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ハチはなぜ大量死したのか/ローワン・ジェイコブセン

ハチはなぜ大量死したのか

ハチはなぜ大量死したのか

2007年春までに北半球から四分の一のハチが消えた。
巣箱という巣箱をあけても働きバチはいない。
残されたのは女王バチとそして大量のハチミツ。
その謎の集団死は、やがて果実の受粉を移動養蜂にたよる
農業に大打撃を与えていく
携帯電話の電磁波? 謎のウイルス? 農薬?
科学者たちの必死の原因追究のはてにみえてきたのは?

北半球から四分の一が消えた、といっても当然ピンとこないだろう。ほとんどの人は北半球にどれだけのミツバチがいて、どんな仕事をしているかは知らない。

実際の数を書くならば、300億匹であると、帯には書かれている。つまり北半球には通常1200億匹のハチがいたことになる。本書ではなぜ300億匹ものハチが消えてしまったのか? を軸に色々な話を展開していくことになる。300億匹!? 多すぎる! といってもハチのあり方としては、ひとつのコロニーでやっと一知性という方向性が強い。著者は群れをなし動き回るハチ達をこう表現している。

一見、あてもなくうごめく無数の昆虫に見えていたものは、実は意重の波のようにまとまっていることがすぐわかった。あらゆる蜂が、フィールドバック・ループ。本能、簡素なコミュニケーションという目に見えない指示に従って協力して働いている。これが巣全体の意思だ。健康なコロニーでは、ちょうど個々の神経細胞の間に電流が流れるように、個々の蜂の間に知性が瞬時に流れる。あらゆる蜂がそれぞれの仕事にとりかかっている。彼らが与える印象は、おびただしい数の個々の蜂ではなく、ひとつの流れるような知性だ。

このハチたちがいかに人類に貢献しているかを第一章の内容である。簡単に説明するならば、リンゴにプラムに梨、アーモンド。そういった食べ物のほとんどはみなハチが受粉させているのだ。もしハチが受粉させなかったら人間が地道に一つ一つ受粉させるか、もしくは実りの少ない状況で我慢せざるを得なくなってしまう。

上の紹介文を読むと、どこからどうみてもミステリーだ、という予感あるいは直感をいだくが、まったく正しい。ハチが消えたといういっけん多くの人の興味をひかないテーマを、ミステリー的に迫っていくのが本書なのである。もっともこの作品内ではその答えは明らかにはされない。原因と思われる要素があまりにも多くありすぎるからである。工業化に伴い数多くのミツバチを本来の役目とは遠く離れた作業につかせ、自然を操ろうとしてきた結果がこれである。受粉を強引に行うために各地へミツバチを移動させ、狭い場所に大量のミツバチを同居させ、季節を勘違いさせ農薬を使い温暖化の影響をうけた影響が全てマイナスとして表れている。これはそのまま現代における人類の生活そのものを非難しているのである。ミツバチの大量失踪という魅力的な謎で引きつけておきながらのこのカウンターパンチ的なテーマ性の深さには感動した。

一つ余談的な話として、中国の衛生管理や、やり口のひどさにところどころで触れている。水質汚染、危険なレベルに達している農薬の大量使用、化学物質を大量に投与して最悪の環境で生き延びさせた魚、その中でも特にひどい一例がこれだ。

在る中国人の企業家は、中国政府からアカシアの自然保護林を借り受けた。そして、抗生物質も、蜂蜜に鉄と鉄汚染をもたらす金属製の保存容器も使わずにこの自然保護林で養蜂を行うことに賛同した四五人の養蜂家を集めた。だが彼の骨折りは、さんざんな結果に終わってしまった。競合相手を嫌った地元の養蜂家十五人に待ち伏せされ、殴られて脳しんとうを起こしたままその場に置き去りにされたのだ。

このすぐあとに著者はほとんどの中国人は完璧に潔癖だろうと書いて、ただし最後はこう締めくくられている。『中国産の水産物はまったく口にいれたくはないし、中国産のはちみつを口に入れるとしてもその前にすごく迷うことだろう』まったく同感である。正しいことをやろうとして袋叩きにされる世の中じゃやっていけないんだぜ!

オマケでニホンミツバチの凄さや、ミツバチの飼い方などを紹介している。ニホンミツバチオオスズメバチを倒すのを初めて知ったのは漫画『サバイビー』でのことだった。物凄く面白かったのに打ち切られてしまったのである。もう一度読みたいな。