生物学というやつはかなり面白いんですよ。なにがって、生命活動をするっていうその単純なことが、ありとあらゆる方法で行われ、そこには理屈が通っていて、太陽のエネルギーから化学反応まですべてが繋がっているってことなんです。僕等が日々生きて、生活しているというそれ自体に理屈がある。そして人間だろうが魚だろうが蛙だろうがその辺の微生物だろうがすべてにさかのぼっていける起源があるのですよ。
しかも起源、よくわからんという。未だにどうやったら生命が産まれるのか誰にもわからんのです。雷をばりばり落として何千億回も試行錯誤したらアミノ酸が出来るんじゃねーのといった実験はあるけれども、それらが生命に結びつくまで最適な形で結合するだけの確率がどうしても導き出せない。僕は最近アストロバイオロジーの分野(宇宙全体での生命体の存在可能性について考える分野)にハマっているのだけれども、「どのような条件ならば生物が発生する可能性があるのか」を考えていくのは想像が何十億年、何千光年といったレベルで広がっていくので最高にエキサイティングだ。Alien Universe by Don Lincoln - 基本読書 宇宙生物学で読み解く「人体」の不思議 (講談社現代新書) by 吉田たかよし - 基本読書Five Billion Years of Solitude by LeeBillings - 基本読書
本書は地球の極限環境における「どうやって生きてんだよ」的な生物をめぐっていくことで生物を捉え直そうという一冊。そんな本を紹介するときに、なぜいきなり生物学おもしろ! な話から始めたかというと、この本を読んでいるとついつい「生物学おもしろ!」と言いたくなってくるから。たとえば本書第一章ではシュレティンガーの定義をひいて『生命とはエネルギーを食うシステムである』をシンプルに定義してみせる。植物は太陽エネルギーを自分のエネルギーとして取り込むし、草食動物はその太陽エネルギーを取り込んだ植物を自分の中に取り込むし、肉食動物や雑食動物はその太陽エネルギーを取り込んだ植物を取り込んで自分のエネルギーにする。
有機物の連鎖である。しかし有機物を取り込まない存在として、バロモナス・ティタニカエというバクテリアがいる。こいつももちろん生物だ。深海にいるから太陽エネルギーを変換できない。有機物も食べない。こいつはなんと「鉄を食う」。生命とはエネルギーを食うシステムであるとしたが、こいつはつまるところ鉄からエネルギーを得ている。どのようにしてエネルギーを得るのかというと、無機物の鉄を酸化させて、その時に生じるエネルギーを利用して有機物をつくっている。光合成の代わりに化学合成をしているのだ。
エネルギーを食うシステムが生命だ、しかしそのエネルギーの得方にはさまざまな手段があり、そのどれもに理屈がある。それってめちゃくちゃ面白くないだろうか。世の中、そんなところに!? というところに生物がいるものだ。セキユバエという昆虫は油の中に住んでいる(幼虫限定)。油田などでうっかり入ってきてしまった虫などを食べるというが、天敵がまったくいないから生き残れているんだろう。こいつ、どうやって油の中で生存可能なのか未だにわかっていないという。
でもそこにもきっと理屈があるのだろう。ここまで書いてきて思ったのだが、生物学の面白さというのは生命が進化の過程で手に入れてきた複雑な生存ロジックを解き明かしていくところにひとつの面白さがあるのかもしれない。入念に練り上げられた物語、建築物のように生命の中には論理、理屈が存在していて、存在それ自体が特大のミステリなのだ。なにしろ起源がわからないんだから。
ってことで生物学のおもしろさが伝わってくる良書ですよ。
- 作者: 長沼毅
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2013/12/20
- メディア: 新書
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