基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

遺言

岡田斗司夫著。講演で話した全六回の内容を元に、六章として構成しなおされた一冊。内容は、ガイナックス社長にいかにしてなったか──というところから、アニメをいかにして作ってきたか、どのようにしてアニメを作ってきたか、ナディアはこう作った,DAIKONⅢのOPのテーマ、意図、作品にとってテーマはなぜ必要か、王立宇宙軍の細かい意図、富野宮崎庵野などといった超大物たちとのやり取り、全てが書かれています。

なぜ岡田斗司夫ガイナックスをやめたか、というあたりは、割とさらっと流されてしまっているんですけど…。それでも往年のガイナックスファンは、必読といっていいレベルで充実しています。特にアニメノキャプチャを使って、「これはこういう意図で〜」と説明してくれるのは、普段まったく目にする機会がないので面白かったですね。

つっても僕、その頃のガイナックス作品で知ってるのって、『トップをねらえ!』しかないんですけど。今も昔もそこまでアニメが好きなわけでもないので、きっとこれから先も観ることはないんだろうなぁ。でも知らなくてもストーリーを一から十まで解説してくれるので演出意図自体はわかるんですけどね。

きっちり面白かったです。たとえば、「作る側からみたテーマの話」とか。たとえば、自動車を作る際に、作る側からすれば設計図が必要です。でも乗る人には設計図など必要はない。ちゃんと走ってくれればそれでいい、なおかつ気持ち良く走れれば十全です。作品にとってのテーマっていうのは、この設計図に当たるというわけです。

僕も何度か友人と話をしながら「こんな話を作ったら面白いじゃないか! 新しいぜ!」と色々物語的なアイデアを練っていたことはあるのですが、結局書くということになるともうめんどうくさい。話しているうちが一番楽しくて、実際書くのはひどくおっくうなのですね。何しろ予想していない問題は次々と出てくるし、大体毎日それに時間が取られます。しかも発表したところで何かリターンが帰ってくるわけでもない。

テーマとは、そこで終わらない為の、「なぜ作るのか」という動機そのものであると言います。特に映画作製なんかだと、100人以上の人に対して制作のモチベーションを保ち続けなければならない。なにもない段階で「この作品はこうなんだ」と説得し、「素晴らしい物が出来る」「あなたたちがやっているのは価値ある行為である」というように、自分自身をも鼓舞しなければならない。

テーマっていうのは、実は作る人に必要なんですね。見る人ではなく。これは今まであんまり考えてなかったなぁ。言われてみれば当たり前の話なんですけどね。要するに昔、話をしながら作品を作ろうとしていた僕にとってはこのテーマが何一つなかったわけだ。

本書では最初に岡田斗司夫が、DAICONというSF大会を開催する実行委員になって、庵野、山賀、赤井、という凄まじい三人とチームを組み、DAICONのOPに上映するアニメーションを作ろうとする話があります。で、このたったの3分ぐらいのアニメなのですけど、本書の解説を読むと凄まじいぐらい意味が詰め込まれているんですね。

これで埋め込めているかな? 最初に飛行機が飛んでくる。この飛行機が象徴しているのは「SF業界の流れ」である。これが自分の方に飛んでくる。女の子は自分たちである。飛行機から降りた人に、コップを渡される。こぼさないように水を持っていけというわけですが、つまりこれが当時持ち回り制で毎回担当が変わっていたSF大会を無事完遂させよという命令の象徴である──

というように続いて行くわけですが、いやーすごい。これは一観客としてみたらたぶん気が付かないでしょうね。何割かは気が付くかも知れないけど、全部の仕掛けを理解するのは不可能だと思う。面白いのが、製作者は思い付いたことを全部ガンガン入れられるんですよね。一見突拍子もないようなものでも、全部意味付けできるわけです。

当然、観ている方はそこまで気が付きません。じゃあ一つ一つの場面に、気が付かれない意味を挿入していくのには意味があるのかと言えば、あるんでしょう。そこには気が付かないなりに、「何か意味の繋がりがあるような気がする」ぐらいの一貫性は感じられる。結果、クォリティがあがるんですね。

ああそうか、テーマっていうのはそういうものなんだな、と読んでいて結構納得しました。僕が個人的に読んでいて、一番に面白かったのはここですね。あとは宮崎駿の話とか、お尻を触ってくる富野監督の話とか、とても現実の存在とは思えないような庵野秀明の話とか、もりだくさんです。

アニメが好きな人だけじゃなく、クリエイター志望の人にも必見の一冊。

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