- 作者: 劉慈欣
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2019/07/04
- メディア: Kindle版
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何しろ、2060年ぐらいの未来を舞台に、太陽が予定より数百億年早く燃え尽きようとしており、100年後には地球を飲み込んでしまう! ⇛ このままでは人類破滅だ! ⇛じゃあ地球の赤道にそってエンジンを設置してまるごと別の恒星系に移動させよう! そのあいだ人間は地下な! みたいなスピーディな展開が冒頭のわずか数分〜十分ぐらいの間になされて、あっという間にその20年後、地球の地下で生活を強いられる少年と少女がなんとか地上に出ようと奮闘するパートが始まるのだ。
その最初の説明パートが圧倒的で、とにかくヒキの絵が多い! ヒイてヒイて、地球全体の絵を撮りながら、とてつもなく巨大な地球エンジンが地球の各所に配置されているありさま、太陽の膨張に伴って地球が大変なことになっている災害映像、地球のナビゲート役をつとめる司令塔たる国際宇宙ステーションを作るために打ち上げられる何千機ものロケット! ととにかく圧巻の「絵」が連続していくのである。
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原作とはまるで話が違う
正直、映画は原作とは大きく話が違う(2008年9月号のSFマガジンに翻訳が載っているのだけど、僕は未所持だったのでこの記事を書くために英語のKindle版を買って読んだ)。映画ではその後地球が木星でスイングバイ(惑星の引力を借りて速度を増すこと)する時にいろいろあって地球が木星に近づきすぎてやべー! なんとかして木星を地球から引き離さねえと! という全人類の奮闘が、国際宇宙ステーションで勤務する父と地下で暮らしながら地上に憧れるアホ息子の親子の物語と合わせて語られていくんだけど、そこで実行されることになる壮大な作戦は原作には出てこない!
そもそも原作では特に重大な危機もなく木星の軌道を通過してしまうから、事件そのものが起こらないのだ。原作にはまったくない展開をメインに据えたおかげで計画も実行もガバガバすぎて(映画は)唖然とするような面もあるんだけど、なんというかその唖然とした顔を一瞬で吹き飛ばすような圧倒的な「絵」があって「ああうんいやもう受け入れさせてください……」とひれ伏せざるを得なくなってしまうような凄さがあるんだよね。全篇とんでもない絵が連続するんだけど、特に木星に近づいてからが凄くて、「木星が地球の大気を捕獲してる……」というセリフがあるように、木星の巨大な引力に地球の大気が一筋の川のように吸われているカットとか、地球の空いっぱいに木星が浮かび上がっているカットとか、感動的な絵作りが行われている。
で、お話の方はじゃあ結局ガバガバでダメなの? というと、僕的には全然あり! ガバガバはガバガバだがそれなりに理屈をつけようとしている点に好感が持てるし(誰でもそうするだろうが)、何より「人類はもう終わりだーーーー」「いやまだまだいけるぜおらーーーー!!」みたいなテンションの乱高下がたまらないんだよね。そもそも原作から地球にエンジンつけて飛ばすぜオラー!! な話なんだから、ちょっと無茶なやり方で木星激突を回避しようとしたってぜんぜんありでしょう。
それはそれとして登場人物の死に方があまりにもダサくないか……? だったり、主人公の男の子がいくらなんでもアホで、アホなだけならまだしも好感度ダダさがりな造形だったり、いやお父さんさすがにそれはどうなのよ……だったり、人物の行動にはついていけない面も多いんだけど、ま、全ては映像が凄いので帳消しですな。
あといろんなSF映画からの引用、オマージュが露骨で、そのへんも好きな人は好きなんだろうけど僕はいやちょっと雰囲気的にどうかな……と思う面もあったが、些細なことである。ちなみに原作と大きく違うとはいえ、太陽に飲み込まれる前に地球にエンジンつけて太陽系脱出するぞーというコア部分は同じだし原作のところどころのエッセンス的な部分は取り込まれている感もあり、割とうまい感じに中国的大作映画ナイズされてるんじゃないかなあ。
おわりに
僕は大絶賛だけどアホみたいな人間ドラマ部分でウンザリさせられてしまう人も多そうではある。原作はより地味だけど、科学描写を交えながら、地球が放浪の旅に出た後の世代にあたる、一人の人間の視点を通してこの「さまよえる地球」に住まう人間たちを詩的におっていく逸品だ。人間ドラマというよりかは地球人類というものがいかに太陽という偉大で荘厳なものに支えられてきたのか、それが失われるとはどういうことなのかを太陽系脱出と合わせて描き出していて、映画とは別物としておもしろい。SFマガジンを探して読むかKindleで英語版を読んでみてはどうだろうか。
The Wandering Earth (English Edition)
- 作者: Cixin Liu
- 出版社/メーカー: Head of Zeus
- 発売日: 2016/11/03
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