クールジャパンと盛り上げられ、海外でも大人気だといわれる日本のアニメだがその実態はなかなか厳しいところがある。ほんの20年前と比べると平均的なクォリティが信じられないぐらい上がっているのは誰しも実感するところだけど、それがイコールで現場も良い環境になっているとはいえないところが悲しいところだ。海外展開から日本の市場まで刻々と変わり続ける状況の中で、どのようにアニメがつくられていくのか、海外での需要のされ方はどうなっているのかといったことを具体的に取り上げていくのが本書である。
岩波ジュニア新書というのは、そのまま名前の通り岩波から出ている子供向けの新書レーベルだ。本書も表紙が漫画絵で、中では最近マッドハウスの社長に就任した岡田浩行さんをアニメ初心者のヒロとして、そしてマッドハウスの宣伝マンとして働いている武井風太さんをアニメのことならなんでも知っているフウタとして、かけあいを軸として進めていく。なんだかひらがなだし、わかいりやすい見た目ではあるのだが実態は制作進行の仕事についてとか、原画と動画の役割の違いとか、具体的にどんなプロセスを通ってアニメが出来上がるのかといったことをやっていくのでそのミスマッチ感が凄い。
「アニメ! リアルvs.ドリーム」
目次 1 パラレル・ワールド 自分を解放する別世界 実世界では実現できない夢・ファンタジーを楽しむ リアルは求めない
2 アニメ・レコード 日本型アニメの誕生 ゴールデンタイムで大人気 市民権を得た劇場映画アニメ
3 マイ・アニメ ゴールデンタイムからの退出 「エヴァンゲリオン」が新方向を創出 テレビは宣伝媒体、ビデオセールスで回収 さらに対象者を絞る
4 リアル・アニメ アニメ制作の基本的な流れ アニメ制作のリアルな作業
5 バーチャル・ツアー アニメ制作の現場密着 制作者の日常
6 アニメ・ジレンマ 動画作成の対価はいくら? 作画は女子ばかり? 海外のアニメ制作が急成長
7 リアル・ワールド アメリカ、ヨーロッパ、アジアで大人気 アメリカ ・マーベル社の仕事を請け負う 日本アニメがハリウッド実写映画に
8 リアル・ビジネス 売り上げと制作費 横行する「海賊版」キャラクター ・ビジネス アニメ制作会社の選択
9 アニメ・ドリーム 制作者の性格 愛好者の性格 日本アニメの未来は?
アニメの歴史をざっと振り返って具体的な作業内容が把握できるようになっているので、持っていると役に立つ時がくるかもしれない。最初の方は当然研修期間からはじまるが、描いた枚数=収入につながる。一日にせいぜい十五枚ぐらいで、それが一枚三百円に届かないというのは「なんとなく聞いたことがある」ことではあるけれども、やはり衝撃的。
日収4500円かぁ……。30日フルで働いても……。意外だったのが、最近三年間でマッドハウスと契約した十五名のうち男が一人しかいないということ。なんとなく男が汚らしくすし詰め状態で睡眠時間を削ってやっているイメージがあったのだが、15対1なのか。「男は稼がなくちゃいけない」という規定観念があるから〜とか「最近の若者はハングリーさがないから〜」とかいろいろ理由はつけられるだろうけれど、なんにせよびっくりな話。
そもそも絵を描くということにまったく興味を持ってこなかったけれど、いわゆる絵描きの世界の男女比ってどんなもんじゃろうなあ。僕は読む漫画は少年漫画に偏っているので男性比が異常に高いわけだけど、Pixivとかで性別の比率をはかったらどんな結果が出るのかきになる。性別の欄なんかないだろうが。
他に面白かったのが海外でのアニメの広がりについての話。こんなサイトまであるぐらい⇒AnimeCons.com - Anime Conventions and Guests世界ではアニメイベントが多く開催されている。2012年で開催されたアニメコンベンションの数は449で、特にアメリカでは300箇所近く登録されている。*1
ちなみに2011年の開催数が396なので増加率でいってもなかなかのものだ。日本が急に(試み事態はずっと行われているわけだが)「クールジャパン」といって盛り上げようとしだすのも、こういった世界的な盛り上がりが背景にあってのことだろう。ここで今後予定されているイベントが見れるが⇒AnimeCons.com: Convention Schedule NadeshiconとかHanamiconとか日本語を元にしたイベントがけっこうある。
本書は入門的な位置づけなのであくまでざっくりとした把握に役立つぐらいだけど、クールジャパンなどといって税金を使ってやるのだから、環境を把握した効果的な戦略を立てて貰いたい所ではある。そもそもが独立気質のクリエイターたち、それも他ジャンル同士を一息にクール・ジャパンといってまとめてしまう発想そのものが難しいような気がしないでもないけれど。
- 作者: 岡田浩行,武井風太
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2013/01/23
- メディア: 新書
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*1:ただ、これは自分から登録しないと反映されないので、実際にはもっと多くのイベントが開かれている。英語が通じないとそもそも登録できないので日本のイベントもまったく網羅されていないし