基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

拉致監禁された女子高生妊婦の凄惨な復讐/脱出劇──『メソッド15/33』

メソッド15/33 (ハヤカワ文庫NV)

メソッド15/33 (ハヤカワ文庫NV)

拉致監禁された天才女子高生の妊婦が、1ヶ月以上にわたる監禁生活で道具を一つ一つ集め、その全てを用いて"確実な脱出/復讐計画"を練り、実行する──言ってしまえばそれだけの話なのだが、これがなんともおもしろく、綿密に状況を組み立て感情を十全に載せていく文体はデビュー作とは思えないほどに洗練されている。

クレイジィで邪悪な女子高生

女子高生妊婦のキャラクタは一言でいえばクレイジィで、常識を超えた復讐をためらいなく実行しようとする。何しろ、物語は監禁4日目から始まるがその書き出しは『男を殺すことを考えながら四日目もそこに横たわっていた。』だからね。自分の身を案じる以前に、加害者への明確な殺意によって衝き動かされている狂犬なのだ。

彼女の特異性が明らかになったのは小学生の頃だ。恐怖を感じていないようだから調べてもらったらどうかと言われ検査したところ、上位1%に入る前頭葉の大きさを持つことが判明。さらには、恐怖、愛などの感情について完全にオン/オフを自分の意志でコントロールすることができ、その上、わりと邪悪な性格をしている。

 はっきり言って、わたしには少し邪悪なところがある。目の前でもがき苦しんでいる者がいるのを見ておもしろく気持ちがあり、こうした感情を駆逐することができないのだ。医者にはこのことを内緒にしておいてほしい。今のところは社会病質人格の判断はされていないが、こんなことを聞くと考えを変えるだろう。

感情を完全にコントロール出来る上に平然とこう独白するので、こんな邪悪な女子高生が自分を拉致監禁した相手に対していったいどんな惨劇を展開させるのか──とドキドキしながら読み進めることになる(あまりにクレバーなので彼女がやられる姿が想像できない)。書名になっているメソッド15/33というのは、彼女が用いる計画において中核を成す道具のNo、およびそれを用いた復讐/脱出計画の名前だ。

 一度読んだことがあるのか、聞いたことがあるのか定かではないが、人間はわずか五センチメートルほどの深さの水でも溺れ死ぬのだという。わたしには水がある。道具No33。これは三十三日目に使う。わたしは計画を「15/33」と命名した。

漂白剤、ひも、ビニール袋と最終的に何に使うのかはわからない道具に一つずつナンバを割り振って、役割を当てはめていく。それどころか、時に計画に必要なさそうなものであっても、これを使えばもっと苦しませてやれるかもと企み計画は凄惨さを増していく。『わたしの計画では、この思いがけない贈り物は必要ない。しかし、実行を目前にひかえているものの、漂白剤を効果的に使う方法を考えた。さらに苦しませてやる方法。』監禁されているとは思えないほど邪悪である。

怪物vs怪物

作戦決行時に、それまで断片的にしか明かされなかった点と点が流れるように結実していくのは最高のスペクタクルだ。彼女のためらいのない殺意に途中ドン引く人もいるかもしれないが、一貫して彼女も異常性を持つ存在として描写されていくのもあって、『その女アレックス』などの脱出劇に連なる作品というよりかは、フレディvsジェイソンとかエイリアンvsプレデターみたいな怪物vs怪物物に近い感触がある。

それにしても明らかにこの"殺意"は、法が定める罰を超えている。その辺、ただ痛快に、無自覚に法を乗り越えさせているわけではなく、法廷のシーンもあったり(著者自身弁護士だし)、"法を超えてなされる復讐の是非"という問いかけもちゃんと浮かび上がってくる──がとにかく感情の流れとしてはストレートに"やろうぶっ殺してやる!"に尽きるので、そこに乗ってきゃっきゃと読んでも楽しい作品だ。

おわりに

脱出/復讐パートと交互に、超記憶力を持つ特別捜査官ロジャー・リウが誘拐事件の調査を進め、別側面から誘拐犯を追い詰めていくエピソードも語られていく。ミステリ文庫から出ているわけでないことからもわかるとおり(ハヤカワNV)ミステリというわけではないが、捜査小説としてなかなか優秀な出来である。

記事を書くために冷静に振り返ってみると、後半は疾走感が落ちるなと思ったり気になるところも出てきたが、読んでいる間は興奮しきっており、途中で読み止められないノンストップノベルなのは確かだ。何しろこれがデビュー作ってのが凄い。より洗練されていくはずの二作、三作目がめちゃくちゃ楽しみである。