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『アーケイン』を観た。ゲーム『リーグ・オブ・レジェンド』を原作とするNetflixのアニメ作品で、第一シーズンが配信されている。今月配信がスタートし『イカゲーム』を抜き去って各国でランキングの一位をとるなど盛り上がっているようだ。
僕は最近毎日LoLをやっているのでもちろん楽しく観た。LoLとは特殊な能力を持ったチャンピオンたちをプレイヤー一人一人がピックして、5vs5で戦うゲームであり、競技シーンも熱く世界大会は数千万人が視聴しトッププレイヤーは数億の契約金が支払われることもある。だが、日本では流行っているとは言い難い状況だ。
ゲームをしらないと楽しめないのか?
先に総評を述べておくと、アニメーションとしての質は非常に高く、シナリオもデザインも演出も素晴らしい。ゲームを知らないと楽しめないんじゃないの? と思うかもしれないが、そんなことはない。僕はこのゲームをやっているが、敵をぶち転がすのにハマっているだけで、どんなストーリーがあるとか、自分が使っているキャラクタにどんな背景があるのかとか何も知らない。スキル性能などを把握して強いやつ、使っていて楽しいやつを使っているだけで、ストーリーも世界観も何もわからない。
つまりゲームを何も知らなくても楽しむことができる。物語はゲーム中ではヴァイとジンクスという二人の姉妹を中心にした物語で、ゲームではヴァイ(姉)は両腕になんだかよくわからんが凄いパンチを繰り出せるガントレットをつけていて敵にまっすぐ突っ込んでいって(スキルの一つは「真っすぐいってぶっとばす」という幽白パロディ(翻訳のみ)の突撃スキルだ)ボコボコにするタイプのファイター・キャラクター。
一方のジンクス(妹)はそれとは反対で、爆弾とガトリングガンや長射程を持つロケットで相手を遠くから撃ち倒すことができる(そのかわりフォーカスされると即死する)ADC(Attack Damage Carry)と呼ばれる役割のチャンピオンである。
ゲームをプレイしているだけだと二人がどんなキャラクタなのかはよくわからない。ピックしたりゲーム中に勝手にしゃべるので、それを聞いているとヴァイは血の気の多いタイプなんだろうな、とかジンクスはトリガーハッピーな頭のイカれたやつなんだろうな、と把握できるぐらいだ。で、このアニメーション作品はこの二人がどうやってゲームに登場しているような姿になったのかを描き出す前日譚にあたる。
このアニメに出てくるヴァイは両腕にガントレットをつけていないし、ジンクスも技術が好きなエンジニアではあるもののガトリングガンは持ってない弱気な少女である。二人は地下世界に住み時に上層に出かけていって強盗を働く、地下世界人としては普通の姉妹であり、なぜ彼女らがガントレットをつけたりガトリングガンを装備したトリガーハッピー的なキャラクタに変質したのか? が描かれていくことになる。
魔法と科学の入り混じった世界
物語には複数の中心軸がある。たとえば金もなければ治安も悪い地下世界と、すべてが整備された都市である上の世界の対立。復讐、暴力の連鎖。それまでは一部の才能ある人間しか使うことのできなかった魔法を誰にでも使えるようにするというジェイスという発明家の探求と、科学と魔法の混交。それによる社会変革について。
そうした、大まかに分類すれば上層と下層の対立、『フランケンシュタイン』から何度も語られてきた科学の進歩とそのリスクというテーマを通して、ヴァイというジンクスという二人の姉妹がなし崩し的に敵対的な立場に移行し、お互いを愛し合いながらも争う様子が描き出されていく。こうした「魔法と科学の入り混じった世界」というのはゲームの世界ではよくある設定だが、本作はその質感の描き方が好みだ。
この「質感」の好みみたいな部分は説明が難しいんだけど、たとえばデザイン上の造形がまずは好みというのがある。魔法を科学に応用するとなった時に、今の我々の世界にあるような何かを作り出すのではなくて、採掘用の道具として巨大なデカい拳で凄いパワーを発揮できるようにするガントレット(ヴァイがつけているやつ)を作るとか、それを発明したジェイスが使っているのも、その魔法の力を応用した巨大なハンマーであったりと、ケイトリンが使う勝手の悪そうなライフルであったり、デザイン的にスチームパンク&マジックの方に振り切っているのがまずおもしろい。
姉妹の重い情念の交錯
ストーリー的におもしろいのは重い情念というか、関係性の物語という側面にある。ヴァイとジンクスは両親をはやくに失った姉妹だがその後育ての親も自分たちがやらかしたことで失っていて、その後ヴァイとジンクスの対立は過激化。ヴァイはその後長く刑務所に入っていたが、その後出所して上層の権力者の娘であるケイトリンをジンクスの代わりの相棒としてジンクスのために動き回り、それをみてしまったヴァイとジンクスの溝は深まるものの逆にヴァイとケイトリンの仲が深まっていく──といった感じで、女性同士の関係性、姉妹物として非常に優れている。
ジンクスは幼き時に自分がやらかしたことでヴァイに一度見捨てられており、その時のトラウマが歳をとってもPTSD的にずっと残っていて、かなり重い情念と恨みをヴァイ(とケイトリン)に向けるんだよね。男女の絡みなどもあるが、基本はヴァイ、ジンクス、ケイトリンといった女性三人の関係性が主軸となっていくのだ。
戦闘とそのアニメーションについて
LoLといえばスキルを用いた派手な戦闘にあるので当然アニメ作品にもそれを求めたくなるし、実際それは第一シーズンの中に組み込まれているのだが、意外に戦闘要素は控えめである。何しろ第一シーズンのほとんどの話数を通してヴァイはただ格闘が強いだけの少女でガントレットは身につけていないし、それはジンクスや他のキャラクタも同様である。つまりゲームらしい──特殊な能力を持った派手なチャンピオンたちが集団戦で自分のスキルを発揮する──シーンは序盤はまったくない。
ただ、それでも前半がきちんとヴァイとジンクス、下層と上層の対立の物語としてドラマ的に十分に観れるものになっていることにまず驚いた。3Dと手書きが混交したアニメーションは素晴らしい仕上がりで、ほんのちょっとしたふれあいや日常的な動作こそが丹念に描かれていて、そうした積み重ねがあるからこそ普通に描くと説得力のなくなる科学と魔法の混交とした世界とその都市が受け入れやすくなる。
戦闘シーンをぎっしり詰め込んだ戦闘ポルノのようなアニメにすることもできたはずだが、本作はそこには踏み込まなかった。そして、溜めに溜めて人間同士の関係性とその背景にある世界観を丹念に描き出してきた分、後半に訪れるヴァイがガントレットを手に入れゲームで見慣れたあの姿になった瞬間や、ジェイスやケイトリンといったゲームでも人気なキャラクタたちが暴れまわるのが魅力的に感じられる。
おわりに
素晴らしい作品なのは間違いなく、ヒットを飛ばしているだけあって第二シーズンもすぐに決まったようだ(話的にも第一シーズンではまだまだこれからといったかんじ。ゲームでは100体以上いるチャンピオンもほとんど出てないし)。
惜しいのはこれを観てゲームLoLに手を出そうと思っても、ゲーム内の民度が著しく低く下手くそなプレイヤーに対する煽りや暴言が当然のものになっている状況で、今からはじめると間違いなく暴言を食らう点にある。僕はポケモンユナイトからMOBAに入ってその後LoLに手を伸ばした超絶新参ものなのだけど、「お前このゲームの才能ないよ」とか「ゲームやめろ」という暴言の数々や凄まじい量のピンの連打(退却や戦闘開始といった定型の意思や、アイテム名などを通知するベルのようなもの)を喰らって心が折れかけた。結局チャットもエモートもオールミュートにして相手が何を言ってこようが何も見えない状態にして続けているが、まあ気持ちよくはないわな。
ゲームとしてはLoLのスマホ版のワイルドリフト(こちらも暴言・煽りは多発するが、ゲーム時間がPC版より短いせいか激しくない。僕はこっちも全部ミュートだが)、チャンピオンが共通しているカードゲームの『レジェンド・オブ・ルーンテラ』の方が良さそう(僕はカードゲームはMTGで手一杯なのでこっちはやっていないが世界観を知る・楽しむにはこれがいいらしい)。