミエヴィル

いわゆるサイエンス・フィクションに分類される小説で、舞台は遥かな未来だ。『言語都市』というタイトルに強く惹かれるものを感じる人もいるだろう。こうした異質なものを想定して、言葉として繋ぎ合わせられるのはSFが適している。「名タイトル」と呼ばれるものに、SF作品が多いのはそれが必然的に現実から、想像力の飛躍を迫るからだろう。

本書『言語都市』は『都市と都市』のチャイナ・ミエヴィルによる新刊。毎度毎度まったく異質な世界を構築してみせるミエヴィルだが(都市と都市では同じ地理を占めているのにモザイク状に都市がわかれていて、どちらの都市の住人も相手を認識しないように振舞っているという謎の設定だった。)、今作も相当へんてこな小説だ。

あらすじを簡単に説明すると、今より遥かな未来で人々は宇宙をかなり活発に行き来している(ただそれ程自由ではない)。で、全宇宙をまたにかけた壮大なスペース・オペラが展開されるとおもいきやそうではなく、舞台は基本的に辺境の惑星アリエカに存在している居留地であるエンバシータウン(言語都市)に集中している。

人類はここにもともと存在していたアリエカ人にお願いするような形で共存していた。アリエカ人は口に相当する二つの期間から同時に発話する特殊な言語構造を持っていて、これが相当特別なことに「真実しか語れない」という特殊な言語なのだ。たとえば「あれ」とか「それ」という指示語が使えない。水が半分減ったコップ、のような表現をいちいち使わなければいけないのだ。

アリエカ人はその特殊な言語ゆえに、何かを表現したい時は、そこに至るまでの道を作って置かなければならない。たとえば「まるで傷ついたねこのようだ」と言いたい時は「傷ついたねこ」をあらかじめ用意しておかなければならない。とてつもなく残念な言語なのだが、アリエカ人は特殊なバイオリグ(カメラだろうが輸送装置だろうが家だろうが全て生き物で構成されている)で人類の為の生活インフラを一手に引き受けていてこの星で暮らしていくためにはアリエカ人の強力が不可欠なのだ。

しかしある新人の大使(アリエカ人と同様の特殊な発音ができる人のこと)がきたことで状況が一変してしまう。惑星がひっくり返りかねないほどの大混乱といったところ。本書の語り手になっているのは一度このエンバシータウンから出て、今度は言語の研究のために夫と共にもどってきた女性なのだが、彼女はこの事態に立ち向かうのが物語の基本プロットである。

読み始めてかなりの時間、僕が今書いてきたような説明はほとんどなされない。何やらよくわからないアリエカ人というのがいて、そいつらの言語が何か特殊なようだが、それが直接的に「これこれこういうものである」となかなか説明されないし、説明されても普通に理解できる概念ではないのでよくわからない。

そしてその前提の上でつくりあげられている都市も既存の概念の延長線にないものばかりで把握することには困難が伴う。だいたい都市のほとんどがバイオリグで、家すらも生命体でできているという世界観が最初よくわからなかったものな。同時に発音することで初めて意味が伝わる言語、いくつも存在する宇宙の裏側(?)に存在する「イマー」という宇宙、アリエカ人と交流を計るためにうまれた2人で1人の大使たち──。

ほんとにわかんないんだよね。何をいってんのか全然わかんない。よくもこんな意味不明なことが書けるな、というぐらいにわからない。ただし最後までたどり着いて、今までのことを理解した時には、このルート以外なかったと、そう確信しているはずだ。というのもミエヴィルの作品のおもしろさというのはまったく想像もつかない仮定の上に積み上げられた虚構社会が、実際にありえるとしたらどうなのかということを入念に描写していく過程にある。

その過程は他のどんな小説作品にも観られない、現実とまったく相容れない異質のものだ。だからこそ受け入れるのに時間がかかる。ただ実を言えば物語の構造自体は至極シンプルで幾つかの要点さえ把握すればあとは目の前が開けるようにすべてが理解できる。テーマを説明してしまうと野暮になってしまうのだが、異星人版ヘレン・ケラーみたいな感じ(言ってしまった

幻想的というのも違い、ただただ異質な世界がそこにある。最初はかなりとっつきづらいが一度把握してしまえば申し分なく勢いづいて、読み進めることが出来るようになり、この世界の行末がきになってとまらなくなるだろう。そして最終的にはこの設定でしかありえない、世界を根底からガッと揺さぶるような転換に打ちのめされるはず(SFファンの間ではこれを大抵センス・オブ・ワンダーという)。

言語都市 (新★ハヤカワ・SF・シリーズ)

言語都市 (新★ハヤカワ・SF・シリーズ)