基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

Time Warped: Unlocking the Mysteries of Time Perception by Claudia Hammond

ポットのお湯が湧くのを待っているのに、ただその目の前でじーっとしているとほんの数分が永遠のように感じられるものだ。一方でちょっと離れてパソコンの前に座ってメールのチェックでもしようものなら気がついた時にはお湯は沸騰していくらか時間が経っている。特にやることがないときの時間は苦痛でしかないが、愉しいことが次々とやってくる休日はあっという間に過ぎ去って、気がつけばサザエさんが始まっている。子供の時はあんなに一日が長かったのに、いくらか歳を重ねると1年があっという間のように感じられる。

こうした一つ一つの事実に、現在ある程度の答えが与えられつある。たとえば歳をとるほど時間の流れが早くなるのはなぜ? に対する最もシンプルな答えは「四十歳にとって一年は四十分の一だが、八歳にとっての一年は八分の一で、一年に対する重みが違う」からだ(もちろん他にもいくらでも理由はあるが)。実際三分を、時計を見せずに計測させる実験でも、Young Peopleはだいたい3秒のズレが、MiddleAgeだと16秒、60代70代になると40秒も多く見積もってしまう(全部平均)。

A year feels faster at the age of 40 because it's only one fortieth of your life, whereas at the age of eight a year forms a far more significant proportion.

こうしてみていくと、やはり時間というのは客観的な時間は誰にも等しくやってくるにも関わらず主観的には状況によって随分と異なるようだ。つまり早くなる時もあれば、遅く感じる時もある。そして一貫して時間の流れは早く感じられるようになっていく。これは平均的な事実だと思われる(体験的にもそうだし)。

というわけでその人によって異なる主観時間の流れ方について、どのようなものがあり、それに対抗するため、我々にできることは何なのかを教えてくれる時間の心理学が本書『Time Warped』だ。いやはや、しかしこの主観時間の変化っていうのは誰もが日常的に経験していながらも「どういうときに」「なぜ」「どうやって」起こるのかを、まったく解説されることがないであろう不思議なトピックのひとつなので読んでいて「そうだったのか!!」の連続だった。

考えてみれば身近なところに不思議なことっていっぱいあるんだよなあ。ちなみに具体的に、どういう時に時間が遅くなり、早くなるのか。たとえば苦痛に耐えている時の時間は長く引き伸ばされる。これと同様に深い憂鬱状態にあるとき、憂鬱状態でない時に比べて時間間隔は2倍に引き伸ばされるという。極度な恐怖に襲われている時、強い感情に襲われている時(スカイダイビングをしている時とか)、退屈な時に主観的な時間は遅くなる。また精神疾患を抱えている人の時間認識も遅くなるようだ。

いったいぜんたいなんでそんなにころころと時間認識が変わってしまうのかといえば、一つにはドーパミンシステムが関係しているのだという。ドーパミンが増せば増すだけ時間認識も加速していく。「私達は自分の時間認識を自分たちで創りあげている。神経細胞の働きは身体の生理学上の反応およびそれを受容する脳によって基本的に決定されている」とClaudia Hammondはいう。時間は基本的に化学的な要素から成り立っているというわけだ。だからといって主観的な時間認識の重要さがいささかも減るわけではないけれど。

こうした「主観的な時間認識がなぜ常に変化しているのか」とは、別に過去に思いをはせ未来を想像するときにいかに僕らの時間認識が間違いやすいかの話もある。たとえば二ヶ月以上前の個人的なイベントを思い返すときに、六ヶ月前だと思っているのならそれは実際には七ヶ月前の可能性が高い。八年前だと感じているのなら、それは九年前の可能性が高く、逆に2ヶ月前だと思うのならばもっと最近のことである可能性が高い、といったように。

記憶というのは想起されるものというよりかは、毎度毎度思い起こす度に新たに「創りだされる」物だ。その為なのかなんなのか、ある一定以上の期間がおかれることによって時間認識にズレがでてきてしまう。これはもう、どうしようもない事態のようだ。一方で正しい時間間隔へ向けての解決策としては、ある事象に個人的な出来事を結びつけて考えることだという。ある出来事が起こった時に、どこにいて、どんな仕事をしていて、夏だったか冬だったか、といったように一つの出来事にできるだけ多くの情報をひもづけるのだ(You can also look for time-tags; the personal events that tether our memories of the news.)。

このあたりは時間版のダニエル・カーネマン『ファスト&スロー : あなたの意思はどのように決まるか?』 - 基本読書みたいな感じかな。時間に関する人間の本質的な欠点を明らかにし、認識することによってはじめて対処が可能になる。またその機能を明らかにすることによって、コントロールさえも可能になる。

誰にも等しく与えられているのは「時間だ」とはよく言うが、実際にはその時間の運用方法によって「主観時間」が人によって大きく差として現れてきてしまう。たとえばより記憶、思い出として残りやすいのは何かといえば、「はじめての経験」だとか「印象深い経験」だというのは経験的に同意していただけると思う。

だからこそ、みな子供時代のことがより鮮明に思い出せるのだ。はじめての恋、はじめてのセックス、はじめて学校にいった日、はじめて仕事に行った日、はじめて親抜きでいった旅行、なんでもそうだが「はじめて」の経験は実によく記憶に残るものだ。逆にいえば、毎日毎日同じことをしていると後を振り返っても圧縮されてしまって何も残らないに等しい。*1

ゆえにもしあなたが、過去を振り返った時の情報量を増やしたいのならば──まずテレビを観る時間とゲームをする時間を減らそう、と本書ではいう。テレビはつかれていて何もしたくない時に、うってつけの娯楽ではある。しかしそれは一斉に注意をあちこちにそらせ、先ほどの例で言えば「taskが積み上がった状態」に視聴者をさせる。ゲームも同様で、taskだけはいっぱいある。時間だけはあっという間に過ぎていくが、振り返ってみると……ゲームを1000時間、テレビを1000時間見たところで最終的にその時間のどれぐらいを覚えているだろうか。

ただ漫然と道を歩いている時でもいい。いつもと違う場所を見、いつもとちょっと違うところを通ってみる。ちょっとした変化をつけるか、はたまた今までみてきた視点をちょっとずらしてみるか。何にせよ新しいもの、変化を見つけようとする姿勢が記憶の情報量を増すことに繋がるだろう。もちろんまったくテレビを観るなという話でもなく、自分の時間をある程度コントロールしたかったら、それなりに自分で打てる手があるということ。

たとえば、テレビを観る時間を減らすとかして。「the happier the time, the shorter it seems」というようにNon-ScreenActivityでもScreenActivityでも、興じている時の経過速度は等しく早い。が、現在が積み重なっていく主観的な時間間隔と、後から振り返って追想するときの時間間隔はまったく異なるのだ。

時間について普遍的に陥る錯覚、たとえば我々は1ヶ月以上先の予定になると想像がおいつかなくなってしまい、大抵楽観的になってしまう。結果締め切りを設定したりしてとてつもない苦労をするはめになったりする。予定がなんにも立っていないから随分暇なような気がするのだが、実際その日がきてみれば今日と同じように忙しいのだ。本書は時間について、それにどう対抗したらいいのかを教えてくれる。

翻訳が出たらオススメしたい。ちなみに和書だとテーマがだいぶずれるけどこれが面白かった⇒真木悠介『時間の比較社会学 (岩波現代文庫)』 - 基本読書 

Time Warped

Time Warped

時間の比較社会学 (岩波現代文庫)

時間の比較社会学 (岩波現代文庫)

*1:こうした心理現象を専門用語でReminiscence Bumpと呼ぶ。若いころに記憶の大半があること。