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ハンター・キラー アメリカ空軍・遠隔操縦航空機パイロットの証言

ハンター・キラー アメリカ空軍・遠隔操縦航空機パイロットの証言

ハンター・キラー アメリカ空軍・遠隔操縦航空機パイロットの証言

遠隔操縦航空機(Remotely piloted aircraft)、いわばドローンだが、これにパイロットや指揮官として03年から12年まで関わってきた著者によるRPA体験記である。

RPA(本書ではこの表記を使うので以後はドローンではなくこちらを使う)をめぐる議論は、これが急速にのびて、戦争の形を変えてきているだけに論点もかなり膨れ上がっている。ぱっと思いつく代表的なところを上げても誤爆の問題、無人兵器そのものへの嫌悪感(=一方的な殺戮への嫌悪感)、具体的にどのレベルまで無人兵器のレベルは上がって、戦争の形を変えていくのか。ほんの数時間前までボカボカ爆撃して人を殺して、すぐに家庭へ帰るギャップから生まれる心的外傷、通信を傍受される/コントロールを奪取されることへの問題などなど。法的問題もややこしい。

ただ、本書は基本的には体験記、証言録であるのであまりそうした事態への深い考察を求めるようなものではない。あくまでも、彼が擬似的な戦場で(イラクにも派遣されているが)どのようなことを体験し、何を感じたのかがメインになっている。それゆえの面白さというのもあって、たとえば彼はRPA部隊に初期の頃から関わっているので、空軍の中で日陰者の部隊であることへの葛藤や、活躍が認められてそんな状況が変わっていく状況などいちいち面白い。

RPAの代表的な物の一つ、プレデターがはじめて飛んだのは1994年のことで、当時はまだ偵察がメイン業務だったが2001年にはミサイルを搭載、その後どんどん装備を拡充し任務もまた広まっていった。著者がはじめて着任したのは2003年のことだが、その頃はまだ偵察がメイン業務だったようだ。彼の部隊は出世の終着点であり、陰鬱な空気が漂っていたのだという。その状況はだんだんと変わっていくわけだが、それは結局のところ、ただただ便利だったということに尽きるのだろう。

何しろ偵察に使えば得るところは大きく、失うものは少ない(故障リスクなどは当然あるが)。陸軍の急襲直前まで目的地を偵察し、急襲が開始されると次の標的の偵察にうつる。超高度からシフト制でひたすら監視任務についてもいいし、攻撃許可さえ取れればそのまんま攻撃してもいい。もちろん他戦闘機などと比べれば格段に安価で(F-22ラプターは一機2億ドル、プレデターは320万ドル)、人間は死なない。

それだけに、RPAのパイロットには戦闘機パイロットらとはまったく異なった精神的負担がかかることになる。仕事の一つが「見る」ことだからだ。『スパイの容疑がかかった我々の味方を、タリバン戦闘員が処刑するところをなすすべもなく眺めたことだってある。』敵に姿をさらす場合は敵がこちらを見ているところを正視する必要があるし、戦闘機パイロットなら爆撃をして去っていけばいいところも彼らは地上の惨事をまじまじと観察することそれ自体が任務である。

 RPAコミュニティを取り巻く大きな誤解の一つに、我々が現場から一万キロ以上離れているので殺傷行為から精神的にも距離を置けるというものがある。実際には逆だ。距離が近すぎるのだ。あまりにも大きく映し出すことができる。実際に顔をつき合わせているわけでも自分の命が狙われるわけでもないので、命を賭けてのバトルという状況にはならない。(……)冷酷な殺し方だが、決して感情抜きではない。パイロットもセンサー・オペレーターも、敵が殺された残像を頭に抱えたまま帰途に就く。

有用極まりないRPAだが、軍内では悲惨な立場でもある。かなりの戦果を上げたとしても、現場で命を張ってる側からすればやって当然、逆に思った以上の戦果を上げられなかったら槍玉に上げられやすい。横並びで命を賭けている相手よりも、命をかけない人達へと怒りの矛先が向かいやすいのもあるのだろう。ただ、実際にRPAによってその生命を助けられた人や、偵察によって安全性を確保された人々が増えるにしたがってそうした状況も変わりつつあるようだ。本書でもアサド空軍基地に著者が滞在していた時に、海兵隊から歓迎を受けたエピソードが紹介されている。

今後RPAが活躍する機会が増えることはあれど、減ることはないのだろう。対戦能力は正直いってとっくに人間を超えている(もちろん超えていない部分も多いが)。世間が注目しているのは、そうした状況への倫理性ではあるが、著者はこれに対しては「あくまでも兵器のコントロール権は人間が担っている」ことを強調している。戦闘機が爆撃を行うことと、プレデターが爆撃を行うことの違いは、そこに人間が乗っているかどうかでしかない。あくまでも「パイロットが引き金を引いている」のだと。

この後起こることについて考えられるのは、まあ1.RPA同士の戦争に拍車がかかる。2.引き金もシステムが引くようになる。あたりだろうか。1は技術が発展しコストが低くなるのに比例して起こりつつあることだし、2はどうだろうか……。利益は当然ながらある(人間の心的ストレスが軽減できる、人間の反応速度や優秀なパイロットを育てる時間が短縮できる。普通ならありえないような数千体の同時起動が実現可能になるかもしれない)わけだけど、現状ですでに攻撃許可を得る仕組みが複雑怪奇なことになっているのにそこが自動化されたりするなんてことあるかな。

「確実に攻撃してもOK」という特殊な状況があればいいんだろうが、そんなことあるかな。敵がRPA数千体で攻めてきたとかだったら相手は人間でもないんだしそうなるかもしれないが。なかなか興味深いところである。個人的には「トリガーを引く部分」はまだしばらく侵されないのではという気がするけれど(もうあったりして)。
nypost.com
droneとの進化と一言でいっても↑の記事に書かれている通り鳥型だったり虫型だったりとそれは「従来の物の正統進化」ではなくより用途が特化されたヤバイ物に枝分かれしていくのだろう。虫型ドローンで標的を暗殺とか未来に生きてんな感があるが、テロ討伐に使われているだけならまだしも……という怖さはある。

本書の話に戻すと、あくまでも一人の人間による主観的な体験記であることには注意が必要だが、これまであまり表に出てこなかった部分の体験記として面白い本である。リアルにその手で10年近く操縦してきた人間の言葉の重みがある。