はじめに
本の雑誌2020年11月号に載った原稿を転載します。この月に取り上げた本は科学書から経済までジャンルがバラけていて、しかも粒ぞろいだ。『ゼロからつくる科学文明』はその名の通りの一冊でおもしろかったし、経済理論としてのMMTの解説が完全に学べる『財政赤字の神話』。人工衛星からのデータで見つけられていない遺跡を探す『宇宙考古学の冒険』も意外な視点と技術の活用方法でおもしろかった。
本の雑誌原稿
ゼロからつくる科学文明 タイムトラベラーのためのサバイバルガイド
- 作者:ライアン ノース
- 発売日: 2020/09/17
- メディア: Kindle版
タイムトラベラーにたいして行われる最初の技術継承は「話し言葉」で、言葉の普遍的な特性、その役割と、作り方について述べた後、他四つの基本技術として、書き言葉、数字、科学的方法、余剰カロリーについて触れていく。ビタミンAが欠乏した場合全盲に、ビタミンB1が欠乏すると意識障害に、と健康についての知識も重要で......と、基本のキから始まり、水車、蒸気機関、セメント、と文明レベルがアップしていき、最終的にはコンピュータの作り方までたどり着いてみせる。いつ過去に取り残されるかわからないので、一冊携えておきたい本だ。
- 作者:ステファニー ケルトン
- 発売日: 2020/10/06
- メディア: Kindle版
MMTによると、通貨主権を持つ国はいくらでも貨幣を自国で刷れるのだから、財政赤字は国家の破綻には繋がらない。たとえば日本も赤字国債の財政赤字を補うために大量の国債を発行していて、借金がヤバいと言われるが、円をいくらでも刷れるので、理論上は明日にでもすべての国債を買い入れ、借金をゼロにすることができる。そんなことをやって問題ないのか? 貨幣を刷り続け市中に供給するといずれ起こるインフレへの対抗策など、莫大な借金を抱える日本ではこうしたMMTに関連した議論が盛り上がっていくだろう。押さえておくと見通しがよくなるはずだ。
史上最悪の感染症: 結核、マラリアからエイズ、MERS、薬剤耐性菌、COVID19まで
- 作者:オスターホルム,マイケル,オルシェイカー,マーク
- 発売日: 2020/08/26
- メディア: 単行本
現在の社会は、膨大な数の人間と動物が世界中を移動しており、どこか一国で発生した感染症もすぐに世界に広まってしまう。また、人口が急増傾向にあり、人間と動物の距離が近くなっていることで、特に鶏や豚といった家畜からのウイルス・細菌感染の脅威が増しているなど、新型コロナだけでなく、人間社会がいまどれほどの感染症の脅威にさらされている状態なのかを明らかにしていく。今や、感染症は世界にとって気候変動に並ぶリスクとみられていて、新型コロナを乗り越えても、必ず次の感染症が流行る。その時我々はどうすればいいのか、あらためて考え直すための一冊だ。
- 作者:サラ・パーカック
- 発売日: 2020/09/16
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
ある考古学者のチームは、人工衛星画像と地上探査によって、ブラジルのアマゾン川流域でこれまで知られていなかった先コロンブス期の遺跡を八一ヶ所も発見した。当然、人工衛星画像がなければ、不可能だった成果だ。とはいえ、ただ画像を眺めていればいいわけではなくて......と、その細かなテクニックや知見が述べられていく。現代のインディ・ジョーンズともいえる、新しい冒険の形が描き出されている。
コンピューターは人のように話せるか?―話すこと・聞くことの科学
- 作者:トレヴァー・コックス
- 発売日: 2020/10/08
- メディア: 単行本
我々は将来、AIと友人のように話すようになるだろう。そうなったら当然、我々の話し方にも影響があって──と、AI時代のコミュニケーションにまで、本書の射程は広がっている。