基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

三国志 七の巻 諸王の星/北方謙三

感想 ネタバレ有

赤壁の戦い凄すぎる。北方三国志を読んでいてよかったと心の底からふるわせられるようなそんな戦いだった。1ページ目から、臨界点であり赤壁の戦いに向かって突き進んでいるのがわかる。やってくれたぜ! という気持ちでいっぱい。

 「私は、なんとかなる、という気がしている。理由はない。しかしここを乗り切れば、道は平らになる気がするのだ。いままで、おまえたちにはずいぶんとつらい坂ばかり、登らせてきたと思う」
 「つらい坂ではありましたが、兄上が先頭で登られたので、われらも続いて登ったのです。平らな道であろうと、坂であろうと、われらはただ兄上についていくだけです」
 「そうだったな。おまえたちは、いつも私についてきた。そして私は、坂道しか選ぼうとしなかった」


絶対に負けられない戦いと散々あおって緊張感を高め、曹操軍二十万を何度も強調し、その果てに赤壁の戦いがあった。それで燃え上がらないはずがないだろ・・・。

 「会議の決定を伝える。われらは、これより曹操と開戦する。それが、唯一の私の道だ。降伏は、死ぬことである。命があってもなお、男は死するという時がある。誇りを、捨てた時だ」
 孫権は、剣を振りあげ、渾身の力で振り降ろした。文机が、きれいに二つになった。
 「私の決定を伝えた以上、これから先、降伏を唱える者は、この文机と同じになると思え。私は、わが手で、この乱世を平定する」
 声があがり、やがてどよめきになった。
 「ふるえる者は、去れ。立ち尽くすものは、死ね。これより、戦だ。男が、誇りを賭ける時ぞ」


孫権かけえええええ。周喩ではなく、やはり最後は殿にしめてもらわねばなりませぬ。今までどちらかというと穏健だった孫権が、まるで曹操かなにかみたいにはっぱをかけるのがすさまじくいい。

思わず読んでいてキャラに感情移入しているのか、展開に感情移入しているのかはあいまいだが、あまりの燃え展開に沸き起こった感情をどうやって発散すればいいのかわからずに声に出して読んでいたぐらいだ。 
いつまでたってもこんな風に、興奮しながら本を読んでいるからちっとも内容の細かい事が頭に入ってこないのだ、と思ってもそれでいい、という気もする。虚人たち、のようなのめり込むような小説でなければ多少の分析や解説も出来るかもしれないが、こんな風にのめり込んでしまったら冷静な分析なんか出来るはずもない。細かい伏線も頭に入ってこないし状況描写や容姿描写もすっ飛ばしてしまう事が多い、それでも、まったく後悔はしていないが。


 火の手があがっても、いいころだった。風が、急に強くなってきた。いまだ、いまだ。周喩は、口に出して呟いていた。

周喩がここまで特殊な存在になったのは何故なんだろうか。この赤壁の戦いの策も、他の三国志だと孔明の策、というようになっていたような気がする。ひょっとしたら違ったかもしれないが。そこをあえて周喩が考えついた事にして、さらに孔明もそれを最初から見抜いていたということで非凡さをアピールする、とか。周喩の存在感が圧倒的だ。孫権がかすむぜ。

周喩だけじゃなく、自分もいまだ、いまだ、といっていた時はさすがにアホかかぁ! と叫び声をあげそうになったがそれでもやっぱり読み返したら自然といまだ、いまだ、といっている自分がいてもうだめだこれ。いや、しかし今までずっと負け続けだったのだ。曹操に、劉備が、それがここでこの反撃。
このときの気持ちといったらたとえようもないほどだ。あえてたとえるのならば、甲子園決勝で、あと一点とれば勝てるという場面で三塁を蹴るかどうかの判断をくだし、手を必死に振り回し続ける三塁コーチャーの気持ちだ。

説明しづらいのだが、というか野球のルールに詳しくないから、コーチャーという名称すら曖昧なのだが、たぶんコーチャーというのは甲子園の場合補欠がやるのだろう。補欠君にとって、甲子園優勝というのはもちろんうれしいだろうが、自分は別に闘ったわけではない、だけれども、コーチャーとして手を振りまわしている間は誰よりも充実感があるのではないか、といつも思いながら手を振り回すコーチャーを見ていた。自分が主要人物として参加しているわけではないこの三国志という世界に、わずかながらでも参画していられる、と感じられるあの一瞬だった。かといって読者が物語に参加していないという意見ではない。読者は読者の集合意識として物語に参加している、という意見ではある。現に読者はこう望むだろうという予測はある程度作り手にもあるだろう、そういう場合読者の集合意識として物語世界に参加しているといえるのではないか。

負けて弱気になったとたん今までと変わらず世話をしてくれていた許褚の大切さに気付いて親しくなった曹操に少し笑った。いや、今までも大切にしてはいたのだろうがやはり弱気になったのだろう。それにしても曹操、よく負けるなぁ。
さらに後継問題で悩む。方臘のように息子を片方簡単に殺すぐらいの度量を見せつければいいのに。

 「曹仁の、援軍が来るな」
 「来ます。しかし、劉備軍が、すぐ後ろにまで迫っています」
 「そうか、間に合わぬか」
 「間に合います。ただ、私はここでお別れしなければなりません」
 「おまえが、張飛趙雲を止めるか?」
 「はい」
 「死ぬな、虎痴。おまえが死ねば、私は虎痴と呼ぶ者がいなくなる」
 「はい」


涙がとまらんわぁぁぁぁ。許褚かっこよすぎる。ただここで死ねばもっとかっこよかったが呆気なく生き残ったのはどうかと思うな! ただ、私はここでお別れしなければなりません、って割と映画とかでありがちなセリフだがありがちなのにはやはりそれなりの理由があるというわけか。

関羽が四十九なのにあと十年は闘えるとかいってて吹いたわ。十年戦ったらもう五十九ですけど・・・。まぁ童貫元帥も六十なのに闘ってるしな。

とりあえずここらで終了。