独学大全 絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法
- 作者:読書猿
- 発売日: 2020/09/29
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
で、三作目のテーマは「独学」だ。これまでの作品の中でも最も分厚い圧巻の750ページ本(30ページ以上の注釈を入れると800ページ近い)。ページ数をみて、分厚いと思っても手に取るまで実感がなかったのだが、実際に届いて手にとってみると、ヒクぐらい厚い。500ページを超えるような本の場合上下になるものだけど、この場合は「大全」であり、「事典」であるから、あえて分冊にはしなかったのだろう。
使い方
副題に入っているように、様々なジャンルごとに分けられる55の技法が入っていて、頭から尻尾まで読むような読み方をしなくてもいい。自分の気になること──、たとえば「勉強したいけど、集中力が続かない」という悩みを抱えているのであったら、第四章「時間を確保する」の「ポモドーロ・テクニック」であるとか、第五章「継続する」の日課を習慣の苗床にする「習慣レバレッジ」、独学の進歩と現在地を知る「ラーニングログ」、怠けることに失敗する「逆説プランニング」あたりを読むべきだろう。逆に、知りたいことがあるのだがどうやって調べたらいいのかわからない、という方には、第八章「資料を探し出す」の4つの技法を読むのが最適だ。
そんな本なので、僕も最初は気になるところだけ読めばいいかな、と思っていたのだけれども、頭から読み始めたらおもしろくて一気に最後まで読み切ってしまった。確かに800ページ近く、アホみたいに分厚い(書く方も本にする方もアホだ)のだけれども、実際には中のレイアウトがページごとに凝っていて、図も豊富なので、そうとう読みやすく仕上がっている。さらにおもしろいのが、技法が単純に無秩序に並んでいくというよりかは、ストーリーのようにして、「独学」が段階を踏んで展開していくので、頭から尻尾まで読むことで独学の環境が整っていくような感覚を覚える。
たとえば、この本でえらいのが「独学」をテーマにして、その手法を紹介しているだけではなく、「なぜ学ぶのか」。「学ぶことが見つからないときに、どのように見つければよいのか」。「どのようにしてモチベーションを維持すればいいのか」、「誘惑に負けないための自己コントロール方法」といった、目線の低い、すぐに諦め、挫折してしまう人の視点から書かれているところにある。モチベーションが高く、テーマなど誰にも与えられずに湧いてきて、暇さえあれば新しいことを吸収して、無限に爆走していくようなタイプの人間を想定していないのだ。
だから、本書ではまず独学の技法として、第一部「なぜ学ぶのかに立ち返ろう」といって、なぜ学ぶのかをしっかりと認識・知覚させるところから始まるのである。
なぜ学ぶのか
実際、「なぜ学ぶのか」を強固にしておくのは重要だ。独学者は、数年や数十年といった歳月の中で、学校を卒業する、就職する、子供が生まれる、昇進する、大切な人が亡くなる、病気をする、新しい趣味に没頭するといった人生の変節を経験し、多忙にまみれ、その度に「自分なこんなことをやっていていいんだっけ」とか、「やる意味があるんだっけか?」という独学への猜疑、疑問を抱くものである。
あるいは、疑問すら抱かずに忘れ去ってしまうものだ。そうしたときに、なぜ自分は学ぼうと思ったのか、なぜ学ばないといけないと考えたのかという、動機づけの部分がしっかり構築してあると、何度でも立ち返りリスタートできる。だから、本書の第一部は「なぜ学ぶのかに立ち返ろう」といって、第一章「志を立てる」、第二章「目標を描く」、第三章「動機付けを高める」と、何度でもやり直すための学びの基盤構築に注力しているのである。第四章は「時間を確保する」、第五章は「継続する」、第六章は「環境を作る」と、動機を固め終わったら次は環境の地固めだ。
第二部は「何を学べばよいかを見つけよう」で、ここにきてようやく知りたいことを発見する方法、資料の探し方、事典、書誌、教科書、雑誌記事調査の仕方が続く。この第二部は、「そもそも何を学んだらいいのかわからない」という凡人に向けて書かれていて、第一部から通しで読んでいくと、一人の独学者の環境が整い、何を独学するかが決まり、とステップアップしていく様子がみえてくる。
単純に技法を紹介するだけではない
通して読んでいておもしろいもうひとつの理由が、本書が単純に技法を紹介するだけの本ではない、という点にある。たとえば、読書技術を大量に紹介している第12章「読む」(これだけで読書術の本として切り出しても成立するような凄い章だ)の中の一技法「黙読」の中では、単に黙読のやり方や黙読の効果だけでなく、黙読の歴史が何ページにもわたり書き連ねられている。
歴史的には、おそらく近代市民社会が作られたある時期以降に作られ、支配的になった新しい読書様式・慣習であること。長い間、読者一人で楽しむものではなく、集団で楽しまれるものだったこと。明治初期の新聞は家長によって読み上げられ、家族がそれを聞く形で読まれていたこと──、どれも純粋に技法を効率的に追求するビジネス書的ロジックでは不要と思われるような箇所だが、こうした余談・歴史的な部分の記述が多く、興味がなかったり自分が一度試して「こんなの二度とやるか!!」と思った技法であっても(僕にとってはポモドーロテクニックがそれ)おもしろく読める。
おわりに
なぜ学ぶのかという動機の固め方。モチベーションの保ち方、復活のさせ方。どのようにしてだらだらする時間を減らすのか──そういったテクニックの多くについては、「独学」に限らず、行動や、これまでやったことがない挑戦をしたいすべての人にとって有用であり、本書の応用範囲はどこまでも広がっている。また、基本的な学習として、英語と数学と国語が想定されているが、プログラミングの独学など、幅広い分野の学習に役立てられるだろう。僕自身、今けっこう厄介で大きな独学のテーマと向き合っている最中なので、相当に勇気づけられる一冊だった。