2020年ももうすぐ終わるので、読んでおもしろかったノンフィクションを振り返っていこうかと。今年はまるっと本の雑誌でノンフィクションの新刊ガイドを担当しており、例年よりもたくさん読んだような、あまり変わらないような。とはいえ、おもしろいノンフィクションには山ほど出会ったので、思い出しながら書いていく。
まずは科学系から!
- 作者:デビッド・A・シンクレア,マシュー・D・ラプラント
- 発売日: 2020/09/01
- メディア: Kindle版
そうした老化のメカニズムの科学的な話もおもしろいのだけれども、シンクレアは老化関連の分野で企業を10社以上共同創業している実業家としての側面も併せ持つ人間で、じゃあ我々はどうすれば自分の老いを克服できるわけ? という気になるところにもバシッと答えてくれているのがおもしろいところ。長く生きるだけでなく「健康に」長生きするためにはどうすればいいのか、気になる人は読んでおくといい。
幻覚剤は役に立つのか 亜紀書房翻訳ノンフィクション・シリーズ
- 作者:マイケル・ポーラン
- 発売日: 2020/06/26
- メディア: Kindle版
- 作者:ダリル・ブリッカー,ジョン・イビットソン
- 発売日: 2020/02/24
- メディア: 単行本
ゼロからつくる科学文明 タイムトラベラーのためのサバイバルガイド
- 作者:ライアン ノース
- 発売日: 2020/09/17
- メディア: Kindle版
他、生命、都市、経済に存在するスケールについての普遍的な法則を導き出そうとする『スケール 生命、都市、経済をめぐる普遍的法則』。人の色に関する知覚がどのように成し遂げられているのか、そこに正常と異常の線引をすることができるのかを描き出していく、色覚異常についての川端裕人『「色のふしぎ」と不思議な社会 2020年代の「色覚」原論』。全身麻酔で死ぬ確率、スカイダイビングで死ぬ確率、レントゲンをとった時のリスクなど、人生のあらゆる局面の死亡率を統計から導き出してくれる『もうダメかも──死ぬ確率の統計学』あたりもおもしろかった。
「色のふしぎ」と不思議な社会 ――2020年代の「色覚」原論 (単行本)
- 作者:裕人, 川端
- 発売日: 2020/10/24
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
科学以外について!
- 作者:デヴィッド・グレーバー
- 発売日: 2020/07/30
- メディア: 単行本
イギリスの世論調査によれば、あなたの仕事は世の中に意味のある貢献をしていると思いますか? という問いにたいして、37%もの人が「していない」と回答したという。そう答えたとしても実際にはなくなられちゃ困る仕事も多いと思うが、仮に40%もの仕事がこの世から消えてしまったとして何の問題もなく社会が回るのであれば、やりようによっては我々は週20時間労働ですむ社会に移行できるのではないか。実証的には甘い面のある本だが、労働について考え直すためにも重要な一冊だ。
絶望を希望に変える経済学 社会の重大問題をどう解決するか (日本経済新聞出版)
- 作者:アビジット・V・バナジー,エステル・デュフロ
- 発売日: 2020/04/17
- メディア: Kindle版
現代は、僕は「尊厳」が失われつつある時代であると思う。仕事はどんどん複雑になり、要求される水準は高くなり、「お前は社会にいらないよ」といつも言われているような気がする。仮に本当にそうであったとしても、尊厳が傷つけられたままでは人は幸福には生きづらい。この本はそこをテーマにしてくれていたので、個人的に記憶に残っていた、というのもある。同じテーマは、2020年に邦訳されたジャロン・ラニアー『万物創生をはじめよう――私的VR事始』にも通底している。
- 作者:タラ・ウェストーバー
- 発売日: 2020/11/17
- メディア: Kindle版
そんな状況から、彼女はモルモン教徒らが通う大学に進学し(それ以前はまったく学校にいっていなかった)教育を受けることで、無教養にもとづく教えによって、いかに自分の歪んだ考えが形作られていたのかを理解していく。教育がどれほど人を変えうるのか、そして、それでも変わらないものについてまざまざと実感させてくれる。
- 作者:アリ・バーマン
- 発売日: 2020/06/16
- メディア: 単行本
2000年になっても、フロリダ州は重罪犯とされる6万人を有権者名簿から抹消させたが、フロリダ州の登録有権者のうち黒人は15%しかいないのに抹消名簿には44%もいたり、登録名簿にある氏名が州の重罪犯人データベースにある氏名と70%一致しているだけで抹消名簿に加えられていたり、明らかに無茶苦茶な運用だった。こんなことが近年にいたっても起こっているのだ。
おわりに
と、いろいろあげてきたが、どれもおもしろい本ばかりなので、外に出にくい年末年始に読む本を探していたら、参考にしてもらえれば幸いである。