基本読書

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オタクの息子に悩んでます 朝日新聞「悩みのるつぼ」より

朝日新聞には悩みのるつぼというコーナーがある。このコーナーでは毎週一回訪れ、4人の回答者が持ち回りで回答していく。この本はその中でも岡田斗司夫さんの回答をまとめたもの……ではなく、どのようにして回答を導き出してきたかを解説する「問題に対する考え方の技術書」である。回答集も巻末にあるので間違いではないのだが。で、悩みに対する発想が今まで考えたことのないもので、大変おもしろかった。

岡田斗司夫さんといえばアニメ会社ガイナックス社長だったりオタキングとして有名なのだがやっていることは恐ろしく胡散臭い。フリーExという、社員がお金を払う会社をつくって評価経済社会の新しい仕組みを作っているなどというが、傍から見ていると宗教と何ら変わらない組織でぶっちゃけ近寄りたくない、怪しげな人物だと個人的には思っている。

しかし一方で僕は岡田さんの書くものがめっぽう好きだ。信じる信じないは別としておもしろい。不思議と。なぜなら、岡田さんはめちゃくちゃ考えて、どんな思考の流れなのかが終えるからなんだよね。いやいやもちろん誰だって考えてはいると思う。でもたとえばだけど「どこまで考えるか」っていうのは人によってばらつきがあるわけだ。

たとえばこの悩みのるつぼだったら岡田さんはまず「どうやったら他の3人よりおもしろいことが書けるか」という問いをたてて、分析し「これだったらかぶらない」であろうカラーを打ち出していく戦略を立てる。まあ正直言ってそれぐらい当たり前だろう、とも思うんだけど一方で他の3人は文学者だったり社会学者経済学者だったりして、元から「思考のフレーム」がある意味決まってしまっている人達なんだよね。

人の意見なんてものは容易く環境や場や経験に左右されてしまうので、立ち位置がはっきりしている人間ってのは扱いやすいものの予想外の一手というか臨機応変な手段はうちだしにくいものだ。なので意外とこういう「自分のカラーを状況に合わせてどう変えるのか」っていうそもそもの戦略は見過ごされがちだったりするのかもしれない。

で、その後も「こういう戦略で悩み相談をやっていこう」っていうのを長々と考えていくんだけど、それが合っているか間違っているかに関わらず「道筋」がある。道筋があるから読んでいてわかりやすいし、なんか変だなと思うこともできるし、何より「こういう風に思考するのか」とわかる。楽しむルートが複数容易されているので、良いことを言っているか言っていないかに関わらずおもしろい。というのが今のところ僕が岡田斗司夫さんを胡散臭いと思いつつ本を読んでしまう理由の自己分析。

長い前置きになってしまったけど内容について。僕は悩み相談って、黙って頷いて聞いて笑ったり泣いたりして共感を示すのが一番で、それに対して「回答」を与えようとするのは無駄だとずっと思ってたんですよね。たとえばこんな悩みがあるとしますよ。超省略して「父親が汚くてだらしなくて嫌いです。」こんな問題に対する答えなんて3ルートぐらいしかなくてそんなの言われるまでもなくわかってるはずじゃないですか。

我慢できないぐらい嫌いならがんばって出ていけばいいし。家から出てってお金を必死に働いて稼ぐほどにはきらいじゃないんだったら家にいればいいし。それでもなんとかしたいんだったら細々とした手を打っていくしか無い。会社をやめて夢を追い求めようか迷っているという相談だって同じですよ。打つ手なんて3種類ぐらいしかないし、本人だってわかってるはず。

それで悩み相談にくるんだとしたらもう問題はひとつで、「選択肢はいくつかあるけどどれも選びたくない、選べない」から相談にくるんだ、だから相談を受ける側は共感を示して一緒に怒ることでいずれ自分で選ばざるをえないような状況に進展するまで緩衝材になってあげればいい、と思っていたわけですよ。

でも岡田斗司夫さんの回答は違っていて、「相談者自身も見えてなかった選択肢の提示」を行なっている。読んでいて結構心に残ったのが「上司が部下のTwitterを見つけちゃってどうしよう」という相談に対する回答だった。その部下はTwitterに赤裸々に日常を書いているので上司も自分の悪口が書かれたら嫌だなあみてるぞっていったほうがいいのかなあと思っている。

僕だったらまあ「まあ言いたかったらいえばいいしいいたくなかったらいえばいいんじゃない。でも悪口言われた後だと言いづらいし相手もつらいから先に言ったほうがいいかも」というだろうと思った。岡田斗司夫さんの発想はフレームを拡張していて「上司だからではなく、同じネットユーザとして日常をそのまま書くのはリスクが高いからと伝えなさい」という。

真の悩みへの回答とは質問者が「想定もしていなかった視点」を提供することにあるのだ。僕にはその視点が欠けていたなあと読んでいて反省しました。「相談」に「どう回答するか」っていう話ですけど「自分の悩み」に対しても使えるので、誰にでも普遍的にオススメです。

オタクの息子に悩んでます 朝日新聞「悩みのるつぼ」より (幻冬舎新書)

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