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動物群に広がる多様な知性──『鳥頭なんて誰が言った? 動物の「知能」にかんする大いなる誤解』

鳥頭なんて誰が言った? 動物の「知能」にかんする大いなる誤解

鳥頭なんて誰が言った? 動物の「知能」にかんする大いなる誤解

こんなタイトルと書名なので最初鳥の知能の本かと思ったがそうではなく、動物全般の知能の多様性についての一冊である。基本的にはアリやらハチやら鳥やらが発揮する豊富な知性の例をあげながら、「人間は知能の序列で最高位にいると多くの人は思っているかもしれないが、実際は知能の形態はさまざまで、誰が一番とかそういう区別は意味ないでしょ」ということを言っていく本になる。本文正味230ページほどの軽めの本なので、サクッとお手軽に知性をめぐる旅を味わうことができるだろう。

したがって、私は、ピラミッドのような知能の序列を脇に置き、ヒトとほかの動物の能力を違う目で観る別の概念を用いることを提案する。この概念とは、環境の変化に応じた種の進化を理解するために通常使われているもの──つまり適応力だ。この意味においては、私たちは知能を、与えられた状況を前にした動物個体の行動における適応能力として理解でき、もっと広義には、背景に応じて行動をできるだけうまく調整する適応機能として理解できる。もっと厳密に言わなければならないと言うのなら、本書では、新しい状況や複雑な状況員対応できる能力を指す言葉として「知能/知性」を用いていると考えて差し支えない。

いろいろな知能のあり方──、環境への適応力が語られていくが、確かにこれを読んでいると、人間の知能の高さは一側面においての適応力の発露であり、別の側面ではアリや鳥の方が優れていることに頷かずにはいられない。GPS機能はその最たるもののひとつだ。たとえば、サハラサバクアリというアリは、巣穴から出て餌場までたどり着いたあと、精確に巣穴まで戻っていくが、彼らはどうやっているのだろうか?

アリなんだから臭いでたどっているんでしょう? と思うかもしれないが、実はこのアリは歩数を基準にしているのである。何歩歩いたのかを覚えていて、巣穴に戻るたびにそのカウンターがリセットされるようなのだ。では、ジグザグに移動した後ではアリは一直線では戻れないのか? ジグザグで戻るのか? と思うところだが、これはこれで一直線で帰ってこれるらしい。これに関しては意見は一致していないが、どうも深部感覚と呼ばれるものがあり、太陽の位置など外部の視覚情報と歩数、方向転換の数を数えるなど、複数の情報を組み合わせて使うことができるようなのだ。

人間はパソコンを使えるからアリよりも頭が良いともいえるが、一方で砂漠ではアリの方が頭がいいともいえる。これはほんの一例にすぎないが、知能をどう定義するかの難しさがよく現れている。『すべての動物種は頭がよい。その種なりのやり方で、生きている状況のなかで、一つあるいはいくつかの能力を持っているという意味で頭がよいといえるが、どの動物種もそれに当てはまる。そしてヒトの優越性を示そうとするだけの目的で、知能を序列化しようとしてもむなしいだけだ。なぜなら、ヒトは持っていないが他の動物は備えている能力というものが存在するからだ。』

おわりに

道具を使う動物たち、食べ物を海で洗って食べるという習慣を発明し、自分たちの世代が消えた後も文化として遺していくニホンザルなど、本書には様々な「人間だけと思っていた能力を他の動物たちが持っていた例」や、「人間が持っていない能力を活用して生きている例」が紹介されていく。我々はすぐ人間の知能の特別性は何に由来するのか、と問いを立ててしまうが、実際にはそれほど特別ではないとしたら、その問いに対する答えは実際には存在しないことになる。

「知能」について、より解像度を高めて理解するためには、そうした人間の知能の高さという前提/思い込みを疑って、各種動物知性を比較/検討する必要があるのだろう。本書はポピュラー・サイエンスだが、真摯な態度でそこに向き合っている。