基本読書

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早川書房が「文系も楽しめるサイエンス」電子書籍ノンフィクションほぼ半額セールをやっているからオススメをピックアップ

病の「皇帝」がんに挑む 人類4000年の苦闘(上)

病の「皇帝」がんに挑む 人類4000年の苦闘(上)

突然早川書房が「文系も楽しめるサイエンス」としてサイエンスノンフィクションの電子書籍セールをはじめたので、何冊かオススメをピックアップしてみよう。ざっと見渡してみると、マット・リドレーあり、オリヴァー・サックスあり、ムガジーあり、ホーキングあり、脳科学あり、宇宙あり、遺伝子、生物学系あり、数学も(ちょっと)ありと、近年の話題作がわりとまとまっているお得パック感があり、8割方しか読んでいませんが、だいたいどれを読んでもおもしろいんじゃないかと思います。

近刊より

とりあえずこの一年ぐらいに出た近刊から紹介。まずオススメしたいのはスティーブン・スローマン&フィリップ・ファーンバックの『知ってるつもり 無知の科学』。

知ってるつもり 無知の科学 (早川書房)

知ってるつもり 無知の科学 (早川書房)

  • 作者: スティーブンスローマン,フィリップファーンバック
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2018/04/15
  • メディア: Kindle版
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人間が無知である、ということを教えるのではなく、人間は自分が思っているよりも無知であることを知らしめてくれる一冊。というのも、人間の多くは実際にはわずかな知識と理解しか持っていないのに”知っている”と錯覚しているものだからだ。電子レンジって知っていますか? と聞かれれば大抵の人はその存在を知っているが、ではその動作原理は? と問われればどれだけの人が精確に答えられるだろうか。本書は、そうした知識の錯覚が”ある”というだけではなく、なぜ起こるのか、どうすれば知識の錯覚から逃れられるのかまで含めて包括的に検証していく一冊になる
遺伝子―親密なる人類史(上) (早川書房)

遺伝子―親密なる人類史(上) (早川書房)

近刊としてはシッダールタ・ムカジー『遺伝子―親密なる人類史』も是非ゲットしておきたいところだ。人類がいまだに乗り越えることができない「がん」について人類史を描きあげるようにまとめたド名著『病の「皇帝」がんに挑む』の先へ進み、遺伝子に挑んだこの一冊。人類史において遺伝子の取扱は常に”危険”なものでもあったが(優生学など)、その重要性は遺伝子を自由に改変できる世界が現実のものになった今、増し続けている。我々はどこまで我々自身を改変すべきなのかという問いかけをしながら、遺伝子を過去から未来まで一気に取り扱った射程の広い名著である。

『病の「皇帝」がんに挑』もセールになっているのでこの機会にどうぞ。この本単純にがんについての勉強になるというか、がんの治療とともに発展してきた科学の歴史であり、研究者として携わってきた人間がどのようにつまずき、袋小路に入り込んでいったのかという苦闘の歴史書であり、途方もなくおもしろいんだよね。

ドビュッシーはワインを美味にするか? 音楽の心理学 (早川書房)

ドビュッシーはワインを美味にするか? 音楽の心理学 (早川書房)

心理学物の近刊としてはジョン・パウエル『ドビュッシーはワインを美味にするか?』もいい。人間はつらい時も楽しい時もゆっくりしている時も音楽を聞くものだが、なぜ我々は音楽を愛するのだろう? 音楽を聴くことは、脳にどのような刺激を与えているのだろうか? といったことを科学的に解き明かしていく一冊である。「メロディとか不協和音って、そもそもどういう原理で決まっているの?」とか、原理的な部分に迫る内容が多く、読み終えた時には音楽がわかった気になる(錯覚だ)。

ここからは分野ごとにざっくり紹介していこう。

遺伝子、生物学系

遺伝子系で是非オススメしておきたいのはマット・リドレー『進化は万能である 人類・テクノロジー・宇宙の未来』。本書の主張は劇的なもので、人間は意図やデザインや企画立案といったものを重視するが、実は人間の歴史を駆動してきたのは”上からデザインすることで変化が起こっていく”流れではなく、”偶然で予想外の現象で、大きな変化を引き起こす意図のない無数の人々”だとリドレーは主張する。

進化は万能である 人類・テクノロジー・宇宙の未来 (早川書房)

進化は万能である 人類・テクノロジー・宇宙の未来 (早川書房)

たとえば発明家が発明を起こすのは、ジョブズがiPhoneを作ったようにデザインの勝利のように思える。しかし、各種発明品は時代の発展、技術の発展に伴って発明されるべくして発明されたのだとする『テクニウム』からの引用をしながら、「技術の進歩には、個人の意図に依らない圧倒的な必然性がある」と結論づける。ぱっと見トンデモ論にみえるが、説得力の有無は読んで確認してもらいたいところだ。リドレーの『赤の女王 性とヒトの進化』もセール対象かつ遺伝子系の良書なのでオススメ。
スポーツ遺伝子は勝者を決めるか? アスリートの科学 (ハヤカワ文庫NF)

スポーツ遺伝子は勝者を決めるか? アスリートの科学 (ハヤカワ文庫NF)

デイヴィッド・エプスタイン『スポーツ遺伝子は勝者を決めるか?』なんかも、よく言われる”黒人は運動能力が凄い”説がどこまで本当か。遺伝子はどれほど成績に影響を与えているのかを大量の研究と共に紹介してくれる一冊でおもしろい。

脳科学本

あなたの脳のはなし 神経科学者が解き明かす意識の謎 (早川書房)

あなたの脳のはなし 神経科学者が解き明かす意識の謎 (早川書房)

脳科学としては割合新しめの脳科学と意識の知見がつまった、デイヴィッド・イーグルマン『あなたの脳のはなし 神経科学者が解き明かす意識の謎』は良い一冊。あと2015年に亡くなられた、神経学者にして名文家オリヴァー・サックスの代表作がほとんど入っているのも素晴らしい。脳炎の後遺症によって身体の自由が奪われてしまった患者たちへの治療の日々を綴った『レナードの朝』、妻の頭を帽子と間違えるなど、珍しい症例の患者たちのエッセイ『妻を帽子とまちがえた男』など傑作揃いだ。

宇宙

五〇億年の孤独 宇宙に生命を探す天文学者たち (早川書房)

五〇億年の孤独 宇宙に生命を探す天文学者たち (早川書房)

クリストフ・ガルファール『138億年宇宙の旅』はホーキングの共著者による宇宙の歴史解説書。手堅くまとまっている分飛び抜けたおもしろさはないが、こういう本をざっと読んでおくと宇宙そのものの全体像への把握に繋がっていい。また、途方もなく進歩した銀河文明を探してメッセージを送ってみたり、どのような惑星であれば生命が存在し得るかを研究してみたりといった、”他の惑星に生命を探している”ちょっと変な人たちの物語である、リー・ビリングズ『五〇億年の孤独 宇宙に生命を探す天文学者たち』はこの手の本が好きな人にはたまらない一冊である。

その他

ホワット・イフ?――野球のボールを光速で投げたらどうなるか (早川書房)

ホワット・イフ?――野球のボールを光速で投げたらどうなるか (早川書房)

ランドール・マンロー『ホワット・イフ? 野球のボールを光速で投げたらどうなるか』は副題に入っているような素朴な疑問を科学的に突き詰めて&ゆるい棒人間イラストで描き出していく一冊なのだけれども、とにかく読者からの問いと答えのレベルが高い。Facebookで死んだ人の方が生きている人より多くなることがあるとすればいつ? とか、太陽の光が突然消えたら、地球はどうなりますか? などなど。
偶然の科学

偶然の科学

我々はみな漠然と自分の人生の何割かは偶然に支配されていると感じているだろうが、具体的にどれほど偶然の力は作用されているのか。成功者と呼ばれる人たちは、実際のところどこまでが実力で、どこからが運だったのだろうか?(たとえばジョブズは本当に凄い実力でアップルを復活させたのか? 何割が運の賜物なのか?) などなど、世界に満ちている”偶然”について科学するダンカン・ワッツ『偶然の科学』は邦訳が2012年頃に出た本だが今でも十分に通用する内容だと思う。

おわりに

などなど。オススメを紹介したが、早川書房から出るサイエンスノンフィクションは基本的に当たりなので、他の本を買っても全然問題ナシ。数学については触れられなかったが、数学の歴史本であるマリオ・リヴィオ『神は数学者か?』や、無限をテーマにした一冊アミール・D・アクゼル『「無限」に魅入られた天才数学者たち』や、高度な数学を駆使して金融工学を作り上げていく”クオンツ”たちの物語『ジェイムズ・オーウェン・ウェザーオール『ウォール街の物理学者』』あたりはオススメ!

ウォール街の物理学者

ウォール街の物理学者

ちなみにほとんどの本についてこのブログで記事を書いているので検索してみると詳細な書評が読めると思います。