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科学とSFが交わる刺激的な場所──『広い宇宙に地球人しか見当たらない75の理由』

広い宇宙に地球人しか見当たらない75の理由

広い宇宙に地球人しか見当たらない75の理由

なぜこの宇宙には我々しかいないのか。いったいみんなはどこにいるのか?

本書『広い宇宙に地球人しか見当たらない75の理由』はそんな問いかけに対して75もの解答と、それに対するあーでもないこーでもないという議論を載せたものである。我々は我々以外のみんなに出会ったことがないので、地球外知的生命体に対して、究極的にはいるかもしれないしいないかもしれないというあやふやな形でしか語ることができない。だが想像を広げることはできる。根拠となる数字をあげ、具体的にどれ程の可能性で”宇宙人”がいるのかを推定することもできる。

フェルミのパラドックスを論じることは、科学とSFが交わる刺激的なところに位置するものなので、(……)初版が出版されて一〇年以上が経ち、私はフェルミの問いが科学でも差し迫った問題の一つだとますます思うようになったが、それはまだ、専門の科学者よりもSF作家の方が論争に貢献している分野にとどまっている。

もともと『広い宇宙に地球人しか見当たらない50の理由』として出ていた本の増補改訂版となるが、その後発覚した新しい宇宙科学上の発見も全面的に取り入れられているので(原著は2014年刊行)、十分「今」の一冊として読める。ピーター・ワッツ『ブラインドサイト』など現代SFへの言及もあり、バカバカしいものから真面目な計算を伴うものまで、全篇通してワクワクしながら読み進めることができた。

フェルミのパラドックス

それではざっと紹介していこう。本書はフェルミ・パラドックスについての本である。計算上エイリアンがいる証拠が見つかってもよさそうななのに、いるようにみえないという矛盾のことだ。その矛盾に対し、多くの人が「こんな理由なんじゃないの?」と説をあげており、本書ではそうした75通りの理由を紹介していく。

本書では75の理由を三つに分けている。1.地球外生命はすでに何らかの形でこちらに来ている。2.地球外生命は存在するものの、何らかの理由でその存在を示す証拠が見つかっていない。科学者の間ではもっとも人気のある説だ。3.宇宙にいるのは我々だけである。そもそも地球外の知的生命はいないから遭遇することもないのだ。

実は来ている

「実は来ている」の章には現実的な物は多くないが、解6「現にいて、それはわれわれのこと──われわれはみなエイリアン」はありえる線だ。たとえば、生命が別のところ(たとえば火星とか)で生まれ、何らかの方法で地球に運ばれてきたのではないかとする「パンスペルミア説」は昔から絶えず、今なお否定されていない。どうやって宇宙を生命が生きたまま渡ってくんのよ? と思うかもしれないが、極限環境生物の研究が進むにつれ、むしろその信憑性はましているとさえいえるかもしれない。

このパンスペルミア説はいくつかの亜種があって、たとえば誘導パンスペルミア説というものがある。これは原始的な生命が意図せずして隕石で運ばれたのではなく、何者かによって”意図的に”送り込まれたのではないかとする説だが、仮に我々の起源がこれだとしても検証する方法は……わからない。本書では検証可能なものと検証不可能なもので呼称をわけており、前者は「仮設」、後者は「シナリオ」としている。

たとえば解7は動物園シナリオだが、これは地球外知的生命は我々が自然に歩んでいけるようにこっそり柵をつくって見守っているのだとする説とその亜種の紹介で、実質的に検証が不可能、あるいは極度に難しいので「シナリオ」になっている。

何らかの理由で我々とは接触できていない

ここでは技術的なもの(星間航行は実現できない)、実践的なもの(恒星間距離にわたる通信は難しい)、社会学的なもの(星間旅行を開発できるほど進んだ社会は必然的に自滅する)など、最も多い40例紹介される。ここは科学者たちもあれこれと数字をいじくって検証しており、読み応えのある場所だ。たとえば解の12は「こちらまで来るだけの時間がまだ経っていない」という、ありそうなもの。ただ、反論も多々ある。

マイケル・ハートは地球外知的生命が植民用の船を0.1cの速さで手近の星に送り出し、行った先のコロニーでまた次の植民船を送り出すとすれば、この地球外知的生命はすぐに銀河じゅうに植民することになると論じた。無論休まなければならないからざっくり減らして0.05cで拡散するにしても、天の川銀河の端から端までたったの100万年ほどで移民が完了してしまう。人口が増加しないと移民を送り出せないだろとかいろいろあり、人口増加率を加味したパターンなど、無数に検証されている。

この関連でとりわけ魅力的なのは解22「ブレースウェル=フォン・ノイマン探査機」だ。先の例では移民をするのは有機生命体であることを前提としていたが、無機物の方が効率的に伝搬できる。たとえば、フォン・ノイマンが考案した自己増殖自動機械──自己の複製を作り、増殖しながら命令を実行する機械があれば、人口の増加など待つ必要もなく、惑星から惑星へc÷40ほどの速度で移動し続けることができる。

知的で技術的に進んだ文明が一〇億年前に登場していたら、またそれが0.8cで進む探査機を送り出す能力を育てていたら、一〇〇万を超える銀河からの代表が今頃こちらに達していてもおかしくない。フェルミの問いを考えるときには、天の川銀河だけでなく、その近辺の銀河すべても考慮しなければならない。ブレースウェル=フォン・ノイマン探査機はこのパラドックスに本当の切れ味を与えるのだ。

どこにもいない

これは悲しい話だが説得力があるのもまた事実。生命がまだ出現して間もないのかもしれないし、知的生命は本当に本当に珍しいのかもしれないし、そもそも地球というものが奇跡的な惑星なのかもしれないし、銀河系は我々が思っているよりもずっと危険だという考えもある。ブラックホールが100万もふらふらさまよっているという推定もあり、超新星爆発はたやすく周囲の生態系を破壊しつくしてみせるだろう。
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本書で紹介されているタイムリーな説が解66「ちょうどいい相方はめったにいない」。2013年に惑星生物学研究の論文として、「地球の生命の元は火星説」が出された。これは地球ではRNA、DNA、タンパク質が合成される手順をふんでいくのが環境的に難しい──が、当時の火星は乾燥していて酸素が多かったので、原初的な生命の生成過程としては地球より火星の方が有利だった。なので、生命の基本的な部分は火星で出来て、その後地球に移動して繁栄したのではないかとする説である。

つまり、「生命が生まれるには地球だけではなくて、ちょうどいい火星という相方がいなければだめなのでは?」、もしそうであるならば、生命が存在するために必要な条件はクッソ難しいのでは? だから宇宙人はこないのでは? とする解だ。ちょっとアクロバティックすぎるけどまあ、仮説としてはおもしろいね。

おわりに

と、ざっと紹介してきたが、この10倍以上の「解」が本書では網羅されているので、ぜひ買って読んでもらいたいところ。この分野、日々の進歩や発見が著しく陳腐化していってしまう側面もあるけれど、当時はちょっとそれっぽいバカ話的な説が大真面目に検討にあがってきたりして──というダイナミズムもある。また10年後ぐらいに100の理由を出してもらいたいもんだが──もう見つかってたりしてね。