基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

三国志 三の巻 玄戈の星/北方謙三

感想 ネタバレ有

うわぁぁぁ 後半100ページの勢いが凄まじい。正直いって泣いた。呂布の描写の厚さでどう考えてもこの巻で死ぬと確信してから涙がとまらねええええ。

何しろ何しろ格好良すぎる。死ぬの早すぎるだろおおお。それから一、二巻で地味に影の薄かった劉備の視点が増してきている。そしてだんだん孫家の視点が空気化・・。正直張魯とかどうでもいい感じなんだけど早く死なないかな・・・。

劉備の精神が不安定すぎる。すぐに切れるわ、妙に自身があるのかと思いきや不安でいっぱいだわ。ただ、かくあるべき、という姿というか一本芯が通っているというか、そういう所は全く何の迷いも見せずに決断するからそういったところと別のところでの妙に弱気な劉備を読んで、そのギャップに驚く。自分が読んだ三国志劉備は本当に徳の将軍といった感じで、公孫讃が死んだ時も涙を流してたような気がするのに、北方版じゃ我が強い男だった、とかいって死んで当然だ、みたいな対応だしな。

やはり天下を狙おうってんだから生半可な心構えじゃいけねえっていう気分にさせてくれる。劉邦みたいにしたたかな男じゃないとな。ただこの劉備、決してしたたかってわけじゃないとも思うのだが。

曹操に従ったのはいいものの、曹操との宴のあとがっくりと膝をついて唇から血を出すほど噛み締めて耐えている劉備の描写とかほんとに鳥肌がたった。


 「大兄貴、曹操の手を借りなければならないことが、無念だったのですか?」
 「いつか、この手で、曹操を殺す」


こいつあ猛犬だぁああ。時代が現代なら速効で刑務所行きだな・・・。よかったなこの劉備戦国時代に生まれる事が出来て・・。

呂布のかっこよさは異常。ここまで散々赤兎との友情を書いてきて、というか二巻分しかないのだが全てが呂布のためにあったのではないかというぐらいだ。
戦に行く前に、李姫から首に赤い布を巻いてもらう所から完全にもう呂布無敵モード。もはや全ては呂布のために!とでもいうべきか。

呂布劉備の守る城を攻めてきた時の、曹操の使者とのやりとり


 「私は城を出る」
 「なんと。この期に及んで、逃亡しようというのですか、劉備殿は」
 劉備は、剣の柄に手をかけた。逃亡などという言葉は、いまここにはない。斬り殺す。そう思った時、張飛がその武将を殴り倒していた。
 「われらは、城外に陣を敷く。呂布の騎馬隊を、正面から迎え撃つ。攻められて、城でふるえているのは、男ではない」

張飛が激情しやすい劉備に代わって相手を打ち倒す役目をになっているというのは新鮮だ。ただその分関羽の影が薄くなってきている気がする。関羽の役割がうまく見えてこない。それにしても、張飛の死に方が原典のままだとすると非常に悲しい話だ・・・。

 「呂布の騎馬隊の手並みを、見てやろうではないか。呂布ほどの男が、騎馬全軍を率いてきたのだ。迎え撃たなくては、この劉備の男が廃る」

これだよ。これが劉備ですよ。いざ決定する前は色々と迷うものの、いったん事が始まってしまったら男はこうなんだよぉ! といって明らかに無謀な事を何の迷いもなく男だから、という理由でやってしまうそのアホさ。さすが劉備玄徳、徳の将軍の殻をかぶった虎だぜ。

この一連の流れを読んだとき、笑いが止まらなかった。わはははははと笑っていた。なるほど、面白すぎると人は笑うんだなと当然の事を考えた。


 散るか、劉備呂布は、赤兎の上で呟いた。見事な花だ。それは認めよう。そして、散らせるのが、この呂布奉先だ。乱世の花。俺が散らせるのも、宿運というやつではないか。


劉備呂布の戦い、滅茶苦茶面白い。十年前の作品でもなんら色あせる事はない。ゲームだったらこうはいかんよなぁ。十年たったらゲームじゃロートルだ。小説は、割と現役の時間が長い。だからいつまでも残りつづけるんだろうなぁ。
呂布が矢で曹操の鎧を射り、命を一つ貸しだといって赤兎の治療をさせる場面が泣ける。


 「頼む、呂布殿。私に降伏してくれ」
 曹操は、劉備の言う事を聞く気はないようだった。
 「私と呂布殿が一体になれば」
 「やめろ、曹操。男には、守らねばならないものがあるのだ」
 「なんなのだ、それは?」
 「誇り」
 「おぬしの、誇りとは?」
 「敗れざること」

成玄固が、劉備呂布が似たところがあるといっているが、この自分の誇りを絶対に曲げないところが似ていると言っているんだろうな。劉備も絶対に自分の信念は曲げなさそうだ。なにしろ天下の呂布の騎馬隊に真っ正面からぶつかっていくバカだからな。

呂布の最後が、陳宮をかばって死んだというのも面白い話だ。やはり最後まで軍人であったという事か。

軍人だから、命を賭けて陳宮を助けるのは、当然という理屈だろう。特に大した男でもないから、という理由で陳宮を見捨てたりするようなのは軍人じゃないという事か。

というか、呂布は全く変わる事が無かった。呂布というイメージでありつづけた。戟を矢で射た時の呂布のセリフ、おい、俺は呂布だぞ、から始まって呂布だったらここは当てるだろう、というイメージのまま、それを体現し続けたのだろう。常に俺は呂布だぞ、という自負を持って生きたのだとそう感じさせる描写だった。

赤兎と語り合うシーンが、いくつあったかは忘れてしまったけれど、そのどれもが良かったなぁ。

最期の方に孫策と周癒が結婚相手をさらう話があるが、まるでオチのような扱いである。孫家が可哀そうになってきたな。オチの扱いしか与えられていないぞ。