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デンキウナギはいかに電気を生み出すのか──『動物たちのすごいワザを物理で解く』

動物たちのすごいワザを物理で解く: 花の電場をとらえるハチから、しっぽが秘密兵器のリスまで

動物たちのすごいワザを物理で解く: 花の電場をとらえるハチから、しっぽが秘密兵器のリスまで

  • 作者: マティン・ドラーニ,リズ・カローガー,吉田三知世
  • 出版社/メーカー: インターシフト
  • 発売日: 2018/04/09
  • メディア: 単行本
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この世界は物理法則によって支配されている。

500m移動したら別の法則が支配している──といったことはない。なので、人間以外の動物たちも物理法則の世界で生きている──だけでなく、彼らはうまいことその法則を利用している。本書は、そうした動物たちのすごワザを、熱、力、流体、音、電気・磁気といった五章に分けて、物理学的に解き明かしていく一冊になる。

地味な本だな〜というのが読む前の感想だったが、読んでみたらこれが随分おもしろい。なんというか、「動物たちのすごいワザを物理で解く」と聞いて最初に想像したラインをどれも一歩も二歩も踏み越えていくので、うわ、そうなんだ! という純然たる驚きが連続する。たとえば、犬や猫が体をぶるんぶるん震わせて水を飛ばすが、これは最も小さな動物たちが最も早く、最も大きな動物たちは最もゆっくり行うという。鼠は毎秒約31往復。猫は毎秒9往復。ヒグマは、毎秒やっと4往復である。

熱の章。イヌ。

一頭のラブラドールがぶるぶるの時に使うエネルギーの量を見積もるには、まずラブラドールの揺れているすべての部分の質量に、胸囲の半径の2乗と、振動の頻度の2乗をかけあわせ、その結果を2で割る。そこで得られた数字に、ラブラドールが合計何回体を揺さぶったかをかければいい(この値は、もちろん精確なものではないが)。

ここまででも「お〜なるほど」という感じではあるが、さらに「ラブラドールが振り落とすのは水の何パーセントか?」と問いかけが続く。振り落とされた水の質量なんか測れなくない? どうやって調べるんだ? と疑問に思いながら読み進めると、なんと研究者は「びしょびしょのイヌの体揺さぶりシュミレーション・ロボット」を開発し、実際に何グラムの水が落とされるのか調べたのだという。それによると、イヌが500グラムの水を含んでいたとすると、350グラム近くを振り落とせるという。

150グラムも残っていると家にそのまま上げるわけにはいかないので結局雨の日などは風呂場に連れて行って面倒くさいがガシガシ吹いてやることにはなるのだが、それはそれとしてタオルも使わないのにけっこう落ちるものである。

熱の章。リス。

熱の章でびっくりしたのがカリフォルニアジリスだ。こいつはけっこうやるやつで、ガラガラヘビと戦って全戦全勝とまではいかなくても、勝ったり負けたりする。で、その時に砂を蹴立ててヘビを長髪したり、メスのリスはガラガラヘビの脱皮後の皮をかじって、ガラガラヘビの匂いを体につけて、相手になりすましたりする。中でも特徴的なのが、ガラガラヘビと対峙する時に、尻尾を垂直に立てて左右に振るのだ。

これ、なんとただの挑発やカッコつけのポーズではない。マムシ属のヘビは赤外線を探知し、周辺の温度マップを作成できる。彼らは温かい物体を探知できるので、闇夜に紛れて獲物にこっそり近づける。実はリスが尻尾を振るのは、このヘビの能力と関係している。リスが尻尾をふりふりしているとき、血を送り込むことで尻尾の温度が(摂氏23度から25度へ)変わるのである。ヘビは当然それを探知する。突如として温度が上がった尻尾を前にしてヘビが何を思うのかは知らないが、少なくとも混乱はするのだろう。実際、リスは赤外線に反応しないヘビには尻尾を加熱させないのだ。

力の章。蚊。

蚊はこの本の中でも人気で何度か顔をみせるが、力の章での考察がおもしろい。蚊は小さいのだから雨粒を食らったら一発アウトで死ぬんゃないの? というのがここでなされる問いかけだ。蚊の体の大きさからすれば雨粒は人間で言うところのトラックに相当するが、蚊は極めて軽いので、運動の第二法則によれば蚊の体重を2ミリグラムと仮定すると、蚊が一個の雨粒から受ける力は0.0003ニュートンになる。

つまりぶつかったところで衝撃自体は大したことはない。そのうえ、ここからがすごいところだが、蚊は一度水滴にぶつかった後、ボクサーがパンチの勢いを殺すために自ら体を後ろにそらすように、衝撃を殺すため水滴にしがみついて一緒に落ちるのだという。研究者によると、39ミリもの間一緒に移動した例もあり、飛んでいる最中に水滴にぶつかった蚊はみな生き続けた。雨の日であっても蚊が飛んできて刺しやがるのが長年疑問だったのが本書でその謎が解けた。本当にウザいやつらである。

電気・磁気の章。デンキウナギ

さて、この調子だと全部あれもおもしろいこれもおもしろいと本書の内容を全部書いてしまうので最後にデンキウナギについてだけ紹介して終わりにしよう。デンキウナギはその名の通りに電気を出すウナギだが、その電気は強く人間すら危ない。果たして彼らはどうやってそんな電気を生み出すのか? 自分は感電しないのだろうか?

デンキウナギは電気細胞、あるいは発電細胞と呼ばれる特殊な細胞を6000個も持っている。普段はこの細胞は右側も左側も外が正で負が内側、電池の負極同士が接触するように(+--+)なっていて、全体としての電圧はゼロで、電流は流れない。しかし、電気細胞は神経線維によって脳に繋がっており、デンキウナギが興奮することで電気細胞の片面に小さな穴をたくさん開けることができる。そうすると正イオンが細胞内部に流れ込んで、内側が正で外側が負になり、(+--+)だった状態は(+-+-)となる。

そうすると当然電圧が発生する。一細胞あたりはそこまででなくても(0.15ボルト)、6000個もあるので、一斉に穴を開ければ900ボルトの電圧を生み出すことができる。デンキウナギ君はその力を用いて、水の中で何か動いていたり、いそうだと感じるとパルスを撃ち込んで反応をみる。それが反応して動き出し、獲物だと確定したらいよいよ高電圧の電気パルスを毎秒400回送り込み相手を痺れさせることになる。デンキウナギは体内の脂肪組織が絶縁体の役割をはたすので、感電しないという。

おわりに

と、個人的に気になった動物たちのすごワザを中心にピックアップしてみたが、「へ〜そうなんだ」で終わらずに、基礎物理の勉強にもなるオトクな一冊だ。通して読むと、ほぼ、身近な動物を通して学ぶ基礎物理の本としても仕上がっている。

たとえば、デンキウナギを扱った箇所では、そもそも電気とはいったい何で、電気が流れるとはどういうことなのかを。アメンボが水に浮く説明では水の表面張力のことがわかり、ハチがなぜ飛べるのかの説明では空気力学がざっとわかるようになっている。この記事では音、光、流体といった章にまったく触れていないし、力や熱の章にも他にたくさんのスゴワザが取り上げられていくので、気になった方はぜひどうぞ。