というわけで、どこに住むのがいいのかなあ(もうすぐ第一子が産まれることもあり)と考えながら住宅やマンションの本や読んでいるのだが、昨年の12月に出た『2030年-2040年』と『家が買えない』はどちらも日本の住宅をめぐる現状をよく解説していておもしろかったので合わせて紹介したい。特に『2030年-2040年』は様々なデータから5〜10年先の住宅事情をシミュレートしていて、かなり参考になった。
たとえば最新の予測によると、住宅を購入をする年齢層(25〜54歳)の世帯数は、東京都ですら2025年の380.5万世帯をピークにして大幅に減少していく予想がでているのだ。減少は進み、2030年には365万世帯、2040年には349万世帯となっている。そうなると住宅需要は大幅に減少していくが、庶民は住宅購入についてどう考えるべきなのか──といったことが、様々な観点から語られていくことになる。
なぜこんなにも家は高くなったのか?
23年に都区内で供給された新築マンションの平均価格は1億1483万円だという。東京では最上階が200億円とも300億円とも言われる麻布台ヒルズのアマンレジデンスのような事例もあるから、一部が平均を引き上げている面もある。しかし、中央値ベースでも軒並み10年前と比べて1.3〜1.6倍になっている(東京1,6倍、神奈川1.5倍、埼玉・千葉1.3倍)。*12022年における日本の世帯年収の中央値は405万円であることを考えると、やはり多くの人にとって都区内の家はとても買えたものではない。
しかし、そもそも誰が億超えのマンションを買っているのか──といえば、『家が買えない』によれば4つのカテゴリーに分類できるという。①は、所得収入が多い金持ち。②は高齢の資産家が相続税対策で買うケース。③は投資家で、タワマンに投資して一儲けを目論んでいる。①〜③に共通しているのは「買うだけの人」という点で、別荘地であったり迎賓館用、二拠点生活の一つとしてタワマンを使っていて、常に住んでいることはない。②に至っては居住する意思が最初から存在しない。
そうなると、実際に購入したマンションに住む明確な意思があるのはカテゴリの最後の④、「おおむね世帯年収1500万超えを指すパワーカップル」になる。
この構造からすると、都心マンション、とりわけタワマンは、もはや住むためのものではなく、投資や節税手段としての対象となっていると言っても過言ではない。買って住んでいるパワーカップルたちのなかにも、ゆくゆくは売却してあわよくば多額の売却益を享受しようと考えている者もいるし、それで実際に成功した人たちもいる。*2
ようは都区内の良い立地にあるマンションはもはや住む場所というよりかは完全な金融商品になっているのであって、そりゃ庶民は買えませんわな、という話である。
また、円安の後押しもあって日本のマンションは外国人投資家からするとリーズナブルに映る──というのも要因としてあげられる。現在首都圏で家を買うというのは、こうした資産家や専門家と切った張ったをする必要があることを意味する。
空き家にすめばいいんじゃない?
とはいっても空き家が増えているといって問題になっているんだから、みんなわざわざ億超えのマンションに住まずに空き家に安く住めばいいんじゃないの? というのはもっともな話である。地方だけでなく東京も空き家率は10.9%程度あるといわれ、その実数は90万戸でダントツの全国一位になっている。
とはいえ、それも簡単な話ではないようだ。所有者が高齢者施設に入居していたり、相続発生後にとりあえず置いておくなど様々な理由から住宅市場に流通しないという現実がある。また、空き家以外の平均的な年収で手に入れられるレベルの中古マンションや戸建ても、古かったり立地が悪いなどの理由で「手を出したくない住宅」が増えている。たとえば1都3県の中古マンションについては、在庫の築年数平均が2014年は築18〜22年程度だったのが、24年には築26年〜32年程度になっている。
築30年ともなれば大規模なリノベやリフォームを考え始める頃合いなので、維持管理費や修繕費を考えると、購入時の費用が新築と比べてやすかったとしても費用はかさむ。結果的に、「手がでない住宅」と「手を出したくない住宅」が増え、家はあるのに買えない・買いたくない難しい状態が発生しているといえる。
中古マンションの未来
どちらの本でも懸念されているのが中古マンションの未来だ。現状のまま推移していくと、2040年には中古マンションの平均築年数は40年以上になっている。
そうすると問題になってくるのは修繕や建て替えだが、国土交通省による2023年度マンション統合調査によると、マンションの修繕積立金の積立状況について、「現在の修繕積立金の残高が長期修繕計画に対して不足している」と回答したマンションが36.6%に上るという。「不明」は23.5%で、把握すらできていないことを加味するとこちらの方がよりまずい可能性もある。追加で修繕積立金を増額したりすればいいだけの話ではあるが、新築の時は同じような階層だった人たちも入れ替わり、経済状況や家族構成にも変化があり、合意形成に失敗するケースが多い。そうなると、築年数ばかりがかさみ修繕も建て直しもできない管理不全マンションも増えていく。
マンションだけでなく戸建ても合わせてこれから大きな問題になってくるのは、こうした建物の終末期の対応コストの問題だ。マンションの場合は著しく荒廃しても一軒でも居住者がいると、行政が関与して所有者や管理組合にたいして改善命令も軽々しく出せない。著しく荒廃した戸建てやホテルや工場といった建築物は行政によって解体すること自体は可能だが、莫大な費用がかかるため市町村はかなりの負担を強いられることになる。どこまで税金で負担すべきか。対応は容易には進まないだろう。
マンションは今後どんどん親から子に相続されていくが、毎月の管理費・修繕積立金が徴収されるから、住まないうえに老朽化して売ることもできないマンションはただただ厄介な負債になってしまう。負担を嫌う相続人が、マンションの相続を登記しないことで、管理費や修繕積立金が支払われず、修繕ができない──という事例も多数発生している。『2030年-2040年』と『家が買えない』のどちらもこの問題を取り上げていて、中古マンションの未来はこのままでは明るい未来とはいえない。
おわりに
『家が買えない』では、『金儲けのためとしてライフスタイルや価値観を真剣に顧みることもなく、将来に対する限りなく不確かな楽観を抱えて、「みんなが買っているから」「何か儲かりそうだから」という曖昧な理由で大金を不動産に注ぎ込む。そうした行為を続ける限り、住宅に対する真の愛着は育まれず、自分が住む街に誇りを持つことは到底できないだろう』といい、「街づくり」にフォーカスし、「資産」ではなくどのような「暮らし」を手に入れたいのかと言ったヴィジョンを問うていく。
『2030年-2040年 日本の土地と住宅』では、都市開発の視点や、高齢世帯だけが住む持ち家の分布や量のデータから、住宅の流通量が増える街、駅を個別具体的に検証していたりと、より「2030年、2040年の住宅事情がどうなっているのか」にフォーカスした内容になっているので、それぞれ気になること別に読んでみてね。