基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

ドキュメント 深海の超巨大イカを追え! (光文社新書)

クラーケン (ハヤカワ文庫SF) by チャイナ・ミエヴィル - 基本読書 ←を読んだ流れでちょっと気になっていた本書を読んだのですが、これがまたおもしろいエピソードの連続。失敗の連続と、NHKという組織の中でいかにしてダイオウイカの撮影をするのかという資金集めの苦労、数少ないチャンスを物にするための試行錯誤の数々──ドキュメントなのに、そのままエンターテイメント小説になりそうな内容で淡々と記述されていくのがよかった。

しかし──ダイオウイカの動く姿が撮影されたことがないってこと自体が僕には驚きでしたね。あんなにデカくて、あんなに有名なのに、撮影されたことはなかったのかと。深海は探査船の数もそう多くはないことからほとんどが未踏というのは知識としては知っていても、ダイオウイカなんて10メートル以上にもなるやつがいるっていうぐらい、デカイんだからすぐ撮れんだろう(笑) ぐらいの勢いで誤解していたわけですね。

それがまったく撮れない。カメラで動画を撮れない──だけならまだしも、写真すら撮れない。欧米では誰もが伝説の生物クラーケンとしてダイオウイカを知っていて、それ故知識欲もかきたてられるだろうけれど日本では「ただのデカイイカ」ぐらいの認識でしょうからそういった面でも企画が通らない。いやあ、やっぱりテレビ局ですからね。莫大な予算と、人員と、時間をかけて、「番組にもなんにもならないような映像しかとれませんでした」となるリスクを犯せないのはよく理解できます。

おもしろいのが、そういう場面でも通す方法があるっていうこと(別の企画との抱合せとか、別の絶対有望な企画と同時に行っちゃうとか、あるいは国際的なテレビ局との共同企画にしてしまって社を説得するとか)。なるほどねえ、そうやってやりたい企画を通すものなんだなあ、と変なところで勉強になったり。。そうはいっても簡単なわけではなく、何度も企画を切り直し、練り直し、たいへんなプレッシャーに耐えなければ無理なことで、勉強にはなっても真似はできないなあ、という感じ。

それだけの執念をもってことに当たれるのは素直にすごいですけどね。結局最初にことが動き出してから、ダイオウイカ撮影までには10年の歳月がかかっているようですし。

そして、いざ企画が通ってもなかなかダイオウイカは出てこない。なんでも、めちゃくちゃ警戒心が強いみたいで、人間がそこにいなかったとしても不自然な状況があると近くによってこないか、罠にひっかかってくれない。傍からみていると、生物を相手にした実験、実践っていうのはそういう「まったく思い通りにいかない相手との知恵比べ」的なところがいちばんおもしろいところでもあるのだけど、やっている方からすればたまったもんじゃないでしょうね。

面白かったサブエピソードがひとつある。マッコウクジラにカメラを装着して(野生のマッコウクジラに船からパイプを伸ばして人間が貼り付ける)ダイオウイカとの対決をとろうとするんだけど、最初のうちマッコウクジラは6時間つけているカメラを次第に学習して仲間と協力してすぐに取り外しちゃうとか。頭が良い。で、人間は今度は「取り外されないようにしよう」と考えるわけで、こうした知恵比べがたいへんエキサイティングでおもしろいわけです。

警戒心が強くなかなか人間の前に姿を現さないダイオウイカにたいして、各国代表の調査団たちがみんなで知恵をしぼってバカバカしかったり、画期的だったりするアイディアを試し、ついにダイオウイカの撮影が成功する──、storyとしてもhistoryとしても重要な瞬間で、ただのドキュメンタリーなのに撮影がかなったときは僕も「やったー!!」という気分になったり。まあ、文章だけでなく映像でも見ないとな、と思わせるに十分な出来。

ドキュメント 深海の超巨大イカを追え! (光文社新書)

ドキュメント 深海の超巨大イカを追え! (光文社新書)