基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

誰もが自衛にしか使えない"最強の武器"を持つ世界──『武器製造業者』

武器製造業者【新版】 (創元SF文庫)

武器製造業者【新版】 (創元SF文庫)

イシャーの武器店【新版】 (創元SF文庫)

イシャーの武器店【新版】 (創元SF文庫)

誰もが自衛のみにしか使えない"最強の武器"を持ち、組織や政府が個人に危害を加えようとした際に対抗できるようにしたら、統治者と被統治者の間に偉大な均衡が生まれるのではないか──そんな単純な仮定を推し進めた社会を壮大なスケールで描くのが『イシャーの武器店』『武器製造業者』からなる〈武器店〉二部作だ。二作とも歴史的名作と名高いが、今回東京創元社から新版が刊行されたのである。

世界観とか

もちろん最強の武器──たとえば2万キロ離れていようが一瞬で対象を蒸発させられる武器とか──があっても、ギャングや犯罪者によって用いられたら元も子もない。本書で各地に点在する"絶対に破壊できない武器店"から提供される最強の武器は自衛以外には用いることはできず、悪用される恐れはない。誰かに危害を加えれば即死する危険性があるので、確かに抑止力が働き平和な世界が訪れるようにみえる。

ひとつだけ発見したことがある──つまり、民衆はどんなときでも、自分たちの求める政府を手に入れるものだということで、民衆が変革を求めるなら、民衆の手によって変革を起こさなければならないのです。わたしたち武器点はどんなときも、絶対腐敗堕落することのない中核としてとどまるでしょう──

ただしこの〈武器店〉勢力は政府とは無関係な存在であり、地球を支配するイシャー帝国と武器店勢力は対立を続けている。第一部となる『イシャーの武器店』では、数千年のスケールで武器店とイシャー帝国の一大決戦を描き、第二部『武器製造業者』では両方の勢力から狙われる〈不死人〉ヘドロックを主人公に恒星間航行技術や超越文明を持つ地球外生命体まで出現し全宇宙規模のドタバタが展開する。

当然のように〈不死人〉という言葉を使ったが、この世界では不死の人間もいれば、既知の因子を統合し精確な直感判断力を発揮する〈能力人〉もおり、町を破壊する謎の巨人あり、時空間移動あり、恒星間航行あり、地球外生命ありと縦横無尽にSF要素が投入されていく。〈武器店〉二部作はそうしたアイディアを惜しげもなく用いながら、世界観も話のスケールも1ページごとにガンガン広げ、毎度見事な構成で(特に『イシャーの武器店』点は素晴らしい)、破綻も茶番感もなく盛り上げる──そんなA・E・ヴァン・ヴォークトの魅力が十全に詰まった作品である。*1

謎の巨人が町を破壊し、駆逐戦闘艦がエネルギー砲を放ち、数千年単位で時を超え、地球を丸ごと破壊するエネルギーを扱い、恒星間移動中に地球外生命体と接触してしまう──"無茶苦茶だよお!"としか言いようがない光景が広がっていくのだ。

どちらから先に読むべきか問題

ちなみに発表順としては第二部であり時系列的にも後ろの『武器製造業者』が先であり、『イシャーの武器店』が後である。僕は時系列順(イシャーから)に読んだのだが、読み終えてみれば二部を通して中心人物たるヘドロックのパーソナリティがよりわかりやすく、〈能力人〉についての説明など世界背景がよくわかるのが『武器製造業者』なので、こっちから読んだほうが情報がわかりやすいと思う。

とはいえ、それは読む順番を拘束するほどの物ではない。どちらも違った意味でスケールの大きな話なので、興味が惹かれた方から読んでみるのもいいだろう。『イシャーの武器店』は7000年の時を超えてタイムスリップした男が、過去──未来──過去──未来と連続した挙動を繰り返しながら諸惑星の創生にまで辿り着いてしまう話だし『武器製造業者』は広大な宇宙を股にかけた人類と宇宙生命、対立のたえないイシャー帝国と武器店の新たな局面が"不死人"ヘドロックの恋愛と共に描かれる、壮大さとロマンチックさのあいまった圧巻の一作である。

おわりに

どちらをとっても、個人的には甲乙つけられないおもしろさなので、そこは保証しておこう(ごった煮感としては『武器製造業者』だし、スマートさでは『イシャーの武器店』が好きだ)。しかし最近、ベイリーやらヴォークトやら、過去の名作の復刊・新訳・新編が止まらなくて読めてなかった身としては嬉しい限り。

*1:いわば、ワイドスクリーン・バロックだ