基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

エリジウム

第9地区監督による最新映画。前回よりも予算が莫大にかかっているにもかかわらずプロットは微妙である。まあ自分で脚本を書いているんだから予算は関係ないはずだが、どうもね。元々の企画はもっと低予算で撮る予定だったというが、そっちのバージョンもみてみたかったなあ。スペースコロニー目当てで他には期待していなかった為、プロットの出来はどうでもいいのだけど。

設定上の年代は2154年のものだが、その未来像は随分と陰鬱だ。タイトルにもなっているエリジウムは1%の富裕層のような人たちが住むスペースコロニーの名称。どんな病でもたちどころに完治させてしまうスーパーマスィーンが完備されている。市民は病気を白血病だろうがなんだろうが、完全駆逐できるのだ(そんなもんがあるなら無理してでも地球にもおいとけよ)。ID登録された住民以外はその機能をつかうことができない為、完全に富裕層専用。

前科者である主人公マックスは砂漠かなんかのように荒廃し、ごみごみして汚らしく、物乞いの子供が大勢そこらじゅうに存在している街に住んでいる。治安維持活動などの役人仕事はほぼロボットに移管され、その他の数少ない仕事は「ロボット製造工場」で、彼の真っ当にやり直している現状の仕事はそれにあたる。労働者は一個の人間として尊重されるわけではなく、ロボット製造工場を動かす容易に取り替え可能な一部品として扱われる。

1%の富裕層に、単なる1つの部品として扱われるシステム化された労働力。そんな最悪な環境で日々を過ごしているのが主人公のマックス君なのだ。人口増加、環境状態の悪化、システム化されて人間性の剥奪された社会。なんとも腐れ切った未来感だ。こうしたやりすぎなぐらいの破滅的な未来像(ディストピアなんちゃらというのか)は想像力が刺激されるので大好き。

特に地球上(ここは確か荒廃したロサンゼルスって設定だったかな。)での退廃感がとても素敵なんだけど、撮影場所はメキシコの郊外にある世界でも有数のゴミ捨て場らしい。もう、ロケ地からしてゴミ捨て場なんだもの。まさにゴミ溜め感がよく出ている。ゴミ溜めでもうまく映画として撮るとそこが素晴らしく味のある場所のようにみえてくるから不思議だ。

話をもとに戻すと、主人公のマックスがまあなんかいろいろ理由があってエリジウムへと行くことを目指すというのがメインストーリー。当然ながら富裕層のコロニーなので単純労働者がいけるような世界ではないので、そこで冒険活劇が産まれるのだが……。嫌だったのはエリジウムとどーんとタイトルに冠されているにもかかわらず物語内でのエリジウムの機能は「富裕層のいる場所の象徴」「なんでも病気が治せるマジカルパワー発生地」としての役割しかないところ。

ユートピアとして描かれているのか、そもそもユートピアというそのものに対して疑問をもたせようとしてあえてそうしているのかは謎だが、エリジウムはまったく楽しそうじゃない。綺麗に刈り揃えられた芝生に、きれいなプールがあるが、それだけしか映画の中ではうかがい知れないのでエリジウム市民の楽しみって「きれいな環境」しかなくないか?? と疑問に思ってしまう。なんでそんなとこにいく??

(Image © Elysium | Official Movie Site | Sony Pictures All rights reserved.)
つまるところ「スペースコロニー」を描いているわけではなく「富裕層のメタファー」を描いているだけなのだ。これには随分がっくりきた。本人はゴミ溜めのような街も、ロボット化されきった社会も、医療完備の状況、富裕層の描写も「何かメッセージを放っている」わけではなく「ただあるがままの」状況を示しているだけだ、これはサイエンス・フィクションではなくいま起こっていることなんだと本人が繰り返し述べている。『Elysium isn't science fiction. It's now』*1 けれど……。しかしエリジウムは本当に美しい。これが観れただけで充分だ。

かつてスペースコロニーは「迫り来る人口増加危機」や「大気汚染、資源枯渇などの地球環境悪化」からの民衆の為の脱出手段の1つとしての熱狂があったけれど、本作は人口増加危機、資源枯渇などの環境悪化⇒富裕層のみスペースコロニーということで、建造理由的には現実的な線で面白かったと思う。それに本当に地球環境がどこも住むのが難しいぐらい悪化したとしたら「住み心地のいい環境」だけでも楽しみなものになるのかもしれない。

俳優だとエリジウムのセキュリティを担っているジョディ・フォスター(この人がそうなのかな?? ひょっとしたら違うかもしれない。俳優の顔と名前が誰一人として一致しないのだ。)はビシっとスーツを決めて、感情に左右されずに厳格に判断を決めていく鉄の女、氷の女って感じで非常に良かったです(スタイルはサッチャーを意識してるんだろうなあ)。かっこいい。

ストーリー的な部分ではあまり楽しめなかったけれど、ディティールの部分では大変楽しく鑑賞させてもらった。そこには薄汚れたゴミ溜めのような街、物乞いの子どもたち、飛び散る血液、荒れ切った現場での強制手術、破滅的な未来像とそれと対比するように美しい未来建造物の描写がある。破滅的な世界観にせよ、そこに現れる美しさにせよ、「こういう映画をとるんだ!!」という一貫したスタイルがあるのだ。

面白い/面白くないとかいう評価はおいといて…、観て良かったなあ。ちなみにネットで読めるインタビューとしてはInterview with Elysium writer/director Neill Blomkamp | Digital Trends ここが分量的にも内容的にもよかった。なんでもブロムガンプは士郎正宗に、20代頭に傾倒したとか。士郎正宗が世界に与えた影響って、想像以上に大きいなあ。

またWIREDのVOL9にはブロムガンプの話とマッド・デイモンへのインタビューが載っていて、スペースコロニーの勃興期についての話は洋書だが『The Visioneers: How a Group of Elite Scientists Pursued Space Colonies, Nanotechnologies, and a Limitless Future』という本が良かった。そのうち紹介を書く予定。

WIRED VOL.9 (GQ JAPAN.2013年10月号増刊)

WIRED VOL.9 (GQ JAPAN.2013年10月号増刊)

The Visioneers: How a Group of Elite Scientists Pursued Space Colonies, Nanotechnologies, and a Limitless Future

The Visioneers: How a Group of Elite Scientists Pursued Space Colonies, Nanotechnologies, and a Limitless Future