基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

ジョン・レノン対火星人/高橋源一郎

感想 ネタバレ無

久しぶりに水滸伝以外の感想も。
全く悔しいのは、ハードカバーで読んだために文庫の解説を読めなかったこと。さらにいえば自分の読書力が全く足りていない事か。何も考えずに、深読みも何もせずにただぼんやりと読んでいただけであった。それでも十分に楽しませてもらった事を考えれば素晴らしい小説であるといえよう。

とりあえず最初の文章を読んだ時点でまともな小説ではないな、という感想を持った。書いてある事がむちゃくちゃなのである。そう思っても当然という気もする。さらにいえば、最初の100ページほどは本当に何が書いてあるのか全くさっぱりちっともわからなかった。全く違う世界観のところに放り込まれたかのように右往左往して、理解しようと思えば出来たかもしれないのに完全にその努力を放棄して理解できないものは理解できないものとして置いといてしまった。ラスト20ページぐらいを読んでいて、ひょっとしてこれは理解しようという努力さえすればもっと面白かったのではないか、と考えたがもう後の祭りだった。完全に自分の中でこの小説は、意味がわからない事が面白いただのアホ小説という烙印を押されてしまい、恐らくその評価はもはや覆らない。ファーストインプレッションというやつだ。わざわざ横文字で書かなくても第一印象だ。

その後いくらかして、この小説が精神病者の闇を書いた作品だという評価を持っている事を知る。全く寝耳に水、という感じであった。正直いって自分の中でこれはギャグ小説のような立ち位置でもって迎え入れていたのだから。

私小説だともいわれているが、高橋源一郎という人間を過分にして存じ上げないもので全くわからない。しかしそれでも、それでもだ。面白いという言葉に嘘はない。読んでいて気が狂いそうになった小説はこれが初めてだ。現実に影響を与える小説が面白い小説の定義だとしたら間違いなく面白い小説だった。ただひとつ間違いがあるとすればその定義はおかしいということだけだが。

現実に影響を与えるような小説をなんというのかといったら、「凄い」小説だろう。まったく間違いなく凄い小説ではあったわけで、そう言われると面白いかどうかというのはわからない。だがつまらないという事は断じてあり得ないという事だけはわかるが。

一気に全部読んだら頭をかきむしるんじゃないかという気分だった。

それでもそんな内容なのは前半部だけで、後半部はやはり先程書いたように内容がもっと真面目になっていき、ストーリーとしての体裁を持っていたように思う。正直前半部にはストーリーがあるのかないのかすらわからずに読み進めていた。どの文章に意味があって、どの文章に意味がないのか、という事を問いつづけるような文章だったように思う。そしてこのタイトルにどんな意味があるのかさっぱりわからない。

あるいはこういう事を言いたかったのだろうか。意味がない事に意味がある。

思えば全編を通してそんな感じだったように思う。

読んでいて日本の作家だという事を頻繁に忘れたが、大量に出てくる日本人特有の固有名詞に現実に引き戻される。何度考えてもこれを日本人が書いたというのが納得がいかない。だがそれもおかしな話で、なんで日本人が書いたというのが納得いかないのかがわからないのだけれども。こういう気が狂ったようなものは日本人は書かないとでもいう先入観があるのだろうか。そんな先入観ゴミ箱に突っ込めばいいのだ。

一回しか読んでいないのにここに感想を書くのが本当に心苦しい。恐らくたくさんの馬鹿をさらすことになっているだろう。

感想 ネタバレ有


 「ヘーゲルの大倫理学」がこの突発性小林秀雄地獄に見舞われるようになったのは大阪刑務所付属病院の精神病棟に収容中の時かららしい。

 高速で落下する「ヘーゲルの大倫理学」の顔は宇宙戦艦ヤマト波動砲で撃ち抜かれたダース・ヴェーダのように官能的だった。

素晴らしい意味のわからなさ!もはや何もかも意味がわからない。ヘーゲルの大倫理学が人名っていう時点ですでに意味がわからないし、宇宙戦艦ヤマトの例え話も意味がわからない。だがなんとなくすげぇ!というような事は伝わってくる
そんな文章だ。と思う。

最初の方はずっとこんな調子で真面目に考えるのもバカバカしい、という文章の羅列だ。精神病者を書いた、といってあぁだから意味がわからないのね、と納得してしまうのも、正直どうかと思うわけで。

しかし自分がここで、この作品について何かを書くというのは、決定的に間違っている事を書くということで、間違っているというのがわかっているのに書くというのはこれ、おかしな話じゃなかろうか。あるいは何も書かない方がいいのではないだろうか。書こうと思ったらそれこそいくらでもある。それは謎があるからで、意味がわからないところがあるからで、それをわかるようにいくらでも書き連ねていったらいいのだ。でもそんな事したら恐ろしくグダグダになりバカをさらしほんのちょっとで済む時間が大幅に増える事になる。それで利点といえば、自分の中である種の決着がつくだけだ。いや、決着がつくことが大したことないというつもりはないのだけれどもそれにしても意味はあまりない。

何しろ量が半端ない。パラパラっと読み返しただけで、もう一度考え直したい要素で溢れかえっている。ここにそれを一か所ずつ書きあげていくぐらいならもう一度読み直した方がよほど有意義な気がするのだ。

よっていつかまた文庫で買ってきて、解説を読みながら本編をもう一度読み直しこの感想を書きなおす事にしよう。