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早川書房の1500作品が50%割引の大型電子書籍セールがきたのでオススメを紹介する

早川書房の1500作品が最大50%割引という大型の電子書籍セールが来たので、僕が読了済みのものからオススメの作品を一部紹介してみよう。早川書房は定期的に電子書籍セールをやるが、前回の大規模なものは確か2020年3月頃の1000点セールだったので、セール対象は増えていることになる。なんと、先日完結したばかりの『三体』も、さすがに完結巻は対象ではないけれども第二部までがセール対象。
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まずはSFから紹介する。

三体

三体

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まずは早川といえばSFということで、SFから紹介してみよう。目を引くのはやっぱり『三体』である。先日三部作全体の紹介を書いたばかりだが、文化大革命からはじまり異種知性とのファースト・コンタクトが描かれる比較的現実路線の一巻。ファースト・コンタクト後、人類最高峰の知性が異種知性にたいして知能闘争を仕掛ける知略戦の二巻がそれぞれセール対象だ。第三巻はそれまでとはまた違って、宇宙の果てにまでいくような壮大なスケールで生命の行末が描かれていく。圧巻の傑作だ。先日短篇の冒頭の文章である『孔明は泣いたが、馬謖のことは斬れなかった。』『硬かったのである。』がTwitterでめちゃくちゃバズって再度話題になっていた、三方行成による短篇「流れよ我が涙、と孔明は言った」が収録されている『流れよわが涙、と孔明は言った』も半額のセール中! SFというべきかどうかは怪しいが、本書にはこの他にも折り紙しか出てこない折り紙食堂の話、アルキメデスも王もセリヌンティウスも完全に狂っている「走れメデス」、人が死んだら電柱になる世界の話、ドラゴンカーセックスアンソロジーに収録された「竜とダイヤモンド」などアホすぎる短篇が揃っている。ちなみに、「流れよ我が涙〜」だと僕は下記引用部が一番笑った。

「チー」
孔明は鳴いて馬謖を切った。
「ロン」
下家が牌を倒した。
「馬謖のみ。十兆点」
「な、何ィー!?」

伊藤計劃『虐殺器官』や『ハーモニー』といった定番どころも相変わらずセールに入っているが、近刊でオススメしておきたいのはテッド・チャンにより至宝の短篇集『息吹』。著者十七年ぶりの作品集で、寡作にもほどがあるが、そのかわりに彼の描き出す世界はとてつもなく緻密で、ありえないほど美しい。特に表題作はオールタイム・ベスト級の名短篇で、童話のような世界観と平易な言葉遣いで、世界が転換する瞬間を描き出してみせる。SF初心者にもオススメしたい今世紀最高の短篇集だ。近刊でぜひオススメしておきたいのは、韓国の注目の女性作家キム・チョヨプによるSF短篇集『わたしたちが光の速さで進めないなら』。著者は、1993年生まれで本書がデビュー作と新人だが、技術的には円熟の域。ファーストコンタクトあり、言語SFあり、コールドスリープ、マインドアップロードありと、題材・ネタとしては古典的で王道なものを扱いながらも、ワームホールによる移動手段ができたせいでコールドスリープにより惑星間移動が行われなくなってしまった世界でのコールドスリープ研究者の悲哀を描き出す表題作など、毎回「あのネタをこう演出するのか〜〜〜!!」と驚かせてくれた。2020年刊行の中でも(僕の好みで)上位5に入る作品。短篇集で日本の作家も紹介しておくと、『横浜駅SF』の柞刈湯葉による『人間たちの話』は、昨年出た日本作家によるSF短篇集としては最も心に残った一冊。30億人の国民が相互監視社会の中で画面映えを意識するなど、たのしい監視社会生活をブラックに描く「たのしい超監視社会」。幼い頃から他の人間とズレた感覚を持っている少年と宇宙生物学の研究を通して、生物と無生物、惑星と準惑星の定義など、「人間の都合と科学のズレ」を描き出す表題作など、幅広い弾が撃ち出されている短篇集だ。続いて、ヒューゴー、ネビュラ、ローカスというアメリカの主要SF関連賞を総なめにした、海外SFとして昨年最大の話題作のメアリ・ロビネット・コワル『宇宙へ(上・下)』をオススメしたい。1952年に巨大隕石が落下し、大量の水蒸気が巻き起こることで地球が致死的な温暖化が進行すると予測される、分岐した過去を描き出していく宇宙開発SFだ。致死的な温暖化により人類は急遽地球を脱出しなければならなくなるのだが──といって、現実ではこの後の時代で停滞してしまった宇宙開発が突如活気づいていく、「ありえたかもしれない宇宙開発史」、そして女性計算者/パイロットたちの活躍を描いていて、ジェンダー的な意味でも時代をとらえた作品である。第八回SFコンテストで優秀賞だった二作もセール中。竹田人造『人工知能で10億ゲットする完全犯罪マニュアル』は、AIエンジニアを主人公に据え、ハッキングを軸とした金品強奪事件を描いていくサイバー・ギャングSF。ハッキングは現実の技術にしっかりと根ざしていて、エンジニアの業とでもいうべきものと共に描かれており、特にソフトウェア・エンジニアにはたまらない熱い長篇。十三不塔『ヴィンダウス・エンジン』は、動かないものが一切見えなくなる未知の疾患ヴィンダウス症と、都市を管理する超高度AI、SFと武侠っぽさの融合など複数の要素が中国という場所舞台で繋がっていくカオスなアジアン・サイバーパンク。こちらも独特の世界観がある。

ノンフィクション

ノンフィクションについても2020年刊行のものを中心に紹介してみよう。最初のオススメは、ライアン・ノース『ゼロからつくる科学文明 タイムトラベラーのためのサバイバルガイド』。その副題の通りに、未来のタイムトラベラーが、タイムマシンが壊れ紀元前25000年前に取り残されてしまった! という設定で、その科学のかの字もない時代からいかに文明を再建できるのかについて書かれた一冊。話し言葉や書き言葉をどう作るのかという言語学から、どんな栄養素が欠乏すると病気になるのかといった栄養学。水車の作り方からエンジンまで、『Dr.Stone』の種本みたいな本だ。もうひとつ、こういう時にしかなかなかオススメできない作品としてロネン・バーグマンの『イスラエル諜報機関 暗殺作戦全史』も挙げておきたい。なぜかって、上下巻で各巻3500円もするのですすめづらいのだ。一説によるとイスラエルがこれまで行ってきた暗殺作戦は2700件にもおよぶというが、そもそもなぜイスラエルはそんなに暗殺をしなければいけないのか? という国と諜報機関の成り立ちからしっかりと話を進めてくれる。諜報機関の人間がどんな感情や考えを抱いて暗殺を実行しているのかや、数ある作戦の中には馬鹿みたいなミスをしているものもあって──と、エピソードのひとつひとつが、無類におもしろい。半額でも3500円だが、ぜひ。タラ・ウェストーバー『エデュケーション 大学は私の人生を変えた』は2020年11月刊行のほやほやの作品。狂信的なモルモン教原理主義者の父の元で育ち、学校にも通わせてもらえず、病院にすら行くことができなかった女性が大学に入ることによって今までの自分の常識が間違っていたのではないか……と少しずつ変化していく過程を記した一冊。「教育」が持つ力を明らかにすると同時に、いかに一度植え付けられた常識を脱却するのが難しいのについても語られる、凄まじい回想録だ。特徴的な目の装幀で話題になっていた、マーク・チャンギージー『ヒトの目、驚異の進化 視覚革命が文明を生んだ』と姉妹編『〈脳と文明〉の暗号 言語と音楽、驚異の起源』の文庫二冊も半額中。ヒトの目は短中長の波長を把握し、膨大な数の色を見分けられる3色型色覚を持っているが、哺乳類の多くは2色型である。ではなぜヒトは3色型を必要としたのか? また、目が前にしかついていないのはなぜなのか? 前と後ろについていれば、360度見渡せて便利なのに…といった疑問に答えていく。

その探求の結果として、文字や話し言葉、文明そのものは、人間の脳に最適化された形で造形されているのではないか?? と、脳と文字、脳と文明の関係性を解き明かしてみせる。短いながらもエキサイティングな二冊で、これもオススメ。

他いろいろ

ミステリでは、昨年刊行された斜線堂有紀『楽園とは探偵の不在なり』が特殊設定ミステリの傑作。「二人以上殺した者は"天使"によって即座に地獄に引きずり込まれるようになった世界」で、孤島を舞台に繰り広げられる連続殺人事件が描き出されていく。二人殺すと地獄に行くので、原理上連続殺人事件は起こり得ない。であれば、この島では何が起こっているのか? ミステリ用の設定というだけでなく、これにより社会がどのように変質したのかまで含めて描き出していて、SF読者的にも嬉しい。ミステリとしてはあと、昨年12月刊行の陸秋槎による数学百合ミステリである『文学少女対数学少女』も、数学の厳密さを通してミステリの自由に触れる、記憶に残る連作短篇集なのでこの機会にぜひオススメしておきたい。ファンタジィとしては、先日『サイバーパンク2077』で爆発的なヒット(とバグ)を出したポーランドのゲーム開発会社CD Projekt REDの前作『ウィッチャー3』の原作として知られる、ポーランドを代表するファンタジィ《ウィッチャー》シリーズ全5巻も全部セール対象。正直日本ではゲームの方が有名だが、実は小説の方も超ド級の傑作ファンタジィなのだ。ドラゴンや吸血鬼といったファンタジィ世界の生物たちの生態を細かく描き出し、魔法剣士であるウィッチャーらはモンスター・ハントの専門家として、単純な武力だけでなく知識で活躍していく。Netflixのドラマは原作ベースでこちらも一部を除き基本は素晴らしい出来なので、あわせておすすめしたい。他、最近のメディア関連書を紹介すると、山﨑賢人主演で近日映画が公開される『夏への扉 ―キミのいる未来へ―』の原作であるロバート・A・ハインライン『夏への扉』の新カバー版もセール中。NHKの100分de名著で取り上げられているレイ・ブラッドベリの代表作のひとつ『華氏451度』。いまもっとも僕が毎週待ち望んでいるアニメ『ゴジラS.P<シンギュラポイント>』の脚本をつとめる円状塔のデビュー作『Self-Reference ENGINE』あたりはあらためてオススメしておきたいところだ。

おわりに

ざーっと紹介してきたが、当然1500点も作品があってまだまだ良い本はたくさんある。これがオススメ! などあればまた書いていってください。昨年書いた記事で紹介した本も確認したところほとんどセール対象なので、あわせて参考にしてね。
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また、この記事で紹介した本は僕はほとんど全部詳細な紹介記事を書いているので、せっかくなのでこの下にずらずらと羅列していきます。よかったら参考材料のひとつにしてね。縦に長い記事になってしまうがご容赦あれ。
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こっからは記事では紹介してないけどオススメのやつ
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